日米自動車摩擦は再燃するか

2018/12/03

景気のカギを握る「数量」

2012年12月から始まった今回の景気回復は来月12月で73カ月となり、これまでの戦後最長記録である「いざなみ景気(02年2月~08年2月)」に並ぶ。年が明けても回復・拡大が続いていれば記録更新だが、ほぼ確実にそうなると見られている。

景気は上昇したり下降したり、波を打つものだが、その波を生みだす最大の原動力が「生産」だ。とくに、主に製造業の生産を実質(数量)ベースで示す「鉱工業生産」の波と景気の波は、ほぼ重なっている。鉱工業生産の増減が景気の波を作っているのである。

わが国においては、この鉱工業生産の増減を左右する最大の要因は「輸出数量」の動きだ。金額ではなく数量が重要なのだが、輸出数量が増えると国内でそのための生産が増え、仕入れが増え、雇用が増え、設備投資が増えて、景気が上向くことになる。逆なら逆だ。

今回の景気回復局面においても、輸出数量の増加が生産を増加させ、景気を押し上げてきたことが確認できる。景気を考える上では、数量(実質)ベースの輸出や生産が極めて重要なのだ。

25%の追加関税で何が起こるのか

さて来年1月から始まるとされる日米の物品貿易協定(TAG)の交渉では、貿易不均衡の改善に向けて、米国は様々な要求をぶつけてくるだろう。農畜産物をもっと買ってほしいという要求もあるだろうし、輸出入の台数に極端な差がある自動車貿易に対する米国の関心も強いものだろう。わが国では、この点に関して、米国(トランプ大統領)が不均衡改善のためという理由で、日本の自動車輸出に大幅な関税を上乗せすると脅してくるのではないかという不安が募っているようだ。トランプ大統領のこれまでのやり方を見ると、そうした事態に立ち至ることは十分ありうると考える人が多いからだろう。

自動車産業への依存度が高いわが国経済にとって、たとえば25%もの追加関税が課される状況は悪夢そのものかもしれない。しかしやや冷静に考えてみれば、関税の大幅な引き上げはそれほど悲惨な事態をもたらすわけではなく、むしろ関税を避けるために、わが国が自主的に輸出数量規制に踏み込んだりする方が、よほど経済に及ぼす悪影響は大きいと考えられる。

単純な数値例で考えてみよう。1ドル=100円のドル円レート水準の下で、1台100万円の自動車を米国に輸出しているとする。米国での販売価格は1万ドルだ。ここに25%の関税が課されると、販売価格は1万2500ドルに跳ね上がる。これでは売れ行きは大幅に落ち込むだろう。

そこでこの場合には、メーカーは輸出価格を引き下げようとするに違いない。8000ドルに下げれば、そこに25%の関税が乗っても販売価格は1万ドルだ。売れ行きは維持される。もちろん、円ベースで見た輸出メーカーの受け取り額は80万円に激減する。しかしこうした状況下では、為替レートは大幅な円安に振れるだろう。仮に1ドル=125円になれば、8000ドルは100万円だ。つまり、関税が課された場合、輸出メーカーは値下げという対応を取らざるを得なくなるだろうが、起こるであろう円安のおかげで、円ベースでは輸出の受け取り金額の減少が緩和されるということだ。

輸出数量を自主規制してはいけない

一方、25%という数字のインパクトに恐れをなして、日本サイドから輸出台数の自主規制を打ち出したらどうなるか。それが2割であるにしろ、3割であるにしろ、そのまま生産台数の減少につながる。また、ここまで完成車だけの話をしてきたが、貿易交渉においては、当然、自動車部品の輸出も対象になるだろう。両者の生産が実質(数量)ベースで大きく減少することとなり、冒頭で説明したように、それはそのまま景気の悪化につながってしまうのだ。

個々の企業にとっては、値下げを余儀なくされて売上げや収益が減少することも、生産数量が減ってしまうことも、どちらも困ることであるのは確かだ。しかし、マクロ経済で見ると、膨大な裾野産業を抱える自動車メーカーの生産数量が減少することの痛手のほうが遥かに大きい。

関税を課されたら円安になると書いたが、本当にそうなるかは、もちろん保証できない。前述の例でいえば、輸出価格を2割引き下げることが、そのままメーカーの売上げや収益の減少につながる可能性も否定できない。それでも、そのことがマクロの景気の悪化に直結しない懐の深さがあるのだ。

2000年以降の為替(ドル円レート)と輸出数量の関係をグラフにしてみると、1ドル=130円から80円まで、為替レートは大きく振幅していることがわかる。興味深いのは、そうした為替変動の下で、「円高なら輸出数量が減少して、円安になれば輸出数量が増える」といった因果関係は全く観察されないということだ。為替と輸出数量との間に「因果関係は見られない」のである。

これは、個々の輸出企業の努力もあるが、一般論として輸出先での販売価格をあまり変えないというわが国企業のやり方を反映していると思われる。つまり、円高の局面では円ベースの価格を引き下げて現地の販売価格を維持し、円安の局面でも現地価格を据え置くといったものだ。結果として、為替変動で輸出メーカーの名目ベースの業績は大きく変動するが、輸出(生産)数量の変化は極めて小さいので、マクロで見た景気変動への影響もほとんど見られないと言えるのだ。

追加関税にしろ、自主規制にしろ、ないに越したことはないのだが、仮に避けられないような事態が生じるのであれば、国内生産の減少を回避することを優先すべきだと思う。自動車メーカーや部品メーカーからは叱られそうだが、マクロから見たあるべき対応は追加関税の受け入れだ。追加関税など課されたら大変なことになると事前に大騒ぎしておいて、ことが起こった時の市場での大幅な円安を引き出すのも手かもしれない。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2018年11月15日より転載)

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