対話をアクションへ:アート・オブ・ハーベスティングの可能性(前篇)―市民協働による地方創生に向けて「対話」に工夫を―

2015/08/27
公共経営・地域政策部 研究員 渡邊 倫

1.はじめに

1-1「対話」をアクションへ

現在、総務省では『地域の元気創造プラン』の一環として、公共施設の空きスペースの利活用に力を入れている(注1)。これは地方創生を背景にして、たとえば図書館をカフェなどに利用することや、起業希望者に安価で貸し出すことなど、公共施設の空きスペースを利用して街のにぎわいを取り戻そうという動きである。

一例として、学校の空き教室に介護施設を新たに開設するという事例を挙げる。介護施設の設置というハード面だけではなく、運用というソフト面を見れば、学校と介護施設の間での運用に関するルール作りや、施設利用者と生徒の世代間交流などの新たな企画の話が中心になる。これらの場合には、様々な利害やアイディアを持った人が集まり、議論する対話の場が必要であり、多くのワークショップなどが実施されている。しかし、こうしたルールづくりや新たなイベント企画の話でいえば、対話の成果を実際のアクションに移していかなければ、それは非常にもったいないことである。「対話して終わり」にするのではなく、「実際にアクションする」ことが重要である。

今後、市民協働の地方創生を考える上で、市民を含め様々なアクター間の対話は不可欠である。その際に、単に話合って終わりではなく、対話をアクションに繋げていく工夫が求められている。

1-2「対話」は自然にアクションにつながるものではない

「対話」への批判は決して少なくない。その代表例が、「ただ集まって話しあっても成果につながらなければ意味がない」「話しあうことが目的化していて、アクションにつながらない」といったものである。

このように「対話」に対する諦めのような意見があるのも事実である。しかし、本稿では、こうした批判に対して、アクションにつながらないから対話を諦めるのではなく、「対話を次のアクションにつなげるにはどうするか」、積極的な観点から考えていく。そこで、まずは対話がアクションに自然に繋がるのではなく、繋げるための工夫が必要である点を指摘したい。その上で、北欧を中心に実践されている、対話の中でより多くの成果を生み出し、そしてそれらをアクションに繋げるための工夫を一連のプロセスの中で示した「アート・オブ・ハーベスティング(Art of Harvesting)」について紹介する。本稿では、その仕組みを概観した上で、その課題と応用可能性について検討を行う。

2.対話をアクションにつなげるには?

2-1 対話の「成果」とは

「対話」についての最たる批判は、対話の後に話し合って決めた内容がどのように扱われるのかが不透明であるという声である。

対話の目的とは、多様な価値観や利害を持った人が集い、議論し、成果を生み出すことである。ここでいう「成果」とは、自分とは異なる意見に対する気づきや、協働可能性の発見、あるいは市民提案のような目に見える形での政策への反映まで様々である。しかし、こうした対話の成果が、対話の後にどのように扱われるのかについて、決まっていないケースも決して少なくない。例えば、これらは、行政における対話でいえば、住民参加の免罪符のように使われる場合であり、企業経営における対話でいえば、とりあえず何か話し合えばイノベーションが生まれるという淡い期待のもとに使われる場合などである。

対話を工夫もなくこなすだけでは、せっかく対話で何か成果につながるものが発芽したとしても、熱が下がってしまう。逆に、対話に対する幻滅と諦めにつながってしまうこともある。もちろん、すべての対話が成果を生み出すわけではなく、アクションにつながるわけではない。しかし、対話の中で「成果」が生まれた場合に、それを逃さずにアクションにつなげるために、工夫を重ねていくことが不可欠である。

2-2 対話後の「アクション」とは

では、対話の成果をアクションに移すとはどういうことだろうか。「アクション」とは、(1)行政計画の策定過程への参加というケースでいえば、対話の成果を市民提案として計画に実際に反映させることである。また、(2)市民と行政との協働可能性(市民が実施者)を探るというケースでいえば、実際に対話で示された方向性を市民と行政が実施していくことである。さらに、(3)イノベーションを生み出すというケースでいえば、新たなアイディアを実際に実践することである。

それぞれ、アクションに移すためには、(1)であれば対話の成果を政策へ反映することについて、行政側が計画策定のプロセスに初めから組み込んでいることや、首長や議会などが市民提案を尊重する姿勢を取っていることが必要である。そして、それを対話の場において参加者に示すことが求められる。一方で、(2)や(3)については、参加者は単に意見を出すだけではなく、実施者という側面もある。その場合には、参加者自身が対話の後にアクションにつなげる更なる工夫が必要になる。以下では、特に(2)と(3)についてより深く考察したい。

3.アート・オブ・ハーベスティングという仕掛け

3-1 アート・オブ・ハーベスティングとは

アート・オブ・ハーベスティングは、対話の中からより多く成果を生み出し、それらをアクションにつなげるための「仕掛け」であり、北欧を中心に、対話の場に取り入れられている。

