住基台帳制度改正を機に外国人住民の実態把握を

2012/08/22
研究開発第2部(大阪) 研究員 戸田 佑也

1.新たな在留管理制度と住民基本台帳制度の外国人への適用
 2012年7月9日より、日本に在留する外国人について、入管法の改正(注1)に基づく新たな在留管理制度が導入された。
 新たな在留管理制度は、入管法上の在留資格をもって日本に中長期(3ヶ月以上)在留する外国人を対象とした制度であり、同制度の導入により変更される主なポイントは(1)「在留カード」の交付、(2)在留期間の上限の延長(最長5年)、(3)「みなし再入国許可」の導入などである(注2)
 また、これに伴い、地方自治体による外国人登録制度は廃止され、外国人住民に対しても住民基本台帳制度が適用されるようになった。
 日本に暮らす外国人の在留に関する制度変更は60年ぶりとなり、こうした制度の導入は日本の外国人政策を考える上で大きな転換点となるものと言える。

2.不十分な外国人住民の状況把握
 これまで住民基本台帳制度が適用されていなかった外国人住民については、居住する自治体での外国人登録が義務付けられており、各自治体は外国人登録制度により登録された外国人を対象として各種行政サービスを提供していた。
 しかし、住居を移転する際などに登録申請を行わない外国人が多く存在し、外国人登録の情報と居住実態の乖離が大きく、就学や国民健康保険、児童手当など、自治体の行政事務に支障を来しているといった問題も指摘されていた。
 実際、今回の改正にあたり、各自治体が外国人登録の居住地情報に基づいて外国人世帯に「仮住民票」を送付したところ、宛先不明で返送されたというケースが数多く報告されている(注3)
 また、多くの外国人が居住している自治体が参加する「外国人集住都市会議」では、2006年に出された「よっかいち宣言」の中で、国に対し「適切な行政サービスを提供するために、外国人の管理のための制度である外国人登録制度を抜本的に見直し、住民基本台帳制度との一元化を図る」べきと提言されている(注4)
 これらのことから、多くの自治体において、居住状況をはじめとした外国人住民の実態把握は必ずしも十分には行われていなかったことが伺える。
 今回の制度改正によって、外国人にも住民基本台帳制度が適用されることとなり、外国人住民も日本人と同様に転出届及び転入届の提出が義務付けられるようになった(注5)。また、新制度では外国人が理由なく住所を届けない期間が90日を超えると、在留資格の取り消しや強制退去が行われる(注6)。そのため、今後は外国人住民による届出がより実態に即した形で行われ、自治体は居住地等の情報を正確に把握できるようになることが期待される(注7)
 これにより、自治体においては行政事務の合理化が図られるとともに、適切な行政サービスの提供が可能となる。外国人住民にとっても、住民基本台帳制度が適用されることによって(1)複数国籍世帯の証明書発行、(2)住所変更時における手続きの簡素化、(3)在留資格等に関する届出の一本化などのメリットがある(注8)

3.住民基本台帳制度の適用を契機として求められる外国人住民の生活実態の把握
 総務省が自治体に通知している「地域における多文化共生推進プラン」(注9)の実現や、「日本再生戦略」(注10)で言及されている高度外国人材の呼び込みにあたっては、外国人住民に対して魅力的な生活環境を整備することが大きな課題となる。こうした課題の解決にあたる上で、住民サービスを提供する自治体の役割は大変重要なものであり、各自治体がその地域に暮らす外国人の特性に応じた施策・事業を展開する必要がある。
 住民基本台帳制度の外国人住民への適用は自治体及び外国人住民の双方に一定の利益をもたらす制度変更と言える。しかしながら、外国人住民の住民票には国籍、在留資格、在留期間等が特有の事項として記載されるものの、それ以外に把握できる情報は当然のことながら日本人と同様である。そのため、住民票の登録情報から、自治体が地域に暮らす外国人住民の特性に応じた施策を講じるために十分な情報が得られるわけではない。
 そこで筆者は、今回の制度改正を契機として、自治体が居住地等の基本的な情報にとどまらず、外国人住民の生活状況や暮らしの中での意識、近隣住民との関わりなどの状況を把握することを提案する。
 外国人住民の生活実態を把握することで、彼らの求める行政サービスをより的確に提供できるようになるとともに、地域のまちづくり活動に外国人住民を巻き込みやすくなるものと考えられる。
 近年では、さまざまな自治体において外国人住民の実態や意識を把握するための調査が実施されている。新宿区や大阪市では、外国人住民だけでなく、受け入れ側である日本人住民に対する意識調査も併せて実施しており、外国人住民と日本人住民との共生を進めていく上での課題やその対応策を検討する上で活用できる調査となっている。また、「医療」や「子ども」など、テーマ・対象を絞った調査を実施している自治体もある。

