国債は資産でもあると言うが……

2018/06/27

◆日本の国債は家庭内借金?

政府が発行する国債は、そのほとんどが国内で消化されている。ひところの95%から多少下がってはいるが、今でも約90%は日本人が持っている。国債も債券だから、発行している者にとっては負債だが、それを保有している者にとっては資産だ。1000兆円もの借金が積み上がっている一方で、ほぼそれに見合う資産を日本国民が持っているのだとすれば、何ら問題ないという見方もできる。

この見方に従えば、借金である国債を償還する場合、政府は国民から税金の形で金を吸い上げて国民にそれを支払う(国債を償還する)。お金が国の中で右から左に移動するだけで、全体としてみれば、国民のお金は増えも減りもしない。要するに日本の国債問題は「家族間借金」みたいなもので、大騒ぎするような話ではない、という考え方だ。

◆償還のために増税しても景気は悪化しない?

わが国の場合、日本国民が国債を保有しているといっても、個人が直接保有している分はわずかだ。基本的には、個人が金融機関に資産を預け、金融機関がそれを国債で運用するという形になっている。ただ個人は自分のお金を金融機関が何で運用しているかということには、あまり関心を持っていないのが実情だろう。

さて国債を償還するために増税が行われると、豊かな人ほど多くの税を取られることになるだろう。一方、金融機関が保有する国債が償還されると、それを間接的に受け取るのは広く一般国民だと言える。これを「金持ちから税金を取って普通の人に払う」のだと捉えれば、所得再分配に寄与するとすら言えなくもない(ちょっと苦しい説明か!?)。国債が国内で消化されている限り問題ないと言う人たちは、こんな風に考えているのではないか。

ただ、増税して国債を償還することが現実的かと言えば、勿論そんなことはないだろう。というのも、「増税→国債償還」はマクロ的には景気に中立だとしても、たとえば消費税率を3%でも5%でも必要なだけ引き上げて国債を償還すると言い出せば、国民は大反対するに違いないからだ。実際、安倍政権は税率を2%引き上げることすら2回も先送りしてきたし、来年の引き上げで景気が悪化しないように(予算措置を含む)万全の対策を検討しているのだ。いくら「あなた方が保有している国債」を償還するためだと説明しても、大幅な増税を国民が抵抗なく受け入れるとは考えられない。

◆やはり国債は経済の重荷

国民が大反対するのは、経済に対するリテラシーが低いからだろうか。実はそうではない。マクロ的に見て景気に中立だというのは、一連の「国債発行→消化→歳出→増税→国債償還」という取引全体を通して成り立つ話であって、個々の取引が景気を浮揚させたり、逆に下押ししたりすることも避け難い現実なのだ。

具体的に考えてみよう。説明を単純化するために、国債は国民が直接購入することにする(間接的に保有しても結論は同じ)。まず、政府が国債を発行して資金を調達する。目的は歳出を行うためだ。歳出する相手は国民だから、歳出の分だけ国民の預金が増える。結果として景気浮揚につながる。一方その背後では、発行された国債を国民が購入している。国債を購入した国民の預金が、銀行を通じて政府に渡る。それを政府が歳出に充てるので、再び国民に預金として戻ってくることになる。

以上の過程で国民に起こったことは、今や国債という資産を保有していることだ。それを手に入れるために預金を手放した人がいるが、見合いで国債を手に入れたのだから、彼の資産は中身が変わっただけで総額は不変だ。他方で、歳出を受け取って預金を増やした人がいるので、国民全体では資産が純増したことになる。

次に、政府が増税して国債を償還するとどうなるか。まず増税の分だけ国民の預金が減る。このお金が銀行を通じて政府に入り、政府はそれを国債の償還に充てる。その結果、国民が保有していた国債が償還されてなくなり、代わりに償還金の形で国民の預金が増える。この「増税→国債償還」の過程では、国民の預金は「減って」「増えて」チャラ。そして国債がなくなるので、国民の資産は純減する。

結局、「発行→消化→歳出」の過程で国民の資産が増加するが、「増税→国債償還」の過程では資産が減少して、最終的にはチャラというわけだ。しかし考えてみると、この2つの過程には時間差がある。後者の過程で景気にブレーキがかかることは避けられない。

さらに、やはり「国民」をひとかたまりで考えてしまうのは不適当だ。「増税→償還」の際、お金は国の中で右から左に動くのではないからだ。納税する人の預金(資産)は減少するが、償還を受ける人は資産の中身が国債から預金に変わるだけで、資産の総額は変わらない。結果として国民の資産は減少するのだ。

◆「1000兆円の資産」の憂鬱

国債発行残高がラフに言って1000兆円あるということは、1000兆円分の「景気浮揚効果」はすでに出てしまっているということだ。もしこの1000兆円を償還しようとするなら、少なくともその大半は増税で賄わざるを得ないだろう。しかしそれは景気を悪化させるだけのプロセスになる。

「日本では国債の9割は日本人が持っているから大丈夫」という自信には、実は全く根拠がないことは明らかだ。「国債は資産でもある」のは嘘ではないが、今ある1000兆円は、景気浮揚効果を持たない「出涸らし」のような資産なのだ。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2018年6月15日より転載)

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