これからの学校給食センター整備における課題と可能性

2015/08/03
官民協働室 兼 公共経営・地域政策部 研究員 赤木 升
食産業・農林水産業戦略室 兼 公共経営・地域政策部 研究員 髙原 悠

はじめに

財政の悪化や人口減少の進展を背景に公共施設の効率的な配置は地方自治体にとって大きな課題となっており、新規の施設整備に当たっては中長期的視点に立った検討や分野横断的な検討が求められている。

ここでは、学校給食センターを事例にその問題を具体的な文脈から整理するとともに課題対応の方向性について考察する。

1.人口減少による遊休設備の発生

学校給食の提供手法としては、学校内に調理場を設ける自校方式や、民間事業者が自社の工場で調理した弁当を各学校に届ける弁当方式(デリバリー方式)等多様な手法がある。その中で、地方自治体において新規に一定規模(食数によるが建築面積数千㎡程度)の施設整備が必要となる手法として、センター方式がある。センター方式の場合、地方自治体が数千食規模の給食調理拠点(学校給食センター)を設け、そこで大量調理を行い、そこから配送車により各学校へ食缶により給食を届けることになる。

ここ数年、老朽化が著しいことや、また、HACCP概念の導入、ドライ方式の導入といった高度衛生管理への対応等の必要から、多くの地方自治体において、学校給食センターの建替えの検討が進んでいる。その際に課題となるのが、将来的な遊休設備の発生である。

学校給食センターは多くの場合、鉄骨造で建設される。鉄骨造の場合、建物としての寿命は少なくとも40年程度である。他方で、給食の対象となる生徒・児童数は減少が進んでおり、今、学校給食センターを整備しても、建物の寿命の終盤には、必要とされる食数の大幅な減少が予想される。例えば、日本全体の人口推計で考えると、0~14歳の人口については、20年後の2035年には約30%減少、40年後の2055年には約45%の減少となっている。そのため、極端な言い方をすれば、今整備する学校給食センターについては、施設の寿命の後半においては3分の1以上が無駄となるとも言える。

図表 14歳以下の将来人口の推計

注) 出生中位(死亡中位)推計
出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」よりMURC作成

実態としては、厨房機器をはじめとする設備を更新時に削減していくことで、余剰設備の発生は一定抑制できる。ただ、学校給食センターはその高度衛生管理、調理に向けた効率的な動線配置といった特徴から、あらかじめ入念に計画していなければ、建物の縮減や転用は容易ではない。そのため、建物自体として、いずれにしても余剰や非効率が生じる可能性が高い。

2.対応方策としての多用途化の可能性

このような遊休設備の発生に対し、中長期的な視点から考えられる対応としては、用途転用が考えられる。学校給食センターには「調理設備」「調理員」「配送車両」「調理実習室」「研修室」といった資源が存在している。こうした資源は必ずしも学校給食のみに使用されなければならないものではなく、視点を変えれば、他の行政サービスにもおおいに役立つ可能性がある。例えば、学校給食センターの研修室を一般開放し、地域住民の交流の場としている地方自治体もある。

その中で、近年、いくつか事例があり、また、今後更なる拡大が期待される分野として学校給食外での配食サービスの実施、とりわけ、学校給食センターを活用した高齢者等に対する食事の提供がある。学校給食センターの持つ「調理」「配送」といった本来の能力を活用しつつ、高齢者福祉という増大するニーズに対応できる分野である。

3.高齢者向け食市場の概況

国では国民の健康寿命(日常生活に制限のない期間)の延伸を掲げており、健康な食事の推進や介護予防等の観点からも、人口増加の著しい高齢者向けの食市場は拡大・多様化していくことが予想される。また、高齢者人口の増大に加え、今後は生涯可処分所得が多い厚生年金世代が後期高齢者になるため、高付加価値型サービスの需要が生じる可能性が指摘されることもある。

実際、近年、社会福祉協議会、介護サービス事業者、給食事業者、コンビニエンスストア等様々な事業者が市場に参入し、食事宅配サービス(配食サービス)等の多様な高齢者向けの食品・食事提供サービスが展開されている。

しかしながら、こうしたサービスにおいて、安定した利用者の獲得や食材・デリバリーコスト、消費者の多様なニーズへの対応等に課題を抱える事業者も多い。例えば、地方部等で採算性が取れないためにサービスの提供範囲外に置かれる高齢者が存在する場合や、食べなれた味へのニーズ、「高齢者向けサービス」を利用する事を近所に知られたくない等の理由から高齢者側がサービスの利用に抵抗感を持つといったことがある。

