所得分配を考える(3)  所得格差拡大の原因(その2)

2014/02/28
政策研究事業本部 東京本部 副本部長・主任研究員 相川 宗徳

1.我が国の高齢化の進展と高齢者世帯の増加

我が国の所得格差の大きな原因は前号(※1)で高齢化によるものだと説明した。図表1をみると高齢者世帯はほぼ一貫して上昇している。高齢者単独世帯及び高齢者夫婦のみ世帯が特に増加していることがわかる。人口の高齢化が進展しているのは、平均寿命が伸びたためだということは言うまでもない。しかし、単に高齢化だけでは高齢者単独世帯及び夫婦のみ世帯が増加していることが説明できない。何らかの理由で子どもと同居を選択しない高齢者が増加していることになる。高齢者は子どもと同居するか否かの選択において何を考慮しているのだろうか。

八代(1997)によれば、高齢者世帯の世帯主の業種をみると、自営業、特に農業で同居率が高くなっているとしている。自営業では高齢者が労働の担い手として期待されることが多いのだろう。長期的な趨勢として農業世帯が減少する傾向にあり、高齢者世帯の同居率を引き下げる方向に働くことになる。また、高齢者の所得水準が高いと同居率が低くなるとしている。特に所得が安定している公的年金の影響が大きい。所得水準の高い高齢者は子どもにたよらず独立した生計を営む傾向がある。同様に高齢になるほど、健康が悪化すると子どもとの同居率が高くなるとしている。高齢化して健康上の不安を感じると、子ども世帯との同居が増加するとの説明も説得的である。その他にも、広い持家に居住している場合は子どもとの同居率も高くなるとされている。その理由は、住宅サービスの質を確保できるので、子ども世帯にとって親世帯と同居するメリットが生まれるからである。

厚生労働省(2013)によれば多くの高齢者が就業を続けており、65歳以上の雇用者は2012年で340万人となっている。高齢者世帯の年間所得は全世帯平均の半分程度に過ぎないが、世帯人員一人当たりの所得は全世帯平均に近い値となっている。高齢化した世帯では所得が減少し所得格差が拡大するが、高齢者一人当たりの所得が低いとは言えないということだ。むしろ、安定した所得を確保して経済的に独立しようとする傾向が強いと言える。その一方で、2011年の高齢者の生活保護受給者は78万人となり着実に増加しており、全世帯に比べて生活保護受給者の割合も高くなっていることを付言しておきたい。 以上のことから、子どもとの同居を決定する要因は、高齢者本人の高齢化だけでなく、社会・経済的要因が大きく影響していることがわかる。

図表1 高齢者世帯(65歳以上の者のいる)世帯数(世帯構造別)とその割合
図表1 高齢者世帯(65歳以上の者のいる)世帯数(世帯構造別)とその割合

注1:1995年の数値は、兵庫県を除いた値である。
注2:2011年の数値は、岩手県、宮城県、福島県を除いた値である。
資料:昭和60年以前は厚生省「厚生行政基礎調査」、昭和61年以降は厚生労働省「国民生活基礎調査」
出所:厚生労働省『平成24年高齢者白書』

2.海外における賃金格差の原因

前号で海外における賃金格差が拡大していると述べた(※2)。その原因は金融市場と貿易のグローバリゼーション、技術進歩、労働市場における規制緩和・雇用慣行の変化とされている。図表2および3でこれらの要因を指標化し推移を示している。

図表2の貿易依存要因はGDPに対する貿易の割合を算出し、1980年の値を100として指数化している。1991年の98.67から2008年の151.90まで一貫して増加傾向にある。この増加の背景には、アジア地域の新興国による輸出の急速な拡大がある。金融市場の開放も急速に進展している。海外投資の中身では証券投資の割合が大きく、対外債務と対外資産合計額のGDPに対する比率を計算し、1980年の値を100として図表2で指数化している。金融市場の開放度は1980年代から拡大傾向にあるが、1989年以降急速に拡大し2007年には632.33となっている。同様に研究開発投資の対GDP比をとり同様に指標化したものをR&D投資要因として示している。これも順調に増加し2008年には187.38となっている。各国で民間の研究開発投資が増加しているが、その結果、科学者、技術者、研究員の雇用増に寄与しているとみられる。

