「超完全雇用」でなぜ金融緩和なのか

2018/02/08

現下の日本経済を見ると、まことに不可思議なことが起こっている。

労働市場では完全失業率が歴史的に低い2%台に低下し、超完全雇用ともいうべき状況にあるのに、日銀の金融政策は依然としてゼロ金利維持という緩和政策が続いている。国債買い入れも依然として高水準だ。

すなわち、雇用情勢と金融政策がミスマッチ状態なのだ。これはなぜ起こっているのか。

まず、超完全雇用で人手不足の業種が増えているのに平均賃金が上がらない。建設業や接客・給仕、自動車運転などの人手不足が激しい業界・職種(有効求人倍率は3~4前後と高い)では確かに賃金は上がっているが、有効求人倍率が0.35と低い事務職では依然として下がっている。事務職は新規求職者の3割を占めるため、平均賃金は上がらないのだ。

このような職種別のばらつきに加え、高齢者やパートの賃金低迷がある。高齢社会を迎え、60歳を過ぎても雇用は確保されるようになったが、給与が大きく低下する場合が多い。ピーク時の3割に給与が低下しても、「仕事がないよりはまし」として受け入れる高齢労働者も多い。また、女性就労者が増えているが、男性に比べるとパート比率が高く、これも賃金上昇を抑える要因になる。最近、コンビニで働く人は外国人パートが圧倒的に多く、日本人従業員を見かけることがほとんどなくなったが、これなども賃金抑制の要因になっていると思われる。

このように、労働市場はミスマッチの拡大や高齢化、女性や外国人就労による低賃金労働の増加など、大きな構造変化に見舞われており、それが原因で「超完全雇用なのに賃金が上がらない」という異常事態が続いている。安倍内閣は、今年の春闘で3%の賃上げを実現するように産業界に要請しているが、この対象となるのは概ね大企業の正規社員に限られるだろうから、労働市場の構造的歪みは是正されそうもない。日本経済の健全な成長のために必要なのは、このような労働市場の歪みを是正する構造改革なのである。

賃金が全体として上がらず、また、Eコマースの増加で商品の低価格化が進んでいることから、日銀の黒田総裁が公約として掲げる2%のインフレ実現は期待できそうもない。2%のインフレという公約が実現しない限り、当面、金融緩和は維持するというのが日銀の立場だが、本当のところは、「金融正常化をしたくてもできない」というのが現実だ。

それは、世界の金融市場がグローバルに統合され、中央銀行の動向が敏感に世界の株価や債券相場に影響するようになったからだ。超完全雇用の下では、中央銀行が金融引き締めに転じるのはマクロ経済政策の定石だが、現状では、日銀が不用意に引き締めに転じると世界の金融市場に激震が走る可能性があるため、なかなかそれを実行に移せないのだ。こんな状況があるから、黒田総裁は簡単には異次元金融緩和という「振り上げたこぶし」を下ろすことができないのである。

「超完全雇用」と「異次元金融緩和」が並立するという異常事態はいつまで続くのか。賃金はなかなか上がらないから、インフレは当面起こらないが、しかし、長引く異次元金融緩和の結果、余剰資金は間違いなく株式市場や不動産市場に流れており、それが株高やマンション価格の高騰を支えていることは否定できない。いつまでもこれを続けることもできず、かといって、不用意な金融引き締めは金融市場を動揺させる。

誰がなるにせよ、次期日銀総裁を待つきわめて舵取りの難しい政策課題である。

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