そのため、今後は、地域の実情に応じた多様な食事提供の形態が求められていくだろう。その中で、例えば、学校給食センターを活用した弁当の個別宅配や、学校給食の公民館等への一括配送による会食サービスの提供、調布市社会福祉協議会等が行っている学校給食の時間に合わせて高齢者が小学校を訪問し共に給食を食べる等の取り組みは今後拡大する可能性があると考えられる。

また、高齢者の食という観点からは、昨今、調理に対する抵抗や身体的な制限による調理困難、小食による低栄養リスクの増加が懸念されており、高齢者に対する食育の必要性も高まっていくと予想される。また、既存の食事宅配サービスや配食サービスは、事業者によりサービスの質が分かれており、必ずしも高齢者が抱えている食に関する課題(例えば、低栄養リスクや孤食(一人で食事をとること))の解決等に繋がるとは限らない。地域内に既に調理設備・輸送インフラ・実習室・研修室を持つ学校給食センターを活用しながら、学校給食センターが持つ設備だけでなく、食育の知見や経験等を活用して、地域内の食により深く関わっていくことが期待される。

 

4.学校給食センターを活用した高齢者等に対する食事の提供を行っている例

実際に学校給食センターを活用し高齢者等に対する食事の提供を行っている例としては、海老名市と遠野市があげられる。

神奈川県海老名市では、昭和48年、昭和53年にそれぞれ設立された2つの学校給食センターを廃止し、新たに調理能力8,000食/日の学校給食センター「食の創造館」を平成24年9月に設立した。同センターは、災害時の3,000食の炊き出しや、調理実習室の一般開放といった機能に加え、幼稚園給食や高齢者対象の配食の機能を有している。

岩手県遠野市では、既存施設の老朽化を踏まえ、平成25年4月に複合化した学校給食センターとして「遠野市総合食育センター」を設立している。同センターは、学校給食の調理能力が最大2,500食/日であり、見学施設の充実や地場産物の活用、防災対応といった様々な機能を持つ。加えて、少子高齢化という社会動向を含め、高齢者向けの配食サービスの機能が付加されている。宅配弁当の調理能力も最大100食/日を有しており、高齢者の見守りと安否確認を兼ねた「宅配弁当等の提供」が社会福祉法人遠野市社会福祉協議会により行われている。

5.多様な学校給食センターを検討する上で求められる「かけ算」の発想

海老名市、遠野市のどちらの事例も地方自治体のそれぞれの事情を踏まえ、施設整備の段階から配食サービスをできるような機能を持った施設整備を行った事例である。しかし、児童・生徒数の減少にあわせ生じた余剰設備をこうした配食サービスに事後的に切り替えていくことも考えられる。ただし、その場合には、学校給食センターとしての機能を予め縮減、転用が可能なように配置する必要があり、事前にニーズを把握・検討した上で、十分な設計面での配慮が必要となる。

少子化の一方で、高齢者が増大していく状況や高齢者に対する配食サービスの現況を踏まえると、施設整備段階から適切に計画することができれば、こうした需要を取り込むことで、遊休化を避け、建物の寿命期間全体にわたり施設を効率的に活用することも可能である。

さらに、「食」の観点から分野横断的に考えることで、高齢者以外にも多様な対象への配食サービスの可能性が検討の対象になる。例えば、今後は社員食堂のない地域内の企業向けに弁当宅配等を行う等、地域企業からのサービス需要も潜在的にあると考えられる。

ただ、こうした多様な活用を検討することは、従来のように学校給食センターを「ハコモノ」の1つとみなし、その効率的=低価格での整備に主眼を置くような発想では難しい。そうではなく、公共施設マネジメントの観点から、学校給食センターの持つ資源、地方自治体の現況、将来の動向等を分野横断的に分析し、学校給食センターを「行政サービスの提供拠点の1つ」を捉え直した上で、必要な機能を検討する視点が求められる。「学校給食×福祉」「学校給食×コミュニティ支援」といった複数分野の専門家の連携による検討がなければ、こうした施設の検討は難しい。また、高齢者向け給食について言えば、既に社会福祉法人が担い手となっている高齢者向け配食サービス等の既存サービスがあることも多く、円滑な事業実施に向けては、異なる分野間での高い調整能力が求められる。

加えて、こうした新しい施設を創り出していくためには、現在、給食運営を担っている企業をはじめとした民間事業者の知見・ノウハウを効果的に活用する必要がある。この点においても、単純に枠組みの決まった事業に対し参画意向や条件を確認するという形式ではなく、対話方式や民間発案の利用等を通じて、官民が対等な立場でアイディアを出し合えるような形式での官民連携により検討を進める必要がある。

参考文献

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