世を騒がす米中貿易摩擦

2018/04/27

◆制裁、報復、そして報復の報復

市場が米国と中国の貿易摩擦を懸念している。下手をすると貿易戦争に発展してしまう可能性を否定できないからだ。最初は、3月初に、米国が鉄鋼とアルミの輸入に追加関税を課す方針を発表したことだった。安値による輸入の増加は、米国に安全保障の面で深刻な影響をもたらしているという理屈だ。

これ自体は中国を標的にしたものではないし、実際、中国からの輸入の比率はほんの数パーセントに過ぎない。しかし中国は敏感に反応した。3月23日に米国がこの輸入制限を発動すると、中国は4月2日に報復関税を発動し返した。米国から輸入する豚肉やワインなど128品目に追加関税を課すものだ。

その先は米中両国の殴り合いのようなものだが、4月3日に、米国が中国による知的財産侵害への制裁関税の原案を発表した。産業用ロボット、航空宇宙、自動車などハイテク製品1300品目に25%の関税をかけるというものだ。対象となる輸入額を500億ドルと想定する規模である。中国はすぐさま反撃した。翌4月4日、こちらも対象輸入額を500億ドルとする106品目に25%の関税を課すというものだ。農産品が目立つが、自動車や飛行機も含んでいる(半導体は入っていない)。

さらに4月6日には、米国が1000億ドル相当の追加関税を検討していると発表した。対象が合計で1500億ドルに広がれば、中国からの輸入総額(5000億ドル)の3割にも及ぶことになる。中国も直ちに追加関税への報復方針を発表した。ただ少し変化が見られるのは、それまでの「同じ強さ、同じ規模で」報復するとは言わず、「総合的な対策を取る」と言ったことだ。確かに、中国が輸入額の対象を1500億ドルに広げてしまうと輸入の全額になってしまうという事情はあろう。

こうした報復合戦がエスカレートして、本格的な貿易戦争になるかもしれないという恐れが、とくに株価を下落させてきたことが目立つ。ただし他方で、市場の懸念を和らげる話も出てきている。習近平主席は4月10日の講演で、「国内市場を外資にさらに開放する方針を示した」(4月10日付 日本経済新聞夕刊)。具体的には、「中国で証券や保険、自動車製造を営む場合に外資の過半出資を認める」(同)というものだ。また、「自動車などの関税を下げて輸入を拡大する方針」(同)も示した。米国に対して、報復ではなく交渉で問題を解決しようという意思を表明したものだと見られる。トランプ大統領も、ツイッターにこれを評価するコメントを書き込んでいる。こういう報道があると株価は一転、大きく反発するのだ。

◆貿易赤字が問題なのか

米国が仕掛けたこの争いだが、その意図はなんだろうか。秋の中間選挙を意識した点数稼ぎだと言われたりしている。実際、足元で政権の支持率が少し上昇していることに影響しているのかもしれない。

トランプ大統領に極めて近いと言われているロス商務長官は、貿易赤字を減らせば経済が成長し、雇用も増えると説いている。「GDP=消費+政府支出+投資+純輸出」なので、貿易赤字が減れば純輸出が増え、経済が成長するというわけだ。そのために、米国が輸出を増やし、輸入を減らすことを妨げている貿易相手国の「不当、かつ不公正な」要因を取り除くのだという理屈になる。

しかし貿易赤字は悪、黒字こそ望ましいという主張が誤っている理由はいくつもある。その1つは、上の式にあるGDPの4つの要素は互いに独立しているわけではないということだ。輸入が減れば純輸出が増えるのは確かだが、中国からの輸入を減らしても米国の輸入全体が減少するとは限らない。また輸入と消費には密接な関係があって、輸入総額を減らしたければ消費を減らす必要があるし、その場合にはGDP自体が減少してしまうことになりかねない。

また、輸入品に高い関税をかければ、そのコストを負担するのは米国の家計であり、企業だ。競争力を失っている企業を救済しようとする政策が、他方で、関税によるコスト上昇に直面した企業の雇用の削減につながることになる。長い目で見れば経済全体の競争力を低下させることになるし、短期的にも相手国の報復措置で輸出が減ってしまう悪影響も避けられないだろう。

そうした理屈を、仮にトランプ大統領が理解していなくても、彼の周りには十分わかっている人たちはいるはずだ。中国による知財侵害はあるとしても、貿易戦争を引き起こしてしまえば、勝利者のない争いになることは明白だ。だから米国の真意は、まず高いボールを投げておいて、米国に有利なディール(交渉)に持ち込むことなのかもしれない。

◆これは解決する問題ではない

中国は「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」という政策を掲げている。2015年から始めたものだが、2049年の建国100周年を視野に、「世界一の製造強国」になるという長期戦略の一環だ。2025年までに「世界の製造強国入り」を果たし、2035年までに「世界の製造強国の中位」に位置し、2045年までに「製造強国のトップ」になるという計画だ。

「2025」では、産業用ロボットや航空宇宙などをはじめとする10大産業を重点的に育て上げることを目指している。その過程で、基幹部品や基礎材料の自給率も引き上げようとしている(20年:40%、25年:70%)。中国のこうした動きに米国はかなり脅威を感じているのだろう。4月3日に原案を公開したと先に紹介した米国の対中国制裁関税は、まさに中国のこの10大産業を狙い撃ちしたものではないだろうか。

とはいえ、合計すると世界のGDPの4割を占める2大大国は、民間のレベルで密接な結びつきがある。米国には米国人と米国企業だけ、中国には中国人と中国企業だけがそれぞれ分かれて存在していて、今その両国の間に貿易摩擦が生じている、という単純な話ではない。振り上げた拳を振り下ろせば、自らも傷つくことは避けられない。交渉こそが求められるのだが、交渉すれば決着する問題でもないだろう。今年も来年も、その先もずっと、摩擦がなくなることはないと覚悟しよう。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2018年4月13日より転載)

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