地方創生と地方財政健全化の両立は可能か

2015/12/14
研究開発第2部(大阪) 研究員 芝野 友基

はじめに ~まち・ひと・しごと創生総合戦略(地方版総合戦略)と自治体の予算編成

平成27年10月30日、第7回まち・ひと・しごと創生会議が開催され、まち・ひと・しごと創生総合戦略改訂に向けての意見交換が行われた。その中で政府は、昨年度策定した総合戦略を年末までに改定する方針を明らかにした。

政府の動きが流動的な中、地方自治体では来年度の予算編成が本格的に始動しており、本年度自治体ごとに策定する「まち・ひと・しごと創生総合戦略(地方版総合戦略)」との整合性を取る形での調整が進められている。

人口減少、東京一極集中の状況において、地方創生の理念は極めて重要であるが、子育て支援、コンパクトシティ化や企業誘致に向けた交通基盤整備、新産業の創出事業等の推進には、多額の財源が必要となる。そのため、財政健全化が課題となっている自治体は、成長戦略にまで十分手が回らない状況に置かれている。

今年8月、地方創生推進を目的として創設される新型交付金の概算要求額が、1,080億円と発表された。概算要求の発表を受け、都道府県をはじめとした地方関係者からは小粒な要求額に不満の声が上がった。

地方創生を民間主導で進めるという手法が検討されてはいるものの、公的支出無しに少子化の解消、東京一極集中の是正といった目標が成し遂げられる可能性は極めて低い。まずは、地方財政の現状及び国の財政支援の状況を十分に把握した上で、地方創生が目指す姿の実現と地方財政健全化の両立についての方策を検討することが重要であろう。

地方財政の現状

今世紀はじめ、「聖域なき構造改革」をスローガンとする小泉内閣(平成13~18年)が誕生し、地方財政は大きな転換期を迎えた。平成16年から18年度に実施された三位一体の改革では、国庫補助金のスリム化、地方交付税の削減等が実施され、地方の歳出縮減が進められた。

小泉内閣退陣から2年後の平成20年にはリーマンショックが発生し、地方法人税が激減したことにより、平成21年度の地方税収入は約13%の減収(対平成19年度比)となった。近年は景気回復の傾向がみられ増収基調にあるが、依然としてリーマンショック前の水準を下回っている。

一方、国から交付され、各自治体が自由に使途を決められる地方交付税は、平成19年度に17.5兆円まで縮減されていたが、近年は23兆円近くまで増加しており、地方の一般財源の大半を占める地方税と地方交付税の合計額は、平成24年度以降微増で推移している(図表1)。

図表1 地方税・地方交付税の推移

単位:兆円

地方税・地方交付税の推移

(注)地方交付税は、臨時財政対策債を含み、震災復興特別交付税を含まない数値。
(注)26年度は速報値
(資料)総務省『普通会計決算の概要』より作成

 

国は、地方交付税制度によって、行政サービスに地域間で格差が生じないよう、標準的な歳入を各自治体に保障している。地方交付税は、地方の歳入不足分を埋める形で総額が決められ、地方財政の調整弁的な役割を果たしている。

地方交付税の交付額は、特別交付税等の一部を除き、国が策定する地方財政計画の歳出歳入の見積りによって決定される(図表2)。リーマンショック後、国は特例措置として地方財政計画の歳出(一般行政経費)をかさ上げし、地方の財政が逼迫しないよう地方交付税を手厚く措置した。かさ上げは平成20年から27年度の8年間で約10兆円措置され、世界的な経済危機の状況下においても、地方の財政運営は比較的安定したものとなった。

地方交付税の原資は、地方交付税法の本則に定められた国税(所得税、酒税、法人税、消費税、たばこ税(平成27年改正により、たばこ税は除外))の一定割合である。国税収入が地方交付税の所要額に満たない場合、かつては国債で不足分を補てんしていたが、平成13年度以降は国と地方が折半することとされている。地方負担分については、臨時財政対策債と呼ばれる赤字地方債によって補てんされる。

臨時財政対策債の償還経費は、後年度に交付税措置で手当されるが、実際は新たに発行される臨時財政対策債を財源としており、交付税原資となる国税収入が大幅に増えるか、もしくは地方が自力で返済しないかぎり、債務が減少しない仕組みになっている。

臨時財政対策債の残高は、平成19年から26年の7年間で約2.5倍(+約28.8兆円)の48.5兆円に増加している(図表3)。自治体側には、後年度の交付税措置を根拠に、国の借金を肩代わりしているという意識があり、毎年度機械的に起債しているケースも見受けられる。

図表2 平成27 年度地方財政計画(通常収支)

単位:兆円

平成27 年度地方財政計画

(資料)総務省『平成27 年度地方財政計画のポイント』より作成

 

図表3 臨時財政対策債残高の推移

単位:兆円

臨時財政対策債残高の推移

(注)26年度は速報値

(資料)総務省『普通会計決算の概要』より作成

 

国からの歳出削減圧力が弱まり、地方交付税が確保された状況下においても、地方は独自の改革を続けている。定年退職者の不補充等による人員削減により、この間の人件費は大幅に減少した。公債費は、量的金融緩和による地方債の低金利発行、公的資金に係る補償金免除繰上償還の実施、普通建設事業費の削減により、臨時財政対策債を増発している状況下においても減少傾向にある。

なお、扶助費については高齢者の増加に伴い増加傾向にあるが、国の補助事業が多くを占める関係から、一般財源の充当は微増にとどまっている(図表4)。

図表4 性質別一般財源の充当状況

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性質別一般財源の充当状況

(資料)総務省『地方財政白書』より作成

 

