曖昧な高度外国人材の人材像 ―グリーンカードの導入に向けて―

2016/08/08
経済政策部 兼 外国人活躍推進室 研究員 加藤 真

1. はじめに

皆さんは、高度外国人材と聞いてどのようなイメージを抱くだろうか。
 現在我が国は、専門的な能力や高い技術を有するとされる外国人労働者(しばしばこうした人材が高度外国人材と呼ばれる)を積極的に受け入れようとしている(注1)。「日本再興戦略2016」でも、「日本版高度外国人材グリーンカード」の導入に向けた議論を始めることが提起された。グリーンカードとは、アメリカにおける外国人永住権及びその証明書の通称だが、今回の再興戦略では、永住権を付与するまでの必要在留期間を世界最短とすることで、高度外国人材の受け入れ促進・定着率向上を図ることが目指されている。
 本稿は、このように受け入れが促進されている高度外国人材であるが、その実像や内実は十分に吟味されていないのではないかという問題意識の下、高度外国人材の人材像の曖昧さを各種資料に基づき示し、その上でグリーンカードの導入と並行して検討すべき点を列挙する。

2. 高度外国人材の政策的な定義と喚起されるイメージ

我が国において、政府はこれまで、出入国管理及び難民認定法上、就労可能な在留資格のうち、「外交」と「公用」を除く14資格に基づく在留者を、高度外国人材(専門的・技術的分野の外国人材)として便宜的に扱ってきた(注2)。また、2012年から、学歴、職歴、年齢、年収などをポイント化して一定の基準に達した外国人を高度外国人材と認定する、「高度人材ポイント制」の運用が開始され(2013年に認定要件見直し)、この制度運用に合わせ、2015年に「高度専門職」という新たな在留資格が設けられた。
  上記を踏まえ、図表1では、在留資格上で高度外国人材とされる範囲をまとめている。在留資格に定められた範囲で就労可能な在留資格のうち、「外交」と「公用」を除く14資格に基づく在留者が<広義の高度外国人材>、その中で在留資格「高度専門職」に基づく在留者が<狭義の高度外国人材>とまとめられる。

図表1 在留資格一覧および在留資格上で高度外国人材とされる範囲

また、政府は高度外国人材の定性的な定義もいくつか示している。一例として、高度人材受入推進会議(2009)の報告書では、高度外国人材とは、「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」、「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」と定義され、極めて高い専門性や技術を有し、即戦力となり得るような人材像が想定されている。
  さらに、「高度人材ポイント制」における優遇メニューとして、家事使用人の帯同許可などが含まれているとおり、従来、政策や制度が想定する高度外国人材は、極めてハイエンド・高スペックであり、これが企業内人材の場合は、重要なポストや役割を担うイメージも喚起される。実際、多くの先行研究やメディア報道等でも、「高い技術力を持つ高度外国人材」、「世界中を飛び回るグローバルエリート」といった類いの表現を目にすることは少なくない。

3. 曖昧な高度外国人材の人材像

ところが、実態調査や近年の政策動向・関連文書上の表現等に基づくと、実際に日本に在留する高度外国人材とされる人々と、上記の定義やイメージが必ずしも一致しておらず、高度外国人材の人材像が曖昧であると指摘できる。

3-1. 実態調査からみえる高度外国人材の実像

五十嵐(2013,2015)は、労働政策研究・研修機構(2013a)が実施した調査結果より、(1)高度外国人材とされる人々(注3)の大部分が、非管理職の「役職なし」であり、部課長クラス以上は1割程度に止まること、(2)勤続年数が長いほど職位も高くなる相関がみられており、高度外国人材は、いわゆる年功的な「日本型雇用」の中にはめ込まれた存在であること、(3)企業が高度外国人材に期待する役割として最も多い回答が、「日本人と同様」(56.6%)であることなどに着目している。そして、我が国に在留する高度外国人材とされる人々の大部分が、即戦力として「イノベーションをもたらす」、「(日本人では)代替できない人材」とは必ずしもいえず、むしろ企業内で「普通に」働くマスに近い人材だと指摘している。
  特に、日本国内の大学を卒業後、新卒一括採用で入社した元留学生は、日本人学生と同様、「ポテンシャル」を評価されて就職している人が大半であることが想像される。