アート・オブ・ハーベスティングでは、組織やコミュニティに変化を起こすことを目的に対話を行い、実際にアクションにつなげるためにホスト(いわゆるファシリテーター)と連携しワークショップの運営を行う。このような目的で対話をデザインする方法として、次の8つのステップを示している(図表1を参照)。なお、8つのステップのそれぞれの段階において、「拡散(多様な視点を取り入れる)」し、「収束する(行動できるレベルまで明確にする)」という2つの要素が含まれていることを「吸ってはく呼吸のリズム」に例え、「8つの呼吸」(8ブレス)と呼ぶ。そして、アート・オブ・ハーベスティングでは、この8ブレスが機能するように支援していく。

図表1:対話をアクションに移すための8ブレス

<企画>
(1) 駆り立てられる:中心的にプロセスを動かしていく強い当事者意識を持つ人がプロセスを立ち上げ、また強い当事者意識を持つ人を巻き込んでいく。
(2) 大切なことを明確にする:対話の目的、対話を通して何を得たいのかを明確にし、共有する 。
(3) 支度を整える:参加者が気持ちよく対話が出来る環境を整える。具体的には、「場所を確保する」、「ホスティングチームを組織する」、「呼びかけの問い(Calling Question)を考え広く参加を呼び掛ける」、「対話のプロセスを設計する」、などである。

<当日>
(4) 集う:参加者が集まり、対話を実践する。
(5) ハーベストする:対話を通して得られた価値を収穫(ハーベスト)し、参加者間で振り返りの機会を持つ。そしてアクションに繋げるために更なる対話をする。

<対話後>
(6) 行動する:実際にアクションに移す。
(7) 振り返る:アクションについて、評価し、改善するための対話の場を持つ。
(8) 全体を通してやってみる:とりあえず、途中で中断することなく、(1)から(7)までを一連のプロセスとしてやり通す。

(参考)サステイナビリティ・ダイアログ「場づくりに終わらない場の作り方」(「理論とストーリーテリングとダイアログで学ぶArt of Harvesting」(2015年4月12日)配布資料

3-2 アクションに繋げるための8ブレス

これらの8ブレスのポイントになる点をいくつか紹介したい。

まず、2つ目のステップである「(2)大切なことを明確にする」では、対話から何を得たいのかを対話をはじめる前に明確に共有することが重視されており、アクションに移すことを最終目的として設定することで、より実現可能性のある成果が生まれるように考えられている。また、アクションを意識することで、単なるアイディア出しではなく、どのようにアイディアを実現するかまで議論することが可能になる。さらに参加者が、自らが実施者であることを意識することで、議論の中身により一層責任を持つことができる。その点では、市民意識を高めることにも期待できるだろう。

また、7番目のステップの「(7)振り返る」では、一度きりの対話ではなく、対話の中で得られた成果を振り返り、今後のアクションの方向性や実現可能性について確認する機会を設けることで、対話の中で生まれた成果を確実に現実のものにしていくことが意識されている。

次に、これらの工夫のなかで、最も特徴的だと考えられる「(5)ハーベストをする」についてより深く考察したい。

4.対話から価値を収穫(ハーベスト)する

アート・オブ・ハーベスティングは、対話の中で生まれる価値(新たな気づきやアイディア、意見の変容)や「(2)大切なことを明確にする」で確認した「大切なこと」を記録し、それを振り返り共有することで、アクションにつなげるためにはどうすれば良いのかを改めて議論することを重視している。そして、「振り返り」を充実させるためには、記録の仕方を工夫する必要がある。

具体的には、アート・オブ・ハーベスティングでは、グラフィックファシリテーションやフォトファシリテーション、歌など様々な形で、対話から生まれた価値を記録する。特徴的であるのが、単なる文字(議事録など)として記録するのではなく、グラフィックや音楽といった誰もがより親しみやすい形で対話を記録していくことである。現状の議事録など、文字だけによる記録では、意欲的な人を除けば、積極的に見返そうという人はそこまで多くないだろう。そうした課題に対して、より多くの参加者が親しみやすく「もう一度見返したい」と思う形で記録しようとすることは、アート・オブ・ハーベスティングの重要な試みの一つとして挙げることができる。

また、文字による記録だけでは、対話の場の雰囲気や参加者の感情などを記録することは難しい。しかし、アート・オブ・ハーベスティングにおける記録では、そうした既存の記録の仕方では収穫することができなかった価値をとりこぼさずに記録することができる点も指摘したい。例えば、アート・オブ・ハーベスティングの試みの中で採用されることが多くあるグラフィックファシリテーションでは、対話を文字だけではなく、絵に描いて記録する。なお、グラフィックファシリテーションには、決して「こうでなくてはならない」という決まりはない。重要なのは、参加者にとって目を引き、かつ親しみやすく、さらには「もう一度見返したい」と思ってもらえるような形で記録していくことである。

そして、このような形で収穫(記録)された価値を、当日の議論の中で振り返って共有し、そこからどのようにアクションにつなげていくのか議論を行うことがアート・オブ・ハーベスティングの魅力だといえよう。

図表2:グラフィックファシリテーションの様子
図表2:グラフィックファシリテーションの様子

出典)一般社団法人サステイナビリティ・ダイアログHP

(後編へつづく)

 

(注1)総務省「公共施設のオープン・リノベーションを核とした地域再生事業の例」『地域の元気創造プラン』〈http://www.chiikinogennki.soumu.go.jp/chiiki/files/a01.pdf〉(2015年6月8日アクセス)
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