学校給食センターの多機能化:遠野市の取組

2015/12/11
官民協働室 兼 公共経営・地域政策部 研究員 赤木 升
食産業・農林水産業戦略室 兼 公共経営・地域政策部 研究員 髙原 悠
官民協働室 兼 公共経営・地域政策部 研究員 馬場 康郎

1.はじめに

昨今、児童・生徒数の減少や公共施設マネジメントの進展等を背景に、学校給食センターにおいて多機能化が期待されている。(詳細は「これからの学校給食センター整備における課題と可能性」を参照)

他方で、学校給食センターにおいては、安全・安心な給食の安定供給という本来機能を適切に維持するために、高度衛生管理、様々なリスクに対応できる施設運営等が重要であり、その多機能化に当たっては、様々な点の検討が必要となる。

ここでは、実際に多機能化に取り組んだ遠野市の事例をとりあげ、実態を把握するとともに、今後他自治体において検討を進める上での示唆について整理する。

2.遠野市の取組(注1)

■検討の経緯

遠野市には、元々、昭和49年に建てられた遠野学校給食センターと昭和54年に建てられた宮守学校給食センターが存在していた。施設の老朽化や高度衛生管理の必要性から施設の建替えが必要となり、学校給食に関する今後のあり方の検討が行われた。その際、給食の提供方法としては学校給食センター方式が選択され、2つの学校給食センターを統合し、新たに1つの学校給食センターを整備することとなった。他方で、児童・生徒数の減少が予測される中で、新たに整備する学校給食センターにおいて将来的な施設・設備の遊休化が懸念された。

そこで、遠野市では、平成15年より新しい学校給食センターのあり方について調査・検討を実施し、最終的に、学校給食センター機能に加えて、高齢者向けの配食サービス、総合食育推進、防災といった新しい機能を持つ「総合食育センター」の整備を進めることとした。あり方の検討後、遠野市は、事業手法について多様な手法の検討を行ったが、市内企業の状況やこれまでにない取組であり適切なリスク・業務分担に難しさがあったことから、PFI手法等、設計業務、建設業務、運営業務、維持管理業務を一括化して発注する手法は選択せず、各業務を個別に発注することした。

その後、市民懇談会の実施等を通じ計画の詳細化を進めつつ、設計、建設と取組を進め、平成25年、遠野市総合食育センターが完成し、供用が開始された。

図表 1:遠野市総合食育センターの整備に向けた取り組み

時期 概要
平成15~16年 遠野市学校給食センターを活用した総合給食調査
 ・今後の学校給食センターのあり方の調査
 ・付加する機能の方向性について検討
平成18年5月
~平成19年2月
遠野市総合給食センター整備調査事業にかかる導入可能性調査
 ・PFI手法も含め事業手法について検討
平成22年3月 事業整備手法の決定
平成22年5月~10月
平成23年9月~11月
遠野市総合食育センター作成市民懇談会
平成25年11月 遠野市総合食育センター全面供用開始・グランドオープン

出所)遠野市資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

■施設の現況

総合食育センターは延床面積2,256.89㎡、鉄骨造2階建の建物であり、学校給食センターとしては1日2,500食(炊飯機能・アレルギー対応食機能も所持)を提供可能である。加えて、総合食育推進、防災対応、高齢者向け配食サービス等といった機能が付加されている。

総合食育推進については、2階に食育推進室(会議室)・調理実習室が設けられており、防災対応機能としては、熱源として災害時にも復旧の早いオール電化を選定し、その上で停電時にも電気釜等が3日間使用できる非常用電力を備えている。また、災害時には電気釜等を活用し、1日7,500個のおにぎりの調理が可能である。

高齢者向け配食サービスについては、1階に学校給食の調理エリアとは完全に区分けした上で、高齢者向け配食サービス用の宅配弁当の調理エリアとして総合給食エリアが設けられている。また、同エリア内には、広い下処理室、計量・包装室、冷蔵庫等、食材の一次加工に対応できるだけのスペースや機器が確保されている。

