ゴールが物価上昇でいいのか

2018/09/06

インフレが借金問題を解決(緩和)すると言われることは多いが、誤解だ。そうした議論は、たとえば物価が2割上昇すれば、所得も2割増加することを前提にしている。物価と所得がともに2割上がっても、実質的に豊かになるわけではないのでうれしくもないが、借金の実質返済負担は2割減少する筋合いだ。

能天気と言わざるを得ない。国際通貨基金(IMF)はベネズエラの物価が年内に1万倍になると予想した。では同国の所得も1万倍に増えて債務問題が一気に解決するのだろうか。あり得ない話だ。

1千兆円に及ぶわが国の財政赤字も、ハイパーインフレでは解決しない。なぜなら、ベネズエラも同様だが、ハイパーインフレの引き金は通貨の暴落であるからだ。通貨安がもたらす物価上昇は国内の実質購買力を奪ってしまう。物価上昇の原因が何であるかによって、経済への影響には大きな違いが生じるのだ。

わが国では、デフレを克服するためには円安が望ましいという考えが主流だ。しかし円安になれば、輸入量が変わらなくても海外への支払い額が増加する。その増加分が国内で価格転嫁され物価は上昇するが、国民が追加的に負担する分はすべて海外に流出する。「物価が上がる一方、実質所得は減る」のだ。物価を持続的に上昇させようとすれば持続的な円安が必要で、実質所得の流出も止まらない。

ベネズエラの真の問題は、通貨、ひいては政府に対する信頼の喪失だ。誰も自国通貨を受け取ろうとしないから、通貨価値が暴落し、ハイパーインフレが起こっているわけだ。まさに他山の石。物価を上昇させるためになりふり構わない金融緩和を続ける、目先の景気を優先して財政健全化の先送りを続ける、といった政策の行き着く先に望ましいゴールはない。

(2018年8月16日日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載)

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