図表 自治体による外国人実態把握調査の実施例
自治体 調査名 調査対象 調査年
札幌市 札幌市外国籍市民意識調査 市内外国人登録者2,000人(18歳以上) 2008
横浜市 外国人市民意識調査 市内外国人登録者5,000人(20歳以上) 2009
新宿区 新宿区多文化共生実態調査 日本人20歳以上2,000人、外国人20歳以上5,000人 2007
外国にルーツを持つ子どもの実態調査 6歳から15歳の子どもを持つ外国籍等の保護者及び子ども、区立小中学校に勤務する教員(管理職を含む) 2011
名古屋市 名古屋市外国人市民アンケート調査 市内外国人登録者6,000人(20歳以上) 2010
四日市市 外国人市民実態調査アンケート 笹川1丁目~9丁目の外国人登録者1,862人(18歳以上・ブラジル人) 2009
大阪市 外国籍住民のコミュニティ生活意識実態調査 東成区・平野区より、外国籍住民各区300人(20歳以上)、日本国籍住民各区100人 2009
北九州市 外国人市民の医療環境に関する実態調査 市内外国人市民1,000人(特別永住者及び留学生を除く) 2011

 

(注)実態把握調査の一部としてアンケート調査とインタビュー調査を併せて実施している自治体もあるが、ここでの「調査
   対象」はアンケート調査についてのみ記載している。
(資料)各種資料

 住民基本台帳制度の適用は、外国人を地域住民の一員として改めて捉え直す機会となる大きな制度変更である。
これを契機として、各自治体においては地域に暮らす外国人住民の生活状況等の実態を把握し、そこで得た情報を踏まえ、外国人住民のまちづくりへの参加促進をはじめとした外国人住民施策の拡充を図ることが期待される。

 

(注1)2009年に成立した「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律」による。
(注2)新たな在留管理制度の詳細及び手続の方法等については、法務省入国管理局「新しい在留管理制度がスタート!」(http://www.immi-moj.go.jp/newimmiact_1/index.html)<外部リンク>を参照されたい。
(注3)新宿区約9,300通(29%)、横浜市10,890通(15%)、大阪市4,028通(5%)、浜松市2,903通(12%)、熊本市378通(12.2%)、福岡市1,130通(6.6%)など、多数の世帯について宛先不明のため返送されている。
(注4)外国人集住都市会議「外国人集住都市会議 よっかいち宣言」(http://www.shujutoshi.jp/siryo/pdf/20061121yokkaichi.pdf)<外部リンク>
(注5)外国人登録制度では、居住地を移動する際に必要な手続きは、転入先の自治体での居住地変更登録申請のみだったが、制度改正により転出元の自治体において「転出証明書」の交付を受ける必要が生じた。
(注6)在留資格の取り消しなど、罰則が大きく強化されるにも関わらず、その周知が徹底されていないといった問題が指摘されている。
(注7)一方、これまで外国人登録は可能であった在留資格を持たない非正規滞在者については、住民基本台帳適用や在留カード交付の対象外とされ、その実態は継続的に把握することが一層困難となる。また、総務省は「不法滞在者が受けられる行政サービスの範囲は、法改正後も基本的に変更がない」との見解を示しているが、在留資格のない者に対しては母子手帳交付、入院助産、養育医療、結核医療、定期予防接種などのサービスは提供しないという自治体も少なくなく(移住連ほか(2012)「自治体アンケートから見えてくるもの-住基法改定後の外国人住民への対応-」)、自治体によって対応が統一されていない状況にある。
(注8)(1)これまで住民基本台帳制度と外国人登録制度により別々に把握されていた複数国籍世帯(外国人と日本人により構成される世帯)について、世帯全員が記載された住民票の写し等が発行できるようになる、(2)国民健康保険など各種行政サービスに関する届出が転入届に一本化され、手続きが簡素化される、(3)在留資格・在留期間を変更する際、これまで地方入国管理局と市区町村の両方に届出が必要だったが、地方入国管理局への届出のみで対応されるようになる、といったメリットがある。
(注9)総務省(2006)「地域における多文化共生プラン」(http://www.soumu.go.jp/kokusai/pdf/sonota_b6.pdf)<外部リンク>
(注10)内閣官房(2012)「日本再生戦略」(http://www.npu.go.jp/policy/pdf/20120731/20120731.pdf)<外部リンク>
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