ソーシャル・インパクト・ボンドを活用した地域振興を考える

2015/03/27
公共経営・地域政策部 副主任研究員 岡田 玲子
主任研究員 大塚 敬
副主任研究員 萩原 理史

人口減少社会のなか、税収以外からの財源の確保は、特に地方の自治体では今後大きな課題になると想定される。行政現場においては、法定外税やミニ公募債などの形で、税収以外からの資金調達が行われてきた。近年は、クラウドファンディングにより調達した資金を原資に、行政サービスを提供する自治体も出てきている。

一方、イギリスなどを中心に海外においては、民間資金を原資に社会的企業に行政サービスを委託し、成果に応じて行政がアウトカムを買い取る「ソーシャル・インパクト・ボンド」を導入した行政サービスの提供を実施する国や自治体が出てきている。

本項では、ソーシャル・インパクト・ボンドによる地域振興の可能性について考察する。

1.ソーシャル・インパクト・ボンドの運営メカニズム

ソーシャル・インパクト・ボンドとは、投資家(篤志家、財団等)から調達する資金をもとに、行政から委託を受けた民間事業者が行政サービスを提供し、事業の成果に応じて行政が投資家に資金を償還する仕組みである。主に予防的措置、早期介入の分野に向いた仕組みで、予防、介入しなければ将来的に発生したであろう行政支出の削減分が投資家への償還資金の原資となっている。

ソーシャル・インパクト・ボンドのスキームは以下の通りである。まず、中間支援組織と行政が、社会課題を解決するために民間資金を投入したい行政サービスを選定し、事業の評価指標と投資家への支払条件を設定する。続いて、中間支援組織が投資家から資金を募り、中間支援組織―行政間、中間支援組織―投資家間で成果報酬型の複数年契約を締結する。そして、投資家から調達した資金をもとに、行政サービスを民間の企業・NPOなどへ委託し、事業期間が終了した後、事業の成果が行政、投資家、サービス提供事業者間で事前に合意した水準に達した場合には、行政から投資家に元本とリターンが償還される。事業の成果が事前に合意した水準に達しない場合には、元本を含めた支払はなされず、実質、寄付となる。

なお、「ボンド」という言葉が入っているが、グローバルにみても債券を発行しているケースはこれまでのところなく、投資家、行政、実施事業者それぞれと中間支援組織の間の相対契約により成立しているスキームである。

図表 1 ソーシャル・インパクト・ボンドの運営メカニズム

 

2.ソーシャル・インパクト・ボンドの可能性と課題

■可能性

(1) 行政のリスクを投資家に移転することで中朝的な視野で、より効率的な行政サービスの提供が可能となる

財源が逼迫するなか、予防あるいは早期介入施策の重要性は認識されているが、そのような施策は資金投入から成果が出るまでに長い時間がかかること、実績が少ないことから、行政が予算をつけにくいという事情がある。ソーシャル・インパクト・ボンドは、行政のリスクを社会課題の解決に関心を持つ投資家に移転することで、中長期に渡り、現行の施策よりも低コストで高パフォーマンスなサービスを提供することが可能となる。

(2) 行政は事業の結果を見てから、成果を買い取るため、より円滑に行政機関内の合意形成が可能となる

ソーシャル・インパクト・ボンドでは、事業の当初年度では予算措置は不要であり、行政は事業の成果が出てから委託費を支払う形式をとるため、実績が少ない分野においても、より円滑に行政機関内部での合意形成が可能となる。

(3) 行政サービスの提供事業者にとっては、事前に事業資金を得ることができ、さらに過程ではなく成果が評価されるため、よりイノベーティブな取り組みが可能となる

ソーシャル・インパクト・ボンドは、事業の成果が評価されるが、その過程は問われない。たとえば、イギリスの事例では、ホームレスの社会復帰支援プログラムにおいて、集団生活と就労トレーニングを提供するシェルターへの入所を誘導し、その滞在率を高めるため、関係者へのヒアリング結果を踏まえてシェルターに新たにテレビが設置された。通常の委託では、行政サービス提供事業者には、事業実施後に委託費が支払われることが多く、さらに、行政への報告は成果よりも過程が重視されるため、たとえ行政サービスの効率性が上がるとしてもテレビのような贅沢品を委託費で購入することは認められない。

ソーシャル・インパクト・ボンドは、成果を評価するため、行政サービス提供事業者にとっては、より創意に富んだ取り組みが可能となり、その点ではサービスイノベーションが期待できる仕組みと言える。