図表 2:遠野市総合食育センターの各階平面図

【1階平面図】

1階平面図

凡例
【2階平面図】

2階平面図

出所)遠野市資料

 

■付加された機能の現況

ここでは、学校給食に加えて付加された機能のうち、日常的に行われている総合食育推進と高齢者向け配食サービスについて、その現況を紹介する。

総合食育推進については、本施設が整備されるまでは庁内の各課に分散していた食育に係る業務を統合し、新たに総合食育推進課が設置された。それまでは、地場産物の活用については農林水産業を所管する部署、高齢者向けの食育指導(栄養講習等)は保健福祉を所管する部署、学校給食については教育委員会と所管が分散していたが、効率的・効果的な事業実施に向け「食育」という分野横断的な視点から所管が一元化された。結果として、総合食育センターを拠点として、小学生・中学生を対象とした食育事業だけでなく、青年・中高年・高齢者等を対象とした食育事業も多く開催されている。各種講習会等のライフステージに応じた食育事業や、地域住民を対象とした学校給食の試食会等が行われているほか、分野横断的な取り組みも進んでおり、観光所管課と連携した、婚活料理教室等のイベントも行われたことがある。

高齢者向け配食サービスとしては高齢者に対し、週三回(月水金)、センターで調理した弁当を宅配している。平成26年度には利用登録者45名に対し年間で3,648食が提供された。

高齢者向け配食サービスは本センターの竣工にあわせ新規に導入された事業ではなく、元々遠野市社会福祉協議会とボランティア団体「ほのぼの会」により実施されていた事業であり、本センターの整備にあわせその調理場所・拠点が移動された(注2)。そのため、給食センターの調理・配送については公募により選定された給食調理の大手事業者である東洋食品が現在は実施しているが、高齢者向け配食サービスについては遠野市社会福祉協議会に委託し事業を実施している。

また、高齢者向け配食サービスは見守り活動も含め、市の福祉政策の一環として実施されている事業であり「遠野市内在住のおおむね65歳以上のひとり暮らし」「高齢者のみ世帯」「障がいおよび傷病等の理由により調理が困難な方」という条件を満たす人に対し、1食500円で提供されている。そのため、本事業だけで独立採算をとることは期待されておらず、委託費が市から遠野市社会福祉協議会に支払われている(注3)

■検討時の論点

総合食育センターには最終的に上記の機能が導入されたが、その他にも検討されたものの実現しなかった機能として、福祉施設への弁当の提供がある。福祉施設へ弁当を提供する場合、対象者の状況が大きく異なることから個人単位でメニューを検討する必要があり、業務量が非常に大きくなることから対応は見送られた。また、下処理調理のみ本センターで行った上で調理済みの食材を福祉施設に提供することも検討されたが、福祉施設側で調理設備の新規整備・機能拡充が必要となる等の事情から、調整が難しく、実現に至らなかった。

加えて、大きな問題となったのが財源である。学校給食センターは多くの場合、整備に当たり文部科学省の補助金を活用することが多いが、同補助金は学校給食センターを対象としたものであったため、給食を調理する部分のみしか対象とならず、総合食育推進機能、高齢者向け配食サービス機能のあるエリアは対象に入らなかった。そのため、遠野市としては限られた財源の中でより望ましい事業実施を目指し、様々な手法を検討し、結果として、防災・健康づくりの拠点という総合食育センターの特性から国土交通省の社会資本整備総合交付金(旧:まちづくり交付金)の適用を受けることとした。最終的に総事業費約13億円のうち、約4億円が社会資本整備総合交付金、約8億円が過疎債、約1億円が市単独費となっている。

■今後の可能性

遠野市総合食育センターは現時点で全ての機能が完成したものではなく、施設の余剰能力や運営体制を踏まえつつ、今後も更なる多機能化を進める予定である。ここではそのうち2つを取り上げる。

