ライフラインとしての「情報活用力」をどう磨くのか

2012/10/04
経済・社会政策部 主任研究員 大嶋 淳俊

1.緊急時に備えて必要な「情報活用力」

 東日本大震災の際に、電話が繋がらず、メディアは混乱して情報が錯綜する中で、あらためて見直されたのが情報通信技術(ICT)の利用であった。特に、ツイッターやSNSなどで、安否情報を伝えたり被災地支援のための各種情報を共有したりと、インターネットが新たな”ライフライン”として、大きな役割を果たしたのは記憶に新しい。
 それまでICTといえば、若者やビジネスパーソン向けで、業務の効率化やエンターテイメントを楽しむために使われるものという印象が強かったが、ここで大きく様変わりした感がある。高齢者や主婦層などICT利用に慣れ親しんでいない人々にも使いやすい、または使いたくなる端末・ソフトウェアをいかに提供するかが真剣に取組まれている。また、これまでバラバラに開発され提供されていたネットサービスを連携・統合させて情報共有・伝達を簡潔化するなど、「万人のためのICT利用推進」の動きは強くなっている。
 ただし、これだけだと「提供側」の論理で大きな変化は起こらない。この変化を底支えしているのが、「利用側」の意識の変化である。これまでインターネットなど見向きもしなかった老人が、震災後は危険を回避するために、NPOの支援を受けながらインターネットを使ってみるようになったり、これまで子供に携帯を持たせないと決めていた親が子供の安全のために子供専用の端末を持たせるようにしたりと、裾野は広がっている。このように、情報化社会の”光”を享受しようという動きは、着実に拡がっている。
 しかし一方で、情報化にはもう一つの側面である情報化社会の”影”がつきまとう。迷惑メールの増大、フィッシング詐欺、ネットサービス利用による高額課金などといった個人にまつわる問題は、増大するとともに複雑化している。さらに、国や大企業の情報漏洩を目的としたサイバー攻撃なども深刻化している。
 こうした中で、情報化により仕事を効率化したり生活を豊かにしたりするだけでなく、安全・安心に暮らすためにICTを役立てるといった「情報化社会の”光”」の面を積極的に享受できるようにする(つまり、情報化社会の”光”の部分を攻める)必要がある。一方で、情報化社会の”影”の問題点を把握して、自分が巻き込まれたり、自分の家族・友人・仲間に迷惑をかけたりしないようにする(情報化社会の影の部分から身を「守る」)ことが重要である。その両面に対応するための能力が「情報活用力」である。
 次に、その考え方を、具体的にみてみよう。

2.「情報リテラシー」だけでは不十分

 従来、情報を活用するのに必要な力は、「情報リテラシー(Information Literacy)」という言葉で語られていた。日本では、名称のとおり「情報の読み解き方」ともいわれるように、メディアなどで流される情報の真偽を判断してクリティカルに読み解く能力として捉えられたり、PCなど情報通信機器やソフトウェア利用方法の習得能力として捉えられたりすることが多い。そして、情報リテラシー教育といえば、「ネットでいかに失敗しない・騙されたりしないか」「いかに危ないサービスに近づかないか」といった”影”の部分を扱うものが多い。しかし例えば、情報セキュリティの知識をしっかり身につけて、適切に”影”の面の対策をすることは、安心・安全にネットを活用して”光”の面を享受するのにもつながる。つまり、”光”と”影”は表裏一体である。両方を包含した概念としては、「リテラシー(読み解く)」だけでは誤解を招くため、「情報活用力」として整理した方が適切であるといえる。
 筆者は、情報活用力を次の4つの要素で構成されると考えている。

図 1 「情報活用力」の概念

出所:大嶋淳俊『情報リテラシーを超えて 情報活用学入門 ~情報化社会の「攻め方」・「守り方」~』
     (学文社、2012年)

(1)メディアの特性と情報収集・選択:さまざまなメディアの特性を理解するとともに、続々と登場するICTをツールやサービスの動きも把握し、そのような知識を生かして自らが必要とする情報の収集・選択適切に行うことができる。

 

(2)ICTコミュニケーションと情報創造・発信:メールからSNSまで多種多様なICTツールとサービスを使って、他者と適切にコミュニケーションできる。また、それらを使って、自らが情報を創造し、発信もできる。

 

(3)情報モラルとマナー:インターネットの利用にあたり、他者に迷惑をかけず、ひいては自分を守るために、情報倫理(情報モラル)をしっかりと理解し、ルールとマナーを守って活用することができる。

 

(4)情報化社会の権利と情報セキュリティ:情報化社会における著作権・知的財産権を理解して、他者の権利を侵害しないよう配慮できる。また、情報セキュリティの基本的な知識・技術を理解し、具体的に対処できる

 これらの理解・習得に加えて、ビジネス、教育、医療、災害対策といった各分野での情報活用の動向と具体例を知ることで、情報活用力の基礎を築いていくことができる。

3.普段から行える「情報活用力」向上のための3箇条

 我々が現代の情報化社会で生きていく上で、ICTツールやサービスを使った情報活用はどうしても避けてとおれない。「自分は古い人間だから必要ない」という人も未だにいるが、自分の家族や友人、または物事を適切に遂行していく上で、「一般常識」としての「情報活用力」は必須である。また、災害に直面したときなど、緊急時にいくら学ぼうとしても既に時遅しで、普段から慣れておくことが肝要である。
 そのため、簡単ではあるが、最後に「情報活用力」を向上させるためのポイントを3箇条に整理した。

(1)「普段からICTの動きに継続的に目を配る」
 何が注目され、どのようなトラブルがおきているか。そのためには良質の情報源が何かをみつけておき、普段からウォッチしておくことが必要。情報活用に関する入門書などで全体像を掴み、ネットなどで継続的にトレンドをみておく。特に、サイバー攻撃など、どのような問題が発生しているのかを知っておけば、自分がネット利用している時の安全確保に役立つ。

(2)「新しいICTツールやサービスを試す」
 百聞は一見にしかず、多少の身銭はきって、自分で試してみることが大事。例えば、タブレットPCの使い勝手や不便な点は、お店で触っていてはわからない。自分で購入して使ってみるしかない。但し、個人情報の登録は最小限にするなど、くれぐれも慎重にすべきである。

(3)「相談できる仲間を増やす。ただし、自分も相談にのれるようになる」
 ソーシャルな時代に頼れるのは、書籍やネットだけでなく、やはり信頼できる仲間である。まずは家族や友人、仕事仲間などで、フェイスブックやツイッターを一緒に使ってみて意見交換してみる。一人で取り組むと、思わぬ落とし穴に気づかないことがある。ただ、相談するだけでなく、自分も相談されるような強みをつくる努力は続ける必要がある。ICTの世界もビジネスも基本は同じで、Give and Takeである。

 情報活用力の向上は、ランニングと同じである。一日休めば、一日後退する。日々、慣れ親しみながら、安心・安全に賢く生きるために”併走”していくことが万人に望まれる。

※「情報活用力」については、拙著『情報リテラシーを超えて 情報活用学入門 ~情報化社会の「攻め方」・「守り方」~』(学文社、2012年10月1日出版)で、情報化社会の光と影の両面を踏まえた上で、様々な事例を交えて詳しく解説している。

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