3-2. 拡大解釈が続く高度外国人材の範囲

さらに、近年の政策動向や関連文書を一体的にみていくと、高度外国人材とされる範囲の拡大が続いており、従来の政策目的やイメージと齟齬が生じている。
  図表2に、高度外国人材という用語が指し示す範囲について、関連文書等の表現の変遷をまとめ、模式図として示している。

図表2 関連文書等における高度外国人材とされる範囲の変遷

図表2の模式図を時系列でみていくと、①従来は、極めて高い専門性や技術を有する人材を想定していたはずの高度外国人材像であったが、②2013年12月に「高度人材ポイント制」の要とでもいえる最低年収基準の見直し等による認定要件の緩和化、③2016年に入り、「高度外国人材(日本で一定の技能を習得した人材を含む)」という表記や、「高度人材ポイント制」の更なる要件見直しが提起されたことから、高度外国人材とする範囲の拡大が続いているといえる。なお、「日本で一定の技能を習得した人材」とは、技能実習期間を終えて技能検定3級レベルに達した元技能実習生を想定していると推測されるが、実は、2009年の高度人材受入推進会議時点では、技能検定3級より上位の2級合格者においても高度外国人材とはいえないという議論がなされていた(高度人材受入推進会議 実務作業部会 第1回、第4回議事要旨参照)。
  筆者自身、外国人労働者の受け入れに決して否定的ではないが、外国人の受け入れにあたって、(何となく聞こえの良い)「高度外国人材」の対象範囲を恣意的に変化させることで、当面の人手不足を乗り切ろうとする動きには危惧を覚える。その危惧は、外国人の受け入れに向けた環境整備不足や、日本人及び外国人の雇用の安定性を確保する議論等が十分になされていないことに加え、現在の流れとは逆に、高度外国人材の対象範囲が縮小の方向に書き換えられ、それまで認められていた諸権利が制限されたり、周囲からの眼差しがネガティブなものに変わってしまう可能性も秘めていることに起因する。
  すでに我が国では、外国人労働者に頼らざるを得ない業種や職種が存在しており、彼らへの需要は今後一層高まりをみせることが予想される。そうした中での今般のグリーンカード導入では、まずは、「高度な技術や能力」をある程度明確化し、その付与対象を設定することが必要であろう。その上で、グリーンカード付与対象には入らないものの我が国に在留し、カード付与予備軍ともいえるホワイトカラー外国人材の活躍に向けた施策や、我が国の産業を支える中間的技能者層(注4)の正面からの受け入れ(在留資格や諸権利の付与等)も視野に入れ、その時々の裁量ではない受け入れ制度や体制の構築も見据えた議論が求められる。

