地域ブランド力強化の一考察~商標法改正をとらえた地域における対策~

2013/03/27
研究開発部(名古屋) 知財コンサルティング室 主任研究員 萩原 達雄

1.地域ブランド 一過性のものとしないために

昨今の地域ブランド化の取組の様子を踏まえると、「売らんがための取組」ばかりが先行してしまい、体制づくり等が後回しになっているといった地域における足場が固まっていないケースが少なくないのではと考えます。体制づくりからはじめることが出発点であるとは強調しませんが、地域ブランドとして永続させるには一定の足場がためも必要なのだと考えます。例えば、商標権を取り権利行使を考えていく行為や商標を上手に活用してブランド育成・強化につなげることは、地域にも多様な利点をもたらすものと捉えることができ、「足場」の1つと理解していく必要があると考えます。

本稿では、経済産業省産業構造審議会知的財産政策部会商標制度小委員会にて現在議論されている「商標法の改正」を題材に、地域に求められるブランド力強化の対応について筆者なりに考察してみたいと考えます。

2.地域団体商標ならびにその活用をあらためて考える

(1)想定される商標法改正 地域ブランドに与える影響とは?

平成18年度より運用されている「地域団体商標」は、平成25年度には8年目を迎えようとしています。平成24年度中には登録件数が500件を越え、以降も継続的な出願・登録が見られます。この地域団体商標について、地域グルメに代表される地域での取組が活発化してきた経緯等もあり、地域団体商標の登録主体の緩和について検討が進みつつあるようです(下記:地域団体商標の登録主体に関する検討内容(抜粋)参照)。

こうした検討が進み、制度等が見直されていくことは、「新たな地域ブランド」の拡充や、地域経済の活性化等につながるものとして注目すべきであると考えます。これまで地域団体商標が取得できなかった「商工会」、「商工会議所」、「特定非営利活動法人」といった団体に権利を与えるものとなり、地域に与える影響は決して小さくないと考えられます。

しかし、こうした団体において地域団体商標制度に関する理解が十分であるか、また、仮に法改正がなされた場合、地域団体商標制度の活用に円滑に展開していけるか、ぜひ考えていただきたいのです。

○地域団体商標の登録主体に関する検討内容(抜粋)

(1)地域団体商標の登録主体について

現行の地域団体商標の登録主体は、法人格を有する事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合又はこれらに相当する外国の法人であり、設立根拠法において構成員たる資格を有する者の加入を不当に制限してはならない旨(加入の自由)が規定されているものに限られている。

地域団体商標として登録される地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる商標は、本来、地域における商品の生産者や役務の提供者等が広く使用を欲するものであり、一事業者による独占に適さない等の理由から商標法第3条第1項各号(特に第3号や第6号)に該当するとして登録が認められなかったものであることから、主体要件の緩和は、商標の識別性・独占適応性の観点から慎重な検討が必要である。

しかしながら、現行の地域団体商標の登録主体と同様に、設立根拠法において加入の自由が保証されている団体であれば、独占適応性の観点からの問題は低減されると考えられる。

したがって、「新たな地域ブランド」の保護の拡充を図り、地域経済の活性化等につなげるためにも、各地域において地域ブランドの普及・発展に主体的に取り組んでいる団体であって、設立根拠法において加入の自由が保証されている団体である商工会、商工会議所、特定非営利活動法人を、新たに地域団体商標の登録主体として認めることが適当である。

資料:産業構造審議会知的財産政策部会商標制度小委員会報告書「新しいタイプの商標の保護等のための商標制度の在り方について(案)」より
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/t_mark_paper31.htm

 

(2)地域団体商標の持つ特徴を理解する

<1>商標の持つ機能を理解する

一般に、商標権には「出所表示機能」、「品質等保証機能」、「広告宣伝機能」があるとされています。しかし、これらの機能を意識して活用している権利者(団体等の構成員)は決して多くないと筆者は考えます。「商標」という堅苦しい表現よりも、商品やサービスの名称であり、普段から意識せず活用されているものではないでしょうか。このため、商標の機能について意識する場面は多くないだろうと推察します。

しかし、地域団体商標の登録ならびに活用を促すうえで、地域団体商標がどのような機能を持っており、どのようなメリットを地域にもたらすかをまずイメージし、組織全体で共有することが重要だと考えるのです。また、権利として保有することになる「商標権」を上手に活用して地域ブランドの価値を高めていく考え方をあらためて認識することが重要だとも考えるのです。

