観光振興のゴールは「地域の潤い」

2012/04/27
研究開発部(名古屋) 主任研究員 観光・交流・社会資本政策グループ長 田中 三文

「地域の潤い」を実現した成功事例~「鳥羽の台所つまみ食いツアー」

三重県鳥羽市に「海島遊民くらぶ」という伊勢志摩鳥羽地域の現地オプショナルツアーを企画、販売している企業がある。平成21年度にはエコツーリズム大賞(環境省)を受賞するなど、エコツーリズムにおいては国内でも先進的な取り組みをこれまでも実践している。同社の最近の人気商品のひとつが「鳥羽の台所つまみ食いウォーキング」である。鳥羽のまちなかをガイドの案内で歩きながら、海鮮問屋や寿司屋など鳥羽の台所をちょこっと覗いて新鮮な魚介類をつまみ食いさせてもらう。お店の主人やおかみさんとの楽しい会話、ガイドと参加者同士の会話など、常に笑いが絶えない楽しいツアーである。参加費は通常バージョンで2,000円(1時間)で、協力店舗にはもちろん協力費が充てられるが、地域への効果はここに留まらない。ツアーに参加した人たちが、そのつまみ食いをした店舗で参加費の数倍を消費するのである。その場で買わなくても後で通信販売で購入、お寿司屋さんには宿に戻ってから再び本格的に食べに行く。
「地域の潤い」を実現した成功事例~「鳥羽の台所つまみ食いツアー」 このツアーがきっかけとなりこれらの店にお金が落ち、地域が潤っていく。同社の狙いはまさにそこであり、単なるツアー客が集まり賑わいを生むことだけを目的とはしていない。同社は、「鳥羽の隠し魚」として未利用魚にも着目し、漁業者と飲食店、旅館との連携による地域の潤いにも貢献するなど、常に「地域の潤いこそが、観光の目的」としているところが素晴らしい。

観光振興の目的は地域の潤い

観光振興は今や多くの自治体で地域活性化のキーワードとなりつつある。しかし、各地の観光振興の目標に掲げられる多くは観光客数の増加のみであり、明確に地域の活性化=地域の潤いを掲げている自治体はまだ少ない。残念ながら、多くの自治体においては、観光客の増減に一喜一憂しているのが現状である。もちろん、観光客数の増加はひとつの指標ではあるものの、本来の目標はそこではないはずである。観光客は増加しても地域にお金が落ちない、お金が落ちたとしても利益があがらないでは、観光が地域活性化を牽引することはできない。つまり地域が儲からなければ、観光振興が継続され、まち全体が観光振興に取り組んで行こうという機運は生まれこないのである。観光振興の目的は、「地域の潤い」である。そこを間違ってはいけない。

地域一体となった観光への取り組み~同じステージに立てる場づくりを

ただし、「海島遊民くらぶ」のように観光振興の取り組みを地域の潤いにつなげていくのは容易ではない。行政だけが牽引しても民間が動かなければ潤いは遠く、民間だけが動いても各事業者の利益はあがったとしても地域全体の潤いまで届くには相当な力が必要である。では、どうするべきなのか。まず、地域としてするべきことは、地域の一体化である。少なくとも、観光振興に関わる自治体担当課、観光協会、商工会議所・商工会、一次産業関連団体など観光によって地域振興を図る、あるいは恩恵を被る主要団体・組織は一丸となって、事業の一本化・共同化・連携を図ることが必要である。「観光による地域の潤い」を目的として、各団体・組織がそれぞれの役割を発揮するとともに相互連携により、効果的かつ効率のあがる仕組みを作り、魅力創造と儲ける仕組みを検討し、相互の情報発信や受入の協働化などを実践することが求められる。
 そして、地域の一体化は団体間の連携で収束するわけではなく、大切なことは、様々な産業や施設、市民を含む担い手の人たちが同じステージに立って観光振興に関わっていくことである。その場を作り上げることによって新たな連携が生まれ、新たな観光ビジネスが生まれる可能性が広がっていくのである。観光による地域への潤いのために、まずは、地域が一体となれるきっかけとなる場づくりから始めることが重要である。

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