地方交付税の確保や人件費の削減等の結果、地方の基金残高は、平成19年から26年の7年間で約1.6倍(+7.8兆円)の21.7兆円に増え、財源の余裕分を積み立てておく財政調整基金の残高も同期間で約1.6倍(+2.6兆円)の6.8兆円となっている(図表5)。

しかし、財政調整基金の増加は、国の財政支援の充実(地方交付税の確保及び臨時財政対策債の発行)がその一因であり、基金総額の倍以上にまで積み上がっている臨時財政対策債を縮減できないかぎり、財政健全化に向かっているという実感は薄い。また、本稿で指摘した現状は、あくまでマクロベースでの地方財政の動きであり、各自治体の財政状況は、過去の行政運営によって大きな差が生じていることに留意する必要がある。

図表5 基金残高の推移

単位:兆円

基金残高の推移

(注)26年度は速報値

(資料)総務省『普通会計決算の概要』『地方財政白書』より作成

 

これから数十年間、高度経済成長期に建設された大量の公共施設等が更新時期を迎えるが、多くの自治体が更新費用の財源確保に頭を悩ませている。例えばさいたま市では、平成23年から62年度までの40年間に更新費用に係る財源が毎年155億円不足、浜松市では、今後50年の間に必要な公共施設の改修経費を1.3兆円と推計している。国の要請に基づき地方が策定する公共施設等総合管理計画を具体化し、個別施設ごとの方針策定を進めている自治体も一部出てきているが、「人口減少により過剰なインフラは不要になる」という総論は受け入れられても、施設ごとの具体的な検討に入ると、まだまだ住民からの反発が大きい状況であろう。

地方創生による取組み、とりわけ経済成長に係るものは当たり外れが大きく、効果が出るまでに時間を要する。臨時財政対策債が激増し、インフラの更新問題を抱える状況下では、義務付けの弱い経費を抑制し、基金を温存するという判断が優先されるだろう。

国の地方創生に係る財政支援

国の地方創生に係る財政支援は、先述した新型交付金のほか、地方交付税によるもの(まち・ひと・しごと創生事業費)と、各省庁の個別施策によるものがある(税制関係を除く)。

まち・ひと・しごと創生事業費について、政府は少なくとも総合戦略の期間である5年間は、1兆円程度の額を維持するとの方針を打ち出している。

まち・ひと・しごと創生事業費は、個別の補助金ではなく地方交付税として各自治体に交付され、行政改革を進める自治体や人口減少等が進む自治体に多く措置されるよう、配分ルールに傾斜が設けられている。ただし、地方交付税は、使途を限定しない一般財源であるため、国に対し充当事業を報告する必要はない。その点を財務相の諮問機関である財政制度等審議会は、「まち・ひと・しごと創生事業費は、制度上使途を制限することはできないが、説明責任を果たすべく、使途の事後検証を総務省に求めるべき」として、地方創生関連経費以外への使用に警鐘を鳴らしている。

なお、各省庁の個別施策は、平成28年度の概算要求ベースで7,763億円であり、雇用創出や地域連携事業等の財源となる予定である。

平成27年6月30日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2015」において、政府は平成30年度まで平成27年度の地方財政計画の水準を下回らないようにするとの方針を打ち出している。今後3年間、地方財政計画上の歳出が大きく削減される事態は想定しづらいが、一方で、国が手厚い財政措置を講じる可能性も極めて低い状況にある。

<参考>内閣府 『経済財政運営と改革の基本方針2015』 (抜粋)

地方の歳出水準については、国の一般歳出の取組と基調を合わせつつ、交付団体をはじめ地方の安定的な財政運営に必要となる一般財源の総額について、2018年度(平成30年度)までにおいて、2015年度地方財政計画の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保する。

 

両立のカギは自治体間の「連携」

高度経済成長期以降、わが国では地域活性化を理念とするビジョンが幾度となく打ち出されてきた。地域間の均衡ある発展を目指した全国総合開発計画(1962年以降、5次にわたり策定)、地方の工業化促進を狙った列島改造論、民間資本を活用した総合保養地域整備法(通称リゾート法)がその代表例であるが、失敗に終わったものは少なくない。

本稿において、地方財政をとりまく現状と、国の地方創生に係る財政支援の状況を確認した。臨時財政対策債、インフラの改修財源の不足といった、20世紀には無かった不安要素を抱える中で、「財源がなければ何もできない」という諦めが過剰に広がってしまうと、地方創生は具体性のない意識啓発的なものに終わってしまう。

地方創生と地方財政健全化の両立は非常に高いハードルではあるが、1つでも多くの事業を成功させ、地方創生を深化させていくためには、補助金や交付税を獲得するための自治体間競争ではなく、厳しい状況に打ち勝つための「連携」が最も重要になるだろう。

財源の確保が厳しい中、それぞれの自治体が同種の事業をそれぞれに実施することがマクロの視点で見た成長戦略として妥当であるかどうか、今後厳しく問われることになる。人口減少下においては、観光や新産業創出といった義務付けのない施策についても、自治体間の積極的な連携が求められることになる。

自治体間の財源調整・財源保障機能である地方交付税は、基本的には人口や面積といった客観的指標に基づき交付されている。交付額は自治体単位で決定され、各団体の独立性を尊重する制度である。今後、連携を進めるためには、連携先自治体の財政状況にも配慮する必要が生じる。そのため、課題共有、議論、合意形成を事業部門のみで進めるのではなく、財務部門同士や政策関係部門同士のきめ細やかな情報共有が、連携事業をうまく進めるためには重要となるだろう。

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