表 一般的な商標の機能

出所表示機能 同じ商標をつけた商品やサービスは同じ会社が製造や販売、サービスの提供を行っていることを示す機能
品質等保証機能 同じ商標をつけた商品やサービスは同じような品質・レベルの商品やサービスであることを示す機能
広告宣伝機能 商標がパッケージや看板などにつけられることで、消費者に記憶され、商品や店舗を宣伝、広告する機能

 

<2>地域団体商標の活用により得られる効用を理解する

では、地域団体商標を活用することでどのような効用が得られるのでしょうか。知的財産やその活用に関する様々な調査研究文献を参考に、筆者なりに整理してみました。

商標の一般的な機能(前述)を踏まえつつ、地域団体商標を活用することで得ることができる効果を、以下の2つの視点で整理してみました。1つは「組織の”内部”にはたらく力」を活かすという視点、もう1つは「組織の”外部”にはたらく力」を活かす視点です。

「組織の”内部”にはたらく力」はさらに3つに整理できると考えます。

図 地域団体商標の活用により得られる効用(イメージ)

1つめとして、地域団体商標の出願登録により、その権利者(団体等)が提供する商品・サービスの価値について商標権の機能を通じて明らかにする(見える化する)ことです(図中①)。

2つめとして、商標はそのまま権利者の共通財産となることです(図中②)。商品・サービスが持つ価値を維持・使用することとなり、財産として扱っていくことができるようになります。

3つめとして、商標を活用することで権利者のモチベーション向上が図れるほか、様々な活用行動を行うなかで組織力の強化や活性化につながることをあげます(図中③)。

こうした3つの「内部にはたらく力」は、提供する商品・サービスを通じて組織内において共有できるものと定義できます。また、「組織の”外部”にはたらく力」は5つに整理してみます。

1つめは、商標を活用することで商品・サービスの価値を顧客に正しく伝えることができる点です(図中(1))。 2つめとして、顧客に対して商品・サービスの品質を保証する点(図中(2))。これら2つの力は、商標の機能そのものであり、多くの権利者が出願登録の目的として期待する力であると考えられます。

3つめとして、商標権を行使することで模倣品を排除することができる点をあげます(図中(3))。これも多くの権利者が期待するものとなりますが、地域外での模倣のみならず地域内での模倣を排除することを含め、その力の及ぶ範囲は広範囲にわたると捉えることができます。

4つめとして、商品・サービスの納品先等の取引者に対する取引時の価格面等への優位性を高めることができる点(図中(4))。すでに権利を持つ組合等へのヒアリング調査(特許庁実施)からも市場や地域での位置づけが高まったとする指摘などからも整理されています。

5つめとして、地域内外を問わず、事業展開において協力関係が結びやすくなる点をあげます(図中(5))。

こうした関係を理解し『商標を活かしていく視点』を持つことは、団体構成員のブランド化に対する取組の意識面にも大きく係わっていくものと考えます。この点が地域における永続的な活動を展開させるうえで重要であると強調したいのです。

3.地域団体商標の上手な活用に向けて

(1)ちょっと先を見据えた対応を

前述してきたように、地域団体商標を上手に活用することで、様々な効果を得ることができると考えられます。その効用は幅広いということを団体内で共有すること(「足場」を固めることの1つと考えてください)は、今何が不足していて、何を先行させるべきか、具体的な検討を進めていくうえで参考となる指針になるのではないかと考えます。

今後商標法改正の議論が進んでいくことで、地域団体商標が地域ブランド化を進めるうえであらためて注目されてくることを期待しますが、そうした流れを事前に捉えた準備等を検討していくことが重要になってくると強調したいのです。

(2)できること・頑張ることを整理して計画的に取り組む

商標は出願してからおよそ1年程度で登録に至るケースが多いとされます。せっかく得た権利を有効活用するまでの準備期間はあまり長くはありません。地域内での体制強化(組織化=組合化・NPO化)、明確な役割分担(行政等の支援を受けること含む)、活動を永続させる仕組みの準備(事業計画としてとりまとめ、具体的なアクションを明確にする)、専門家の活用(国等の支援制度を活用して弁理士やブランドの専門家を招へい)などをリストアップして、まずお金をかけなくて取り組めることとそうではないことを整理し、優先順をつけてみてください。そしてそれらの取組メニューを計画的に取り組んでいくことを考えていただきたいのです。

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