障害者の就労支援~制度の動向と企業

2012/09/21
研究開発第1部(大阪) 主任研究員 仙田 嘉博

 障害の有無に関わらず、誰もが地域でごく普通に暮らし、ともに社会生活を送ることのできる共生社会(ノーマライゼーション)の実現を目指すうえで、障害者が職業を持ち、生活の自立を得られるようにしていくことはたいへん重要である。障害者の就労を促進していくうえで、労働者の職場の大部分を占める民間企業の役割はきわめて大きいと言えるだろう。本稿では、現状でやや不透明感のある障害者支援諸制度の動向と、企業の関係を概観してみたい。

1.障害者雇用率
 多くの企業において、障害者の就労でまず関わるものは、「障害者雇用促進法」に基づく障害者雇用率の制度であろう。これは障害者雇用率(法定雇用率)を定め、個々の企業の従業員数に占める障害者の割合を法定雇用率以上にすることを義務づけるものである。民間企業の現行の法定雇用率は1.8%と定められている(注1)。障害者の実雇用率は上昇傾向にあるものの、達成企業は全体の約4割にとどまり、これまで一度も法定雇用率が達成されたことはない。なお、平成25年度から法定雇用率が引き上げられる予定(民間企業は2.0%)であり、多くの企業でさらなる対応が必要になるものと見込まれる。

2.福祉政策からのアプローチ
 法定雇用率は主に労働政策からのアプローチで、障害者の一般企業への就労(一般就労)を促進するものであるが、一方で、福祉政策からのアプローチとして、一般企業への就職が難しい障害者に対し、授産施設や小規模作業所といった「職場」を提供する(福祉的就労)という支援が行われてきた。障害者の就労に関しては、このような二元的な取り組みが長らく行われてきた経緯があるが、その一元化に向けて舵を切ったのが、平成17年10月に成立した「障害者自立支援法」である。この法律では、障害者が一般就労へ移行することを目的とした事業を創設するなど、障害者の一般就労を福祉サイドからも支援するというコンセプトがはじめて示された。
 しかしながら、現状は一元化の途上であり、施策レベルでは障害者の就労に関する労働政策と福祉政策の齟齬は多々見られる(注2)。労働政策と福祉政策の一元化は国においても課題として認識され、議論が行われてきたが、当面は現行の制度体系が継続される見込みとなっている(注3)。さらなる一元化に向けた動きはしばらくないものと見られるが、今後、将来的に労働政策と福祉政策が高次元で統合されるということになれば、企業への影響も大きいと考えられるため、今後の動向への注視が必要である。

3.障害者差別禁止法
 一方、上記とは異なったアプローチとして、現在、制定に向けた検討が行われている「障害者差別禁止法」に基づく方向がある。禁止される障害者差別の類型として、
(1)障害があることを直接の理由とした差別(直接差別)
(2)表面的には障害を理由とした差別は行われていないが、不当なルールや基準によって結果的に障害者を排除する差別(間接差別)
(3)障害者が必要としている合理的な配慮が提供されない差別(合理的配慮の不提供)
の3つがあり、差別として(1)は誰でも思い浮かぶものであるが、(2)や(3)も差別として規定されていることが重要である。例えば、車いすで就業できないなどバリアフリーが不十分な職場環境は、合理的配慮がされていないということで、すなわち障害者差別をしている企業と見なされる。これを禁止するということは、企業は障害者が就労できる環境整備をしなければならないということになり、雇用機会の均等化から間接的に障害者就労を促進するというアプローチとなる。
 こうした観点は国連の「障害者の権利条約」(注4)に基づくもので、いわば「グローバル・スタンダード」である。欧米等では、法定雇用率などの直接的な就労促進と並んで、障害者差別禁止による間接的な就労促進が大きな流れとなっている。

 障害者の就労に関わる諸制度の動向は流動的であり、その着地点は不透明である。また、厳しい経済情勢の中、障害者の雇用を負担に感じる企業も多いと思われるが、共生社会に向けた企業の「役割」と「責務」が、今後ますます大きくなっていくことは間違いない。こうした大きな流れをとらえつつ、それぞれの企業が障害者の能力活用を主体的に考えていくことが、これから一層求められてくるだろう。

(注1)雇用義務のある企業は従業員数56人以上の企業。なお、平成25年度から従業員数50人以上の企業に対象が拡大される。
(注2)例えば、障害者自立支援法の対象は、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害だが、障害者雇用促進法で雇用が義務づけられているのは身体障害、知的障害のみである(精神障害は雇用義務はないが、雇用すれば実雇用率にカウントされる)。また、同じ職業訓練を目的とした事業で、労働サイドの職業訓練校(障害者職業能力開発校)では訓練を受ける障害者に給付金が支給され、福祉サイドの就労移行支援事業では障害者がサービス利用料を負担しなければならない、など。
(注3)障害者自立支援法は廃止し、新たに障害者の福祉を総合的に推進するための制度をつくるという方針のもと、平成21年12月8日に内閣に「障がい者制度改革推進本部」が設置され、その各項目について幅広く意見を求めるため、障害当事者、学識経験者等からなる「障がい者制度改革推進会議」が開催された。推進会議は、障害者の就労支援等も含めて多方面にわたる提言を行った後、平成24年7月24日に廃止されている。
 現在のところ、障害者自立支援法は、平成25年4月1日から「障害者総合支援法」と名称変更し、障害者の定義に難病等を追加するといった改正が行われるものの、法律の基本的な枠組みは維持される形となっている。
(注4)平成18 年12月採択、平成20 年5月発効。わが国は平成19 年9月に署名したが、批准には到っていない。

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