(4) 行政サービスの提供事業者にとっては、投資家との接点ができることで、社会的評価の向上による資金調達、事業機会の拡大が期待できる

ソーシャル・インパクト・ボンドは、民間から資金を調達する。そのため、行政サービス提供事業者にとっては、投資家との接点が増えることで、資金調達先の拡大が期待できる。また、事業の成果が広く公表されるため、成果をあげることができれば、事業機会の拡大も期待できる。

■課題

(1) 成果評価の方法、事業者選定の方法などの点において課題がある

ソーシャル・インパクト・ボンドは、サービス提供事業者が生み出した社会的成果を行政が買い取るというスキームである。そのため、社会的成果の評価の客観性が担保されることが、行政にとっても、投資家にとっても、さらには市民にとっても重要な要素である。社会的成果を定量的に計測する評価手法として、SROI(Social Return On Investment)などが開発されているが、トラックレコードも少なく、さらに定量化にそぐわない社会的成果もあるため、誰もが納得できる評価手法とはまだ言い難い。

また、通常の行政サービスの業務委託では、より低コストで行政サービスを実施してくれる事業者を選ぶという要素が強いが、ソーシャル・インパクト・ボンドでは事業者によってもたらされた社会的成果を行政が買い取るため、よりよい成果をもたらす事業者を選定する必要がある。また、通常の行政サービスの業務委託では、公募により事業者の選定が行われるが、ソーシャル・インパクト・ボンドでは、中間支援組織が行政サービスの提供事業者を選定するのが一般的であり、行政が公平性や透明性を担保することが難しくなる。

このように、通常の行政サービスの業務委託とは異なる方法で事業者を選定するため、その手法を確立する必要がある。海外においても、状況に応じてフレキシブルな設計がなされており、イギリスでは、中間支援組織と事業者がセットで公募されるケースも出てきている。日本でこのスキームを導入する際にも、最適な事業者を選定するための日本の実態にあった設計をしていく必要がある。

ステークホルダーごとに想定される課題(デメリット)は下表の通りである。

図表2 ステークホルダーごとに想定される課題(デメリット)

主体 課題
行政 ・事業者の意欲を引き出すためにも、評価の客観性を確立する
 ことが必要
・最適な事業者を選定する手法の確立が確立されていないと
 効果が十分に得られない
・事業者に対し、成果に応じた配分や投資家からの資金引き
 揚げのプレッシャーがない場合、モラルハザードが起こる
 リスクもある
・地方単独事業ではない事業の場合に、行政コスト削減効果の
 全てが事業主体(行政)にもたらされない
・通常の業務委託よりも事務負担が大きい
投資家 ・評価の客観性が確立されなければ妥当な投資対象とならない
行政サービスの提供事業者 ・通常の委託業務よりも手続負担が大きい
・通常の委託業務よりも成果が上がらなかった場合の
 レピュテーションリスクが大きい
市民 ・評価の客観性が確立されないと、通常の業務委託を超える
 事務負担があるため、かえって行政投資効率の低下となる
 可能性が高い

 

3.海外における動向

世界発のソーシャル・インパクト・ボンドは、2010年にイギリスのPeterborough刑務所における軽犯罪者再犯防止プログラムに導入された。

その後、2011年~14年にかけて、イギリスのほか、アメリカ(マサチューセッツ州、ニューヨーク市)、カナダ(サスカチュワン州)、オーストラリア(ニューサウスウェールズ州)、オランダ(ロッテルダム市)などでソーシャル・インパクト・ボンドのスキームを導入した事業が実施されている。事業のテーマは、再犯防止のほか、ホームレスの社会復帰、児童養護、若者の就労支援、2型糖尿病の予防、就学前教育支援、中退防止など様々である。

ソーシャル・インパクト・ボンドは、定量的に評価がしやすい事業、通常の業務委託よりも高くつくトランザクションコストを吸収できるだけの規模の事業、評価指標の取得に時間やコストがかかりすぎない事業で導入される傾向がみられる。

図表3  Peterborough刑務所における軽犯罪者再犯防止プログラム

主体 課題
概要 ・刑期が1年未満の軽犯罪受刑者3,000名を対象に、収監中から出社後の
 地域社会への復帰までの期間、受刑者、家族、地域、ボランティアの
 サポートプログラムを実施
・2010年9月より評価機関をあわせて8年間(予定)のプログラムを実施
・2015年以降は、成果が確認できたため、司法省が政策を変更し、
 再犯防止プログラムを全国展開することを決定
ステークホルダー ■行政:司法省
■投資家:慈善団体等17の社会投資家(500万ポンドを調達)
■サービス提供事業者:複数のサービス提供事業者が連携
元本償還の条件 ・受刑者を3つのグループに分け、1つのグループでも再犯率が
 プログラムを受けなかった同種の犯罪者と比較して10%低下するか、
 3グループの平均で7.5%低下することが元本償還の条件
・2013年の中間評価では、全国平均に対して再犯率が23%下回った

