大きな「炭素赤字」を抱えている日本

2012/01/13
環境・エネルギー部 主任研究員 森本 高司

 本年2012年は京都議定書第一約束期間の最終年である。昨年12月に公表された温室効果ガス排出量速報値によれば、2010年度の総排出量は約12億5,600万トンであり、基準年比0.4%の減少となっている1。2008年のリーマンショックに端を発する景気後退により2008年度以降排出量が大きく落ち込んだため、京都メカニズムにおける獲得クレジットを含めれば第一約束期間における我が国の削減目標である基準年比-6%をここ3年間は達成しているものの、東日本大震災による原子力発電所の稼働停止によって2011年3月以降の排出量が大きく増加しており、削減目標の達成可否は今年のエネルギー消費状況にかかっていると言えよう。
 上述した2010年度の総排出量約12億5,600万トンのように、現在我が国の排出量として算定・公表されている値は、我が国の工場や事業所、家庭等において直接排出された「生産ベース」と呼ばれる排出量である。例えば日本国内の工場で温室効果ガスの排出を伴って生産された商品が国外に輸出され他国で使用されたとしても、使用場所に関係なく、商品の生産に伴う排出量は日本の排出量として計上される。逆も然りで、アメリカで温室効果ガスを排出して生産された商品が日本に輸入され日本で使用されたとしても、その分は生産地であるアメリカの排出量となる。
 この生産ベースの排出量に対し、商品が消費された国に当該商品の生産等に伴う排出量を割り当てる考え方がある。これを「消費ベース」の排出量と呼ぶ。消費ベース排出量の場合、日本から輸出され国外で使用された商品の生産に伴う排出量は輸出相手国の排出とみなし、一方日本に輸入され国内で使用された商品の生産に伴う国外での排出量は日本の排出とみなす。これは商品の生産に伴う温室効果ガスの排出を需要側に負わせる考え方であり、生産者よりも消費者の責任を重視した排出量であると言える。
 筆者も研究協力者として参画した(独)国立環境研究所の南斉規介主任研究員ら研究チームによる推計では、2005年における我が国の消費ベースの温室効果ガス総排出量は約16億7,500万トンであり、我が国の経済は他国で約5億4,100万トンに上る温室効果ガスの排出を誘発している2。私たちの経済活動に伴う排出量の約3分の1は日本以外の国で発生しているのである。他国で誘発された排出量の国別内訳を見ると、中国(約1億6,200万トン)、アメリカ(約6,500万トン)、オーストラリア(約3,500万トン)、サウジアラビア(約2,600万トン)の順となっている(他国における排出状況については文末の図参照)。我が国はアメリカや中国等の主要排出国が参加しない国際枠組みには意味がないとして京都議定書第二約束期間から離脱し、これらの国に対し新たな枠組みへの参加と排出削減努力を求めているが、上記主要排出国からの排出の一部は我が国の経済活動に起因しているのである。
 また、生産ベースと消費ベースの排出量を比べると、消費ベース排出量の方が約2億5,600万トンも多くなっている。すなわち、我が国は京都議定書で削減義務を負っている排出量に加え、約2億5,600万トンの温室効果ガスを他国で排出していることになる。この排出量を我が国が国際貿易を通じて他国から借りている分と考えれば、我が国は大きな「炭素赤字」を負っていると言える。
 地球温暖化を止めるためには、世界全体で温室効果ガス排出量を削減する必要がある。たとえ我が国における生産ベースの排出量が削減されたとしても、私たちの消費活動によって他国での排出量が増加していては意味がない。中国やインドなどの途上国における急激な排出量の増加の一因は私たち先進国の人間の消費行動にあり、決して途上国だけの問題ではない。途上国の排出増加を抑制するためには、そこで生産される商品を輸入して消費している私たち先進国の人間の行動変革も必要なのである。
 日本が地球温暖化防止に国際的に貢献していくためには、自国の生産ベース排出量を削減するのは当然のこと、省エネルギー・再生可能エネルギーに関する技術移転や能力開発等の途上国支援を進めるとともに、低炭素型の商品を積極的に選択する消費行動を推し進めることで、日本の経済活動に伴う他国での排出量も合わせて削減し、炭素赤字の解消を目指すことも重要である。

図 日本国内の経済活動に伴って誘発されている国別排出量(2005年)

図 日本国内の経済活動に伴って誘発されている国別排出量(2005年)

 (引用文献)
1. 環境省,2010年度(平成22年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について (外部リンク)
2. Nansai, K.; Kagawa, S.; Kondo, Y.; Suh, S.; Nakajima, K.; Inaba, R.; Oshita, Y.; Morimoto, T.; Kawashima, K.; Terakawa, T.; Tohno, S., Characterization of Economic Requirements for a “Carbon-Debt-Free Country” Environ. Sci. Technol., 2012, 46 (1), pp 155-163 (外部リンク)

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