名目GDP vs.実質GDP

2018/09/27

日本だけで減少が続く現役人口

図1は2000年から2017年までの17年間について、実質GDPの年平均成長率を日・米・欧(ユーロ圏)で比較したものだ。左側の「総額」の平均成長率では、わが国は1.0%と、欧米に比べてかなり見劣りしている。しかし、右側の「現役1人あたり」だと欧米を大きく凌駕していることがわかる。

図1 実質GDPの年平均成長率(2000~2017)の日・米・欧比較

実質GDP総額の成長率                    生産年齢人口1人あたり実質GDPの成長率

図1 実質GDPの年平均成長率(2000~2017)の日・米・欧比較

(注)2000年~17年の単純平均値
(出所)世界銀行

どういうことなのか。欧米との綱引きの勝負だと考えてみよう。日本はボロ負けだ(左側)。それは綱を引く人数が違うからだ。日本に比べると欧米の引き手の数は多い。そこで同じ人数同士で、かつ引き手を現役層だけに限って勝負してみると(右側)、今度は日本のボロ勝ちだ。日本が欧米に勝てないのは、現役人口が少ないからであって、現役一人一人の力では、むしろ日本が勝っていると言える。

グラフは成長「率」の比較だから、もう少し正確に表現すると、日本の成長率が低い(左側)のは、生産に携わる現役人口の「増加率」が欧米に比べて低い(日本だけマイナス)からだ。日本が勝る現役1人あたりの実質GDP成長率は、現役世代の生産性の上昇率に近い概念だ。だから、よく聞かされる話とは違って、この比較では、日本の労働生産性の「上昇率」は欧米よりもむしろ高いのである。

作る割には増えない所得

一方、図2では名目GDP成長率について、図1と同様の比較を示している。印象は様変わりで、わが国のあまりに低い成長率に驚かされる。

図2 名目GDPの年平均成長率(2000~2017)の日・米・欧比較

名目GDP総額の成長率                      生産年齢人口1人あたり名目GDPの成長率

図2 名目GDPの年平均成長率(2000~2017)の日・米・欧比較

(注)2000年~17年の単純平均値
(出所)世界銀行

実質GDP成長率と名目GDP成長率で、なぜこのような差が生まれるのか。自動車だけを生産している経済を想定してみよう。その中で年間に何台生産したかというのが実質GDPだ。他方、名目GDPは、その自動車を販売して、総額いくらの所得が生み出されたかを示している。もちろん、その所得は自動車会社だけのものではなく、政府(税金)と家計(賃金)と企業(収益)の3者で分配される。

このたとえを続けると、わが国の自動車の生産台数の増加率(実質GDP成長率)が欧米に比べて低いのは、自動車の生産に携わる人数(現役人口)が減り続けているからだ。図1で見たように、現役1人あたりの生産台数の「増加率」では欧米を凌駕している。しかし、それらを販売して得る所得の増加率(名目GDP成長率)が著しく見劣りする。それはなぜか。言うまでもなく、わが国だけ自動車の値段が下がり続けてきたからにほかならない。これが「デフレ」である。

もっとも、デフレだから自動車の生み出す所得(名目GDP)の伸びが低いのではない。よい自動車を生産しても、それに相応しい価格で販売できてこなかったことにこそ問題があるのだ。名目GDPは、全額が広い意味での企業活動の成果だが、その伸びが低いとどうなるか。政府の取り分は自動的に決まるので、企業が自分の取り分(企業収益)を増やそうとすれば、家計の取り分を減らすしかない。その結果として家計の所得は増えず、消費が増えず、自動車販売(名目GDP)も低迷してきたのである。

そうした環境下で、個々の企業が、せめてわが社だけでも取り分を増やしたいと考えてやったことが「値下げ」だった。しかも、それを皆がやったためにデフレにつながったのだ。デフレが原因で所得が伸びないのではない。所得が伸びない中で、値下げによってシェアを拡大し、自社の所得を増やそうとする行動がデフレという結果を生んでしまったのだ。

ではどうする。「いいモノ、いいサービス」を「より安く」ではなく、「相応しい価格」で買ってもらう必要があるだろう。そのためのマーケティング戦略やブランド戦略が求められているのである。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2018年9月12日より転載)

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