『施策立案プロセスに対話文化を』(3)パブリックセクターにおける対話文化の醸成

2015/05/29
経済社会政策部 副主任研究員 家子 直幸
主任研究員 杉原 美智子
環境エネルギー部 研究員 松岡 夏子
研究員 小川 拓哉

本稿では、パブリックセクターにおける対話文化の醸成、すなわち官公庁や地方自治体等の行政が各種業務を執行する際、フューチャーセンター(以下、「FC」)に見られるような対話の手法を活用するための方策を考察する。

■対話がパブリックセクターにもたらすメリット

本連載の第1回で述べたように、FC等を通じて関係者による対話から解決策を導き出すという手法は、ステークホルダー間の新たな関係性を構築し、創発的なアイデアが生み出され、協調的なアクションが起きる、などの効果が期待される(野村 2012)。

対話が持つこのような効果は、パブリックセクターにとっても大きなメリットをもたらす。

まず、ステークホルダー間で新たな関係性が構築されることで、「縦割り」と呼ばれる組織や分野の壁を越えた取組みが促される。また、行政だけで検討していては発案されないような創発的なアイデアの創出により、行政が直面している複雑かつ高度な社会的課題の解決に糸口を見出せる可能性がある。さらに、協調的なアクションが促されることで、社会的課題の増大に比して行政機能の拡大に限界がある中、企業セクターやNPO・市民セクターの主体的な参画を得られやすくなる。

■パブリックセクターにおける対話文化の現状

既にパブリックセクターでは、業務に対話の手法が取り入れられている。例えば、タウンミーティングで首長や行政幹部と住民との意見交換の場が設けられたり、公募委員を交えた総合計画等の策定プロセスが講じられたり、施策案に対してパブリックコメント形式で広く意見を募ったりする取組などが挙げられる。また、FCで行われる対話の手法に最も近い動きとして、連続的なワークショップの開催を通して活動の発案から実行(及び行政支援)までをセットにした「市民協働」を推進する自治体も多く、FCの活用を明言している富山県氷見市や静岡県牧之原市のような先進的な自治体も現れている。

しかしながら、多くの自治体で行われている対話の取組は、施策立案プロセスの一部を切り出したものであり、FCのように課題認識、テーマ設定、状況分析、合意形成、施策立案、施策実行に至るまでを包括的に取り扱うものは極めて少ない。また、パブリックセクターによる対話では、施策実行までの作業効率やステークホルダー間の信頼関係の向上のためにも、あとの道筋(プロセス)と透明性を明示することが重要であり、オープンな手法が望まれる(中野 2001)。しかしながら、現状では限られたステークホルダーしか参加していないケースや、参加者に限定的な情報しか与えられないケース、そもそも行政が結論ありきで企画しているケースも多く、対話による十分な効果が発揮できていないのが現状である。

このように、対話文化がパブリックセクターで十分に根付いていない背景としては、主に以下の3点が挙げられよう。第一に、これまでは行政機能が社会的課題に比して十分な能力を有しており、対話の手法を活用せずとも課題解決を図ることができていた。このため、行政は対話の手法に対して大きな期待を寄せてこなかった。第二に、行政が直面している社会的課題に関心を持つ層が狭く、直接的な利害関係者に限って議論が進められてきた。換言すれば、行政による情報公開の推進や能動的な働きかけ等、より広い層をステークホルダーとするための地道な努力にまで手が回っていなかった。第三に、対話の手法に対する行政職員の理解や経験を深める機会が乏しく、対話の手法を活用するイメージや期待が形成されていなかった。

■対話文化の醸成に向けたステップ

パブリックセクターが施策立案プロセス全体に対話の手法を取り入れるためには、現行の業務プロセスを改革する必要が生じるため、実行上の難しさも想定される。そのため、着実に対話文化を醸成する方法として、複数段階のステップに分けて、徐々に対話の手法を導入することを提案したい。

まず、行政内で職員自身が対話の手法を実践することが考えられる。上意下達の意思決定を行うだけでなく、首長や行政幹部の理解のもと、ボトムアップ型の意思決定や企画立案に行政職員が関わる機会を設けることで、対話の必要性・重要性を会得することが可能である。また、市民や事業者が参画する検討委員会等の場に対話の手法を活用することも想定できる。

図表.施策立案プロセスにおけるFCの導入ステップ案

次に、他のセクター主催で行われているワークショップや異業種交流会、地域座談会などと連携して、他のセクターと協働するきっかけを作るステップを設けるとよいだろう。一例として、青森県弘前市は弘前大学が開催している対話型ワークショップ「5年先を見据えた弘前市の健康づくり」に参画しており、大学関係者や市民ボランティアとともに、がん検診受診率向上のための施策等を検討している。このように、ハコモノとしてのFCがない地域でも、行政・民間主催での交流の機会は多くあることから、対話を通じて試行的に協働プロジェクトを立ち上げる方法も有効である。

最終的に、これらの試行的な取組を通じて得られた効果やコストを検証し、各所掌分野における対話の手法の活用可能性・方針を検討するステップを設ける。行政としての予算制約がある中で、新たにFCを設置するのか、既存の施設を利用するのか、他の主体と連携するのか、といった様々なオプションを並べてみて、ステークホルダー別のニーズや運営体制を考慮した効果やコストを見比べ、中長期的な運営のあり方を決定するとよいだろう。

パブリックセクターに対話文化が根付くことで多くのメリットが享受できると期待される一方、現状では対話の手法が十分に取り入れられているとは言い難い。FC等の対話の手法を活用して施策立案プロセスに対話文化を取り入れる際には、複数段階のステップを設ける形で対話文化を浸透させることが望まれる。

【文献】
・「フューチャーセンターをつくろう 対話をイノベーションにつなげる仕組み」(野村恭彦、プレジデント社、 2012)
・「ワークショップ 新しい学びと創造の場」(中野民夫、岩波書店、 2001)

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