女性活躍推進等に向けた公共調達の活用

2014/10/07
経済・社会政策部 副主任研究員 川澤 良子

平成26年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略改訂2014」では、女性活躍推進に積極的に取り組む企業を適切に評価し、公共調達における受注機会の増大を図ること等が盛り込まれた。昨今、このような特定の政策目的を達成するために公共調達を活用する取組が積極的に進められている。本稿では、このような状況を概観した上で、今後、取組を推進する上で検討が必要と考えられる事項等を提示する。

1.公共調達を活用した取組の状況

国の契約は、経済性と公正性を基本原則とする会計法令で規定されているが、この会計法令に加えて、特定の政策目的を達成するために公共調達を活用する取組、例えば、中小企業の受注機会の確保に向けて公共調達を活用することを定めた「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」(昭和41年6月30日法律第97号)(以下、「官公需法」という。)や、障害者就労施設等から物品等を優先的に調達することを定めた「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」(平成24年6月27日法律第50号)(以下、「障害者優先調達推進法」という。)等がある。

このような特定の政策目的を達成するために公共調達を活用する取組は、上記のとおり、様々な取組が進められてきたが、昨今、「日本再興戦略改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)において、「創業間もない企業(中小ベンチャー企業)の政府調達への参入を促進すること」や、「女性の活躍推進に積極的に取り組む企業を適切に評価すること等を盛り込んだ取組み指針を策定し受注機会の増大を図ること」といった、新たな施策が示され、安倍総理からも「創業10年以内の企業の商品・サービスについては、競争入札ではなく、随意契約で優先的に政府が調達する仕組みをつくり上げること」が表明される(平成26年9月18日、日本商工会議所通常会員総会)等、公共調達を活用する取組がこれまで以上に積極的に進められていると言える。

女性活躍推進に向けた公共調達の活用については、「日本再興戦略改訂2014」を受け、平成26年8月25日、「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針について」(内閣府男女共同参画推進本部決定)が示され、このなかで、会計法令の原則である公正性及び経済性を確保しつつ、各府省が以下のような取組を促進するとともに、これらの取組によりインセンティブを得る企業のポジティブ・アクション等を推進することが記載されている。

図表1 「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針」
(公共調達に関わる内容を抜粋・要約)
(1)総合評価落札方式等における評価項目
  • 男女共同参画等に関連する調査等についての総合評価落札方式や企画競争等において、男女共同参画等に係る取組状況を評価項目に設定する。 等
(2)発注先候補となる機会の増大
  • 男女共同参画等に取り組む企業や女性経営企業に対し、<1>調達案件の把握方法を知らせる等の啓発活動を実施する、<2>指名基準に該当する企業の場合、指名競争入札の指名先に含める、<3>少額随意契約において見積先に含める。
(3)女性の活躍推進等に関する取組状況の報告等
  • 入札又は契約締結等の際に、発注先企業の決定に影響を与えないことを前提に、企業による女性の活躍推進に関する取組状況等について、任意の報告を求め、同意が得られた企業の女性の活躍推進に関する取組状況の報告内容を一元的に公開する。
  • 女性の活躍推進等に関するパンフレットの配布等により企業の理解を求める。
(4)納期の設定に際しての留意事項
  • 要求業務の量・水準に比し、極端に短い期間の納期の設定は、経済性の観点からも望ましいことではないため、計画的な発注により十分な納期を設定するよう配慮する。

(出典)「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針について」(内閣府男女共同参画推進本部決定)

2.公共調達を活用した取組を推進する上での課題等

このように、公共調達を活用した取組が積極的に推進されているところではあるが、そもそもこのような公共調達を活用した取組は、会計法令の原則である経済性及び公正性と適合するかという観点からの議論がなされているとともに、発注者の立場に目を転じると、積極的な推進により、発注者の法的リスクが高まっている可能性が考えられる。

例えば、発注者が、少額随意契約で物品を購入する際、原則2者以上の者から見積を徴取し、購入先を選定することとなっているが、中小企業、障害者就労施設、女性活躍推進企業等、政策目的に関連する様々な事業者が存在するなかで、どの2者に見積を依頼すればよいのか、判断に迷う場面もあるのではないだろうか。当然、政策目的に関連するすべての事業者に見積を依頼することも考えられるが、事務の効率化も併せて求められているなか、現実的には難しいだろう。

