「戦後最長」が見えてきた景気回復

2018/08/02

長いが、しかし弱い景気回復

下のグラフは景気動向指数(一致指数)の推移を示したものだ。生産や出荷、消費、雇用、企業収益など9つの経済指標を合成して作られており、景気変動の大きさやテンポが分かる。1985年からのこのグラフの何本かの帯は景気の後退局面(不況期)を示しているが、指数が低下している期間とほぼ一致しており、この指数の動きがまさに景気の波を表していると理解することができる。

景気動向指数(一致指数)の推移

最も近い不況期は2012年11月に終わっているので、同年12月以降、景気の回復・拡大が続いていることが分かる。その期間は現在までで5年半だ。グラフの中ほどにある「いざなみ景気」と表示された期間が、73カ月に及ぶ戦後最長の回復・拡大局面だ。したがって、今の景気が今年中に後退局面に入らなければその記録に並ぶし、年が明けても不況にならなければ、戦後最長記録を更新することになる。

ほぼ確実に記録更新が実現すると思われるが、それほど高揚感がないのも事実だ。それはこの指数が景気の「底」から現在まで、どれくらい上昇してきたかを見れば納得できる。底であった12年11月の指数は102.3、今年5月の指数は116.1、5年半の改善幅は13.8ポイントだ。これはグラフのどの回復局面よりも小幅で、中ほどの1999年2月から2000年11月までの、わずか1年10カ月続いた回復局面の改善幅(13.9ポイント)すら上回っていない。「今年の花火大会は、例年より長い時間楽しめることが謳い文句だったが、打ち上げた総本数はむしろ少なめで、盛り上がりに欠ける」といった感じだ。

低い天井がもたらす人手不足

グラフからわかる今回の回復局面のもう一つの特徴は、発射台が高い、つまり回復が始まる前の不況の底が浅かったことだ。結果として、景気が十分に回復する前に「天井」に届いてしまった感がある。その象徴が雇用だ。5月の完全失業率は2.2%まで低下し、有効求人倍率は1.6倍だ(求人数が求職者数の1.6倍)。数字は、日本経済が厳しい「人手不足」状態にあることを示している。

実際、今回の景気回復局面で雇用が増えてきたわけだが、その間の労働参加率の推移はきわめて興味深い。労働参加率とは人口のうち労働市場にいる人たち(就業者+仕事を探している失業者)の割合だ。15歳以上65歳未満の現役人口の労働参加率は、男性はほとんど上昇しておらず、女性が急上昇している。30歳代から40歳代に限ると、男性の参加率はむしろ低下傾向ですらある。また65歳以上の層では、男女とも参加率が上昇している。

要するに、景気の回復を反映して雇用は増えてきたが、現役世代人口の減少が続く中で、新たに労働市場に参入してきたのはもっぱら女性と高齢者だということになる。一般論として、こうした人たちは圧倒的に非正規の職に就くことが多く、賃金水準は相対的に低い。雇用が増えているのだから、世の中全体に支払われる賃金総額は増えているが、新たに賃金を得ることになった人たちの賃金水準が相対的に低いため、賃金の上昇率は低くなる。景気がいいと言われる割に賃金が伸びない一因だ。

他力本願でない経済成長を

現状は、高い発射台から、徐々に下がり続けている天井に向かって上昇し始めたら、早々に届いてしまったという感じだ。上昇(景気回復)の原動力は、当初は財政支出の拡大、消費増税をきっかけに2年ほど低迷が続いたが、この2年間は海外経済(輸出)に牽引されて今に至っている。それだけに、米国と中国を中心に深刻化する貿易摩擦問題は非常に悩ましい。何しろ世界最大の輸入国と第2位の輸入国が、相手からの輸入品に高い関税をかけて、結果として貿易取引を縮小させようとしているのだ。世界貿易の拡大をテコに成長している国々(日本もその1つ)が打撃を受けるし、先行きの不透明感から各国で設備投資が控えられれば、悪影響が長引くことにもなる。

日本は来年秋に消費税率の引き上げを予定している。政府は手厚い予算措置を講じて増税ショックを和らげる意向のようだ。こういうことを言うとお叱りを受けるかもしれないが、何かというと安易に財政から金を出して景気を持ち上げようとする姿勢を長らく続けてきたことが、日本経済を却ってひ弱にし、財政状況を悪化させてきた面があるのではないか。

我々には下がり続ける天井を押し上げることが求められている。それは生産性の上昇ということではあるが、端的には各企業がもっと稼ぐということだ。それはコスト削減によるのではなく、ライバルの収益を奪うことでもなく、自らの製品・サービスの付加価値を高めることで達成する必要がある。その結果は、賃金・企業収益の増加と税収の増加、つまり経済成長率の加速である。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2018年7月12日より転載)

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