日本のエネルギー政策動向(後編)

2012/11/29
環境・エネルギー部 主任研究員 宗像 慎太郎

福島第一原発事故と中長期的な世界のエネルギー需要の増大を背景に、日本のエネルギー政策は見直しを迫られている。インフラ投資と組織整備には長期ロードマップが必要だが、政権及び電力行政・産業に対する不信の中、議論の収束する気配はない。本稿では日本のエネルギー政策について、現在までの議論と今後の展望を示す。

脱原発の試算:安全・安心の対価はいくらか

資源エネルギー庁の基本問題委員会(2012)は、2030年の原発の構成比率を0~35%とし、それらを再生可能エネルギーまたは火力発電で代替する4つのシナリオを作成、その影響を複数の数値モデルで試算した(注1)(図 2)。これによるとほとんどのシナリオと数値モデルで、GDP、家計消費支出、産生産・雇用に負の影響を及ぼすという結果が得られた。安全性は十分確保されると期待されるが、その代償は支払わねばならないということであり、原発ゼロに対する経済界の反発を裏付ける結果となっている。

発電方式 選択肢B 参考 選択肢C 選択肢D 選択肢E
原子力 0% 15% 20% 25% 35%
再生可能エネルギー 35% 30% 30% 25% 25%
火力 50% 40% 35% 35% 25%

(資料)基本問題委員会2012

図 2 2030年の電源構成シナリオとその影響の試算結果一覧

新産業への期待

エネルギー政策を巡る議論が収まる見込みはなく、国内の原発事業と関連産業はこの間停滞を余儀なくされるだろう。そして脱原発と再エネ・火力発電へのシフトが本格化すれば、全産業に長期的な悪影響が及ぶと考えられる。安全・安心という比べるもののない価値とのトレードオフとはいえ、原発依存型政策からの方針転換は、痛みを伴う改革になる。

他方、これらの試算には十分に組み入れられていないプラスの要素もある。それは長期的なエネルギー危機とインフラの変化を好機として生まれると期待される新産業である。再生可能エネルギー、省エネ技術、パワーエレクトロニクスといった要素技術の進展の他、これらを組み合わせたシステム技術、制御技術、情報通信技術と組み合わさって誕生する新しいサービス等、これまで国内市場で機会の限られていた技術と企業に、陽が当たるようになると期待される。

もちろん単純なエネルギー事業を想定するならば、既に多くの設備について減価償却を終え、地域の最適な事業拠点を確保している電力会社と、これから拠点を設け設備投資する新興企業が互角に価格競争できる可能性は皆無である。しかし2012年7月開始の再生可能エネルギーの固定価格買取制度により、既に大規模太陽光発電事業の初期投資額に劇的な低下が見られることや、今後インフラ輸出支援等、様々な政策支援が検討されていることを考慮すれば、エネルギー供給や制御の関与する新産業について一定の期待は持てる。

これらの新産業が、無条件に脱原発の「痛み」を上回るという保証はない。政府はこれを産業振興の好機とするために知恵を絞らねばならない立場にあり、企業にはその提案が求められている。脱原発がもたらす経済危機を好機に変えるため、官民の密接な連携が求められるのである。

【参考文献】
基本問題委員会2012:総合資源エネルギー調査会基本問題委員会.経済影響分析について(試算結果の中間報告).2012年5月9日.

(注1)図 2のグラフは全て、2010年の電源構成を固定し、実質GDP成長率を2010年代は1.1%、2020年代は0.8%として2030年まで伸ばした経済成長シナリオでの数値との比較。

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