1つには高校生向けの給食の提供である。遠野市内には岩手県立遠野高等学校と岩手県立遠野緑峰高等学校という2つの高校がある。どちらの高校でも給食は現状提供されていない。遠野市総合食育センターではその整備段階の基本方針から高校生向け給食の提供を検討することを掲げており、施設の余剰能力を見つつ、引き続き検討・調整が行われている。

もう1つは食材の一次加工(カット野菜等への対応)である。前述のとおり、施設としては、高齢者配食サービスの調理エリア内に食材の一次加工を実施するための機能が設けられている。現状は、一次加工に係る業務量、食材の提供・販売先の調整等実施に向けて検討の必要な事項が多く、まだ活用されていないが、将来的には同機能を地場産物の利用拡大に向けた取り組みの中で活用する予定である。

3.事例から得られる知見

遠野市の事例は、実際に給食センターに多様な機能を付与することの可能性を提示したといえる。本事例を踏まえ、他自治体で今後学校給食センターの多機能化を検討する際に参考となる示唆として大きく2点が指摘できる。

1つ目は「既存のニーズからの検討」である。遠野市の事例では、高齢者向け配食サービスや総合食育推進課の設置等、新しいニーズを作りだすというよりも、既存の取組をより効率的に実施する場所として、学校給食センターを活用し複合化を図っている。そして、既存ニーズへの対応をベースとして施設の基盤を構築した上で、高校生向け給食、一次加工への対応といった新しい事業を検討している。そのため、新しい機能を付加したものの需要がなくあまり活用されていないといった状況は生じておらず、スムーズに事業が進んでいる。多機能化を検討する際に新規事業の検討を中心に行うケースも多くあるが、無理なく事業の基礎となる需要を確保するという観点からは、既存ニーズのしっかりした調査と可能性の検討は極めて重要である。

2つ目は公共負担に対する考え方である。高齢者向け配食サービスにおいて市が福祉政策として一定金額を負担している点に明確に表れているように、遠野市の場合、総合食育センターの位置づけ・目的を明確にし、その上で目的の実現に対し必要なコストやリスクは市が負担している。学校給食センターに限らず公共施設の多機能化を考える際、新たに付加する機能を民間事業者による独立採算事業とすることで、その収益により施設の整備・維持管理・運営に係るコストを削減しようと考える自治体は多い。ただ、独立採算で事業が成立するかは需要に左右されるため、例えば、他地域で高齢者向け配食サービスが民間事業者による独立採算事業として成立しているからといって、一概にどのような場所でも収益が上がるわけではない。そのため、各機能の導入に向けた検討においては、多機能化の目的に照らした検討が必要である。もし、コスト削減のみを期待していたのであれば、検討していた機能の導入は民間事業者が対応困難と分かった時点であきらめるべきであるし、もし福祉的効果等、コスト削減以外の効果を期待し、当該機能を検討していたのであれば、民間事業者による事業実施が難しくても、公共側でコスト・リスクを負担し実施するべきである。加えて、こうした目的に照らした検討を行うための前提として、そもそも「なぜ多機能化が必要なのか」「多機能化により地域にどのようなメリットをもたらしたいのか」といった公共施設の多機能化を行う目的を検討の最初に明確化しておくことが極めて重要である。

(注1)本項目については、平成27年10月20日に弊社が遠野市総合食育推進課に対し実施したインタビュー及び遠野市提供資料に基づき記載している。
(注2)遠野市社会福祉協議会では市から委託を受け5か所の拠点から市内各所に対し、高齢者配食サービスを実施している。その5つの拠点のうち遠野地区の拠点として総合食育センターの一部(高齢者向け配食サービス用の調理エリア)を活用している。
(注3)平成26年度で約630万円が総合食育センターのある地区の委託料として支払われている。
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