また、労働政策、慣習および規制の緩和と賃金格差がほぼ同時期に発生しており、労働市場における制度的変化が賃金の格差に影響を与えているとされている。図表3では労働組合組織率の1980年の値を100として指数化しているが、ほぼ一貫して減少傾向にあり、2002年には68.70に低下している。PMRとは電気、ガス、郵便、通信、鉄道、航空旅客輸送、道路輸送における規制の度合いを0から6の7段階で指標化し(最も強い規制を6とする)、1985年の値を100として指数化している。EPLとは雇用保護制度指数とよばれ、雇用保護法制の強度を7段階で指標化し(同上)、同様に指数化している。両者とも長期的に低下傾向にあるのがわかる。労働者を雇用する場合に、企業にとっては賃金と社会保険料の事業主負担分がコストとなる。労働者にとっては、賃金から所得税と社会保険料の被用者負担分を差し引いた額が手取りの額となる。所得税と社会保険料の労使合計が総労働コストに占める割合は税のくさびといわれており、これが大きくなると雇用を抑制する効果をもつ。ここでは、平均的な労働者を想定しその労働者の所得税と社会保険料が総労働コストに占める割合を算出し、これも1980年の値を100とし指数化している。税のくさびは長期的には横ばいであるが、1997年以降緩やかに減少している。以上で説明したように、種々の要因が賃金の格差拡大の原因と考えられているが、因果関係が明確になった訳ではない。この分野での優れた実証研究が期待される。

図表2 急速に進む貿易依存、資本市場開放、技術変化
図表2 急速に進む貿易依存、資本市場開放、技術変化

注1:貿易依存とは輸出額と輸入額合計額がGDPに占める割合のことである。
注2:資本市場の開放とは対外債務と対外資産の合計額がGDPに占める割合のことである。
注3:研究開発部門の研究開発投資額がGDPに占める割合のことである。
出所:OECD “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”

図表3 製品・サービス市場及び労働市場に係る規制等の緩和
図表3 製品・サービス市場及び労働市場に係る規制等の緩和

注1:PMRとはProduct Market Regulationの略。OECDが作成している市場規制の総合指標である。
注2:EPLとはEmployment Protection Legislationの略。OECDが作成している雇用保護法制の全体的な強度を示す総合指標である。
注3:税のくさびとはその労働者の所得税と社会保険料が総労働コストに占める割合のこと。
出所:OECD “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”

(続く)

参考文献
OECD(2006) “OECD Economic Surveys: Japan”, OECD, Paris
OECD(2008) “Growing Unequal? Income Distribution in OECD countries”, OECD, Paris
OECD(2011) “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”, OECD, Paris
Ohtake, Fumio(1991) “Bequest Motives of Aged Households in Japan”, Ricerche Economiche,45(2-3)
アルバート安藤、山下道子、村山淳喜(1986)「ライフ・サイクル仮説に基づく消費・貯蓄の行動分析」『経済分析』第101号、内閣府経済社会総合研究所
大竹文雄(2005)『日本の不平等-格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社
大竹文雄、小原美紀(2010)「所得格差」内閣府経済社会総合研究所 企画・監修、樋口美雄編集、『労働市場と所得分配』慶應義塾大学出版会
八代尚宏(1993)「高齢者世帯の経済的地位」『日本経済研究』No.25
八代尚宏、小塩隆士、井伊雅子、松谷萬太郎、寺崎康浩、山岸祐一、宮本正幸、五十嵐義明(1997)「高齢者世帯の経済分析」『経済分析』第151号、内閣府経済社会総合研究所
内閣府(2007、2009)『年次経済財政報告』
厚生労働省『所得再分配調査報告』
厚生労働省(2013)『平成25年度版高齢者社会白書』

 

(※1)「所得分配を考える(2)」を参照のこと。
(※2)「所得分配を考える(2)」を参照のこと。
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