「聖地巡礼」が導く新しい観光まちづくりのかたち

2009/09/14
公共経営・地域政策部 主任研究員 妹尾 康志

「聖地巡礼」という言葉がある。
 宗教的に重要な意味を持つ場所(聖地)を訪問するというのが本来の意味であり、四国八十八箇所めぐりや紀伊山地の霊場と参詣道、海外でもサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)の巡礼路等がよく知られている。近年ではそれが転じて、自身が思い入れを持っている場所(「聖地」)を訪問する(「巡礼」)ことを指す用例も一般化してきた。
 本稿では、この「聖地巡礼」という観光行動をとりあげ、新しい観光まちづくりの可能性が示されつつあることを紹介したい。

「聖地巡礼」型観光(ピルグリム・ツーリズム)とは

 甲子園を「高校野球のメッカ」と呼ぶなど、特定の人々にとって重要な意味を持つ場所を「聖地」と呼称することは古くからなされており、そういった場所を訪問する行動も自然に行われている。故郷を訪問する「里帰り」も、広義にはその一種といえるだろう。
 文学や映画・テレビドラマ等における舞台を訪問する行動は以前から知られており、例えば、NHK大河ドラマの舞台となった地域では放映期間前後に観光客が増加することから、その経済効果がさまざまに推計、公表されている(注1)。また、「北の国から」における富良野市、「転校生」等のいわゆる尾道三部作における尾道市、「冬のソナタ」における韓国・春川市等の例では、中長期に渡って観光客を惹き付けているものとみられる。
 なお、外国人が「奥の細道」における松尾芭蕉の足跡を辿った事例も報告されている(注2)など、「聖地巡礼」型観光(ピルグリム・ツーリズム)とでもいうべき観光行動は、旧来より、また世界的にみても一般的なものであることがわかる。

漫画、アニメーション、そしてゲームによって見直された「聖地巡礼」型観光

 「聖地巡礼」型観光のなかでも、漫画、アニメーションやゲーム等(以下、アニメ等)に由来するものは長い間さほど注目されてこなかった(または、意図的に目を背けられていた)が、アニメ等が我が国の大衆文化として一般的な評価を獲得し、「らき☆すた」における埼玉県鷲宮町等の例が広く知られるにつれ、ここにきて脚光を浴びるようになった。ほかにもアニメ等に由来する「聖地」としては、「朝霧の巫女」における三次市、「おねがい☆ティーチャー」「おねがい☆ツインズ」における大町市、「ひぐらしのなく頃に」における岐阜県白川村、「かんなぎ」における宮城県七ヶ浜町等がある。
 このような「聖地巡礼」は、平成に入ってからの「美少女戦士セーラームーン」における赤坂氷川神社(東京都港区)か、「天地無用!」における太老神社(浅口市)等への訪問行動のいずれかがはしりとされることが多いが、これは報道機関が取り上げはじめた時期、そしてインターネット上で現象を遡及確認できる限界となる時期であることによったもので、実際にはもっと以前から行われていたと考えられる。例えば昭和50~60年代からの「軽井沢シンドローム」に描かれた喫茶店(長野県軽井沢町)への訪問行動等は、「聖地巡礼」であるといえるだろう。アニメ等によって「聖地巡礼」型観光全体が見直されたが、このような観光行動に対して「聖地巡礼」という名称を与えた功績は特に大きいと考えられる。
 なお、アニメ等に由来する「聖地巡礼」型観光においては、神社との親和性が驚異的に高い(注3)ことを紹介しておく。これはアニメ等の主要登場人物に巫女等が多く、なかには神様そのものという設定の場合もあることによるが、そもそも神社は信仰の対象として地域における中心的位置づけにある施設であり、地域に愛着を持つ者として「聖地」と呼ぶにふさわしいこと、誰にも開かれており参拝というかたちで自由な訪問が可能であること、絵馬等によって訪問の証を残すことができること等の理由を指摘できる。

「聖地巡礼」型観光による新たなまちおこし/まちづくりの可能性

 「聖地巡礼」型観光における最大の特徴は、訪問側である観光客がその場所や地域への強い愛着を持っているため、受入側である地域住民との間で地域の持つ価値が共有されやすいことにある。そのため、観光客と地域住民の間が単純な消費者と生産者の関係ではなく、協働の仕組みを構築しやすい点に、新しい可能性が指摘できる。実際、鷲宮町の例では、巡礼者向けの催しを開催するだけでなく、ともに地域のお祭りを楽しんだりする等の動きもあり、両者の協働関係がうかがえる。
 これまでは、観光による地域への効果を論ずる場合、観光客の増加に伴う地域経済効果に注目が偏っており、既述の通り、「聖地巡礼」型観光においてもその傾向は顕著であった。その結果、訪問側は地域資源を消費するだけの異邦人とみなされやすく、受入側は生活面や文化面で過剰なまでに防衛を意識しなくてはならなくなるなど、両者は対立軸でとらえられてしまう場合が多くみられてきた。しかし、「聖地巡礼」型観光が示す新しい観光スタイルは、双方が協働して地域資源を創造、維持していくことができる可能性を秘めている。これからは、各地で同様の取組が拡がりをみせると見込まれるが、両者がともに地域の価値を高めていくことで、それぞれに個性的な地域の維持と発展に大きく寄与していくことができるものと考えられる。
 このような新しい観光まちおこし/まちづくりの今後の展開に期待するとともに、微力ながら自分も協力していければ幸せである。

(注1)日本銀行鹿児島支店「「篤姫」の経済効果はどの程度?」(平成19年10月1日)、日本銀行京都支店「大河ドラマ放映が京都観光に与えた経済効果」(平成17年2月28日)等多数
(注2)株式会社UFJ総合研究所「観光資源を活用した中心市街地活性化に係る実態調査」(平成16年3月)
(注3)本稿で紹介した事例でも、「美少女戦士セーラームーン」氷川神社、「天地無用!」太老神社、「朝霧の巫女」太歳神社、「らき☆すた」鷲宮神社、「ひぐらしのなく頃に」白川八幡神社、「かんなぎ」鼻節神社等、神社が「聖地」とされている例が多数ある。

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