特に、発注者については、「予算執行職員等の責任に関する法律」(昭和25年5月11日法律第172号)(以下、「予責法」という。)により、発注者が法令違反等、一定の条件を満たし、国に損害を与えたときは、弁償の責に任じなければならないと規定されている。このような公共調達を活用した様々な取組が増加し、発注者がこれらの取組を実施した結果、万が一、これが経済性に反すると判断された時には、発注者は予責法を適用した弁償が求められるという法的リスクを負っているのである。

3.公共調達を活用した取組を推進する上での検討事項

このように、公共調達を活用した取組が積極的に推進されることで、新たに生じる課題(発注者の法的リスクの増加等)等も踏まえ、今後、検討が必要と考えられる事項について検討することとしたい。

特定の政策目的を達成するためには、税制優遇等、公共調達以外の様々な政策手段が考えられるが、この数多くの政策手段のなかで、なぜ公共調達を選択するのか、この問いに対して何らかの説明をすることは、予算の効率的な執行の上で重要であろう。他の政策手段との精緻な比較とまでいかなくとも、少なくとも、公共調達を活用することの有効性を明確化するとともに、公共調達を活用した結果、政策目的がどの程度、達成されたのかを明らかにする必要があると思われる。つまり、「公共調達を活用した取組の事前・事後の有効性の検証」を行うことで、際限なく公共調達を活用した取組を増加させるのではなく、有効な取組を検証し、これに注力し、予算の効率的な執行、さらには、発注者の法的リスクの低減が可能になるのではないかと考える。例えば、以下のような有効性の検証を行う際の視点が考えられるだろう。

図表2 公共調達を活用した取組の検証の視点(例)

■公共調達を活用した取組は”政策目的を達成する蓋然性が高いか”

  • 公共調達からの受注額が市場で一定の割合を占め、公共調達を活用することで、目指す方向に企業等の行動パターンを促進し得る場合、特定の政策目的の達成に公共調達を活用することは有効であるかもしれない。例えば、女性活躍推進の取組が芳しくないものの、公共調達からの受注額が一定割合を占めている産業・企業において、公共調達を活用することで、目指す方向に企業等の行動パターンを促進し得る可能性は考えられるだろう。
  • このようなインセンティブを得る産業・企業の規模、公共調達の影響度、企業等の行動変化のロジックを予め明確化することで、公共調達を活用して政策目的を達成する蓋然性が高いか、公共調達を活用した取組は有効であるかを検証することができるだろう。

■公共調達を活用した取組は”政策目的の達成に寄与しているか”

  • 公共調達を活用した取組でインセンティブを得る産業・企業において、実際に、特定の政策目的(女性活躍推進等)が達成又は促進されているかを明確化することで、取組の有効性を検証することができるかもしれない。英国では、公共調達における受注機会の増大に関わる進捗評価レポートのなかで、個別事業者の事例(中小企業者が公共調達を活用し事業拡大を実現した事例等)を掲載し、公共調達を活用した取組の政策目的の達成状況を検証している。
  • さらに言えば、公共調達を活用した取組が”他の政策手段(補助金等)と比較して費用対効果が高いか”、”政策のトータル・コストが削減されたか”といった他の政策手段との比較や総合的な観点からの検証も重要であろう。

 

4.最後に

上記では、公共調達を活用した取組が積極的に推進されることで、新たに生じる課題等も踏まえ、今後、検討が必要と考えられる一つの事項として、「公共調達を活用した取組の事前・事後の有効性の検証」を取り上げた。実際の有効性の検証においては、様々な視点から実施する必要があるが、少なくとも、公共調達を活用した取組によりインセンティブを得る産業・企業の規模、これらに対する公共調達の影響度、企業等の行動パターンが変化するロジック、政策目的の達成状況(事例等)等の事前・事後の検証を行い、公共調達を活用した取組のなかでも、相対的に有効な取組がどのような取組であるかといった検証結果を積み重ねていくことは、今後の公共調達を活用した取組を進める上で重要ではないかと考えている。

【参考文献】
藤田武史(2011)「政府調達における財政法的規律の意義-「経済性の原則」の再定位」財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成23年第3号(通巻104号)
第12回行政改革推進会議資料(平成26年8月8日)

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