エネルギー基本計画を巡る議論(前編)

2014/07/10
環境・エネルギー部 主任研究員 宗像 慎太郎

今後20年を睨みつつ、2018-2020年頃を主要な改革期間とする「エネルギー基本計画」が、2014年4月に閣議決定された。原子力発電を巡る混乱が続く中、基本計画は必ずしも決着までの道のりを描ききってはいない。本稿はその前編として、エネルギー政策の変遷とエネルギー基本計画の位置づけ、主要課題と論点について整理する。

1.エネルギー基本計画の位置づけ

社会はエネルギー政策について、供給の安定性、経済性、環境配慮そして安全性と、相互に背反する要請を強めており、エネルギー行政には微妙なバランスが求められている。

戦後の我が国のエネルギー政策は、経済復興期における社会再建需要を満たすための石炭生産政策から始まり、高度経済成長期にはより安価で用途が広い新燃料「石油」へのシフトを促す産業形成政策、2度の石油ショックでは石油依存度を減らすためのエネルギー源多様化政策、80年代後半からは国内製造業の国際競争力を回復させるための経済性重視政策、そして90年代からは地球温暖化対策と展開してきた。これらの政策目的は、現在では供給の安定性、経済性、環境配慮と整理され、エネルギー政策の基本方針と見なされている。図1は様々なエネルギー関連法、トピック、政策の特徴を整理したものである(経産省2004)。2000年頃には、これら相反するニーズを総合的かつ整合的に体系化し、政策を打ち出していく必要性が強く認識されるようになり、長期的、総合的かつ計画的なエネルギー政策の基礎として、エネルギー基本計画を策定することとなったのである。

こうして2003年に最初のエネルギー基本計画が策定され、第1回改定(2007年)、第2回改定(2010年)と約3年毎に見直しが進められた。東日本大震災を経た2013年、原子力発電の安全性に対する懸念が高まりを見せる中、第3回改定が進められた。

図1 日本のエネルギー政策の変遷
(資料)経産省2004
図1 日本のエネルギー政策の変遷

 

2.エネルギー政策の主要課題と論点

日本のエネルギー政策を巡っては、国内の資源の不足と人口減少、新興国需要及びシェールガスという国際的なリスクの拡大、そして原発事故以降の社会不信という深刻な課題が山積しており、既に各種改革に着手している資源エネルギー庁は、従来にない論点整理に苦心している。

1960年には58.1%だった日本のエネルギー自給率は、需要の急増と石炭から石油へのシフトにより悪化の一途を辿り、近年は4%台で推移している(経産省2013)。石油を中心とした一次エネルギーの確保は数十年来の課題であり、今後も生産・流通システム等の国内エネルギーインフラについて大規模な合理化・見直しが必要と考えられているが、人口減少による国内市場の長期的縮退が確実ななかで、民間企業からの設備投資のコミットメントを得ることは難しい。

海外を見れば、新興国需要が国際エネルギー価格へ与える影響が強まっている。更に資源国によるエネルギー資源の囲い込みという不安要素もあれば、シェールガスの輸出解禁という期待要素もある。このように国際エネルギー需給構造は劇的な変化のさなかにあり、中長期的な見通しは明らかでない。

そしてエネルギー政策に対する相互背反の期待をこれまで引き受けてきたのが、日本では原子力発電システムであった。国は業界とともに、原子力は「安価」であり、核燃料サイクルが完成すれば「国産」とも言え、CO2を出さない「環境配慮」技術であり、過酷事故など起きえない「安全」なものだと説明してきた。しかしこのような万能性の主張はもはや通用しない。国民の不信の目は東京電力に対してだけでなく、行政を含む電気事業関係者全体に向けられている。関係者は信頼回復に向けた長い道のりを歩み始めたばかりであり、原発再稼働を巡る日々の報道からも、その前途の険しさが窺い知れる。

資源エネルギー庁は上記の問題意識とエネルギー政策の論点を図2のように整理した(総合部会2013)。ここではエネルギー供給システムに起因する国富の流出(注1)と産業・生活コストの増加が深刻な水準にあることが改めて強調された。また原発頼りだった既存体制を前提とせず、電力・ガス両システム改革を中心とする根本的な制度改革と、生産・調達・流通・消費の全面的なインフラ設備投資を通じて、今後「相当な時間」かけて構造的に課題に取り組む姿勢を示している。過去の計画改定の論点は、10・20年後のために今から何に取り組むかという視点で語られた。これに対し本改定は、既に着手した改革的なグランドデザイン作業にあたり、20年後の社会にまで及ぶ影響をどのように考慮していくか、という視点で論点整理されていると考えられる。

以上のように本計画は、既に直面している課題の短中期的解決と、将来不安の中長期的解決を一身に担い、強烈なインパクトを伴いつつ急速に進行する電力システム改革を後追いする形で議論された。検討当初から、過去3回の計画とは全く異質のものとして論争の的となる宿命にあったと言える。

図2 日本のエネルギー政策の課題(上)

 

図2 日本のエネルギー政策の論点(下)
(資料)総合部会2013
図2 日本のエネルギー政策の課題(上)と論点(下)

 

【参考文献】
経産省2004:経済産業省.エネルギー白書2004年版.2004年6月.
経産省2013:経済産業省.エネルギー白書2013年版.2013年8月.
国会答弁2014:茂木敏充.第186回国会 予算委員会 第5号.2014年3月3日.入手先<http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/186/0014/18603030014005a.html>, (参照2014年6月).
需給委2013:総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力需給検証小委員会.前回委員会におけるご指摘事項への回答,第2回,資料2.2013年10月9日.
総合部会2013:総合資源エネルギー調査会 総合部会.エネルギー基本計画の検討に当たっての背景と論点,第3回,資料1.2013年5月20日.入手先<http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/past/003/pdf/003_002.pdf>, (参照2014年6月).

(注1)2013年の原発停止分を代替する火力発電燃料輸入費が3.6兆円と推計された(需給委2013)。ただし茂木経産大臣はこの二割が化石燃料の国際価格の上昇分、一割が為替の変動分と説明(国会答弁2014)。
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