 

4.日本の動向

2013年6月のG8サミットにて、イギリスのキャメロン首相の呼びかけにより、サミットのサイドイベントとして社会的インパクト投資フォーラムが開催され、その結果、社会的インパクト投資タスクフォースが発足した。この流れを受けて、日本においてもタスクフォース・ナショナルアドバイザリーボードが設立され、日本においてインパクト投資市場を拡大するための方策が議論されている。

2014年9月に社会的インパクト投資タスクフォースが発表したレポートのなかには、ソーシャル・インパクト・ボンドなどの成果報酬型の公共調達を推進するという提言が盛り込まれており、日本の国内諮問委員会においても、事務局の日本財団とソーシャル・インパクト・ボンド研究の第一人者である慶應義塾大学の伊藤健特任助教を中心に、日本におけるソーシャル・インパクト・ボンドの第一号案件の組成に向けた動きが見られる。

具体的には、2014年6月に、日本財団が中間支援組織兼投資家となりソーシャル・インパクト・ボンドのパイロット事業をすることを決定し、パイロット事業の組成に向けて動いている。このパイロット事業は、日本財団が事業費を全額負担する形をとっており、行政のコスト負担はない。2014年9月に社会的インパクト投資タスクフォースのレポート発表にあわせて開催されたシンポジウムのなかでは、横須賀市と尼崎市においてソーシャル・インパクト・ボンドのパイロット事業が調整中であることが発表され、日本財団によると、来年度早々にはパイロット事業の第一号案件がプレスリリースされる予定とのことである。

なお、ソーシャル・インパクト・ボンドを本格導入する際には、日本財団は中間支援組織としての役割を担うことが予定されている。ソーシャル・インパクト・ボンドの実現に必要不可欠な中間支援組織が出現したことで、ソーシャル・インパクト・ボンドの実現可能性が大きく前進したと言える。

5.ソーシャル・インパクト・ボンド普及に向けた課題

■可能性

(1) 信頼性の高い評価手法の確立

事業の成果と行政コスト削減効果の評価は、行政の負担と投資家へのリターンを規定する償還額の基準であるとともに、事業主体の社会的評価を左右するものであり、すべての関係主体に影響を与える本制度の根幹をなすツールである。このため、信頼性、客観的妥当性が高い仕組みを確立することが必要である。

(2) 幅広い投資家からの出資の確保

市民の事業への認知度の向上、優秀な事業主体の社会的評価の向上、社会的投資の活性化などの観点から、特定少数の大口投資家による資金調達ではなく、より幅広い投資家からの出資を実現する必要がある。

(3) 担い手の育成と選定の仕組みの確立

事業の要となる中間支援団体、事業の直接の担い手となる行政サービス提供事業者の両方に適切な事業者を選定しないと十分な成果が期待できない。このため、こうした事業者を育成するとともに適切な事業者を選定するための仕組みを確立することが必要である。

(4) 日本の実態にあった適切なリスク分担のあり方の検討

ソーシャル・インパクト・ボンドのモデル的な枠組みでは原則として金銭的リスクは投資家が負うこととなっている。しかし、これは事業成果が上がらなかった場合に行政が何らの責任を負わないということが許されるか、事業主体がレピュテーション以外にリスクもリターンもないという条件で成果向上のインセンティブが働くのかなど、日本の実態にはなじまない可能性が高い。このため、日本版ソーシャル・インパクト・ボンドの確立にあたり日本の実態にあった適切なリスク分担のあり方を検討する必要がある。

(5) 指標による成果の定量化が困難な事業への対応の検討

外在的要因の影響を受けやすく成果を測れない事業、そもそも定量的な指標で成果を測ることが困難な事業、取り組みの効果が成果に結びつくまで時間を要する事業など、指標による成果の定量化が困難な事業は現在想定されている枠組みは適用できない。こうした事業に対応した新たな枠組みについても今後の可能性について検討する必要がある。

(6) 国、都道府県の補助事業における工夫の必要性

国、都道府県の補助事業において導入のメリットが減殺されない枠組の検討が必要である。

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