4. 「日本版高度外国人材グリーンカード」導入とともに取り組むべきこと

ところで、高度外国人材の人材像やグリーンカードの付与対象が明確化されれば、ただちに高度外国人材の受け入れや定着が進むわけではない。グリーンカードの導入は、外国人材の受け入れ数の増加、定着率の向上、企業での活躍などに向けた、一つの施策に過ぎない。
  例えば、ドイツは、2000年にIT技術者の受け入れ促進ために独自のグリーンカードを発行し、1年間で2万人の受け入れを目標としたが、言語の壁や労働市場の硬直性がネックとなり、目標は未到達で終わった。韓国も、2000年代初めから、特定技術分野で就労する外国人への優遇措置(ゴールドカード制度)や、外国人研究者への優遇措置(サイエンスカード制度)を導入しているが、「韓国の外国人専門技術労働者政策は、有名無実な状態」(薛 2016: 54)と評されるほど、受け入れ数が伸びていない。年功序列など職場内での人間関係、長時間労働、非英語圏で韓国語の壁が高いなどの課題が原因として指摘されている(労働政策研究・研修機構 2013b)。
  こうした他国の先行事例から、我が国が高度外国人材の受け入れ数の増加・定着率の向上・企業での活躍を目指すならば、グリーンカードの導入と並行して、外国人材の受け入れや定着を促すための包括的な環境整備を進めることが必要であることが示唆される。
  今年5月にヘイトスピーチに関する解消法が成立したが、こうした、出入国管理の枠に止まらない外国人に関わる法整備や、年金保険料の母国と日本への二重払いを防止する社会保障協定の締結・整備等も一つである。
  また、「日本再興戦略2016」に、外国人の生活環境整備が盛り込まれたように、医療機関での通訳の拡充や、外国人材の子どもの教育機会の確保など、「生活者としての外国人」の視点に立った施策も欠かせない。先進的な自治体では、外国人=被支援者という前提から脱却し、支援者側になれる外国人住民を育成する取り組みもみられ始めている。
  加えて、現在国内企業で大半を占める「役職なし」の外国人材が、パフォーマンスを発揮し、それをイノベーションへと繋げていくために、国や企業による施策も必要である。
  企業で働く外国人材の活躍のためには、その外国人材自身へのマネジメントのみならず、管理職及び日本人社員を含め、外国人と協働できる組織を作るという観点で取り組むことが重要である。イスラム教徒の社員がいる企業で、自社内に「お祈りルーム」を設置して日本人社員にも理解を求めている例や、外国人アルバイトを多く抱える小売業者で、各店舗の日本人管理職向けに、従業員の国籍別マネジメント支援ガイドを作成する例も出てきている。人事部門と配属現場が一緒になって、目標設定や評価のやり方、コミュニケーションの方法など、ケースを積み上げながら外国人材の定着率や組織全体のパフォーマンスが向上する要素や工夫を模索することも、グリーンカード導入と並行して議論すべき重要な点である。その際、「外国人」と一括りするのではなく、国籍・民族・宗教・母語・日本滞在歴等の違いへ配慮も求められる。

日本版高度外国人材グリーンカード導入に際して、高度外国人材の実像を見つめ直し、曖昧になっている人材像を明確にすること、及び、グリーンカードを導入するだけでは、受け入れや定着は進まないため、包括的な受け入れ体制を整備することが必要である。

【参考文献】
五十嵐泰正, 2013, 「『高度外国人材』とは誰か」『POSSE』(20): 93-8.
五十嵐泰正, 2015, 「グローバル化の最前線が問いかける射程」駒井洋(監修)・五十嵐泰正・明石純一(編著),
  『「グローバル人材」をめぐる政策と現実』明石書店: 9-20.
高度人材受入推進会議, 2009, 「外国高度人材受入政策の本格的展開を」.
労働政策研究・研修機構, 2013a, 「企業における高度外国人材の受入れと活用に関する調査」.
労働政策研究・研修機構, 2013b, 「諸外国における高度人材を中心とした外国人労働者受入れ政策――デンマーク、
  フランス、ドイツ、イギリス、EU、アメリカ、韓国、シンガポール比較調査」.
薛東勲, 2016, 「韓国の外国人労働者――推移とインプリケーション」有田伸・山本かほり・西原和久編『国際移動と移民政策
  ――日韓の事例と多文化主義再考』東信堂: 47-57.

(注1)類似の用語(グローバル人材等)は様々あるが、本稿では、政策や政府の関連文書で近年一般的に用いられている「高度外国人材」を基本的には用いる。
(注2)内閣府経済財政諮問会議「経済財政改革の基本方針2008」では、受け入れを促進すべき高度外国人材に関して、上記の在留資格者を例示している。また、2008年以降、提出が義務化され、毎年公表されている、厚生労働省「『外国人雇用届出状況』の届出状況」でも、上記の在留資格を、専門的・技術的分野の在留資格としている。
(注3)同調査では、高度外国人材を、日本国内および海外の大学・大学院以上の最終学歴を有する者、またはそれに相当する実績をあげている外国人、在留資格「研究」「技術」「人文知識・国際業務」「投資・経営」「法律・会計事務」「企業内転勤」の外国人と定義している。本文中での<広義の高度外国人材>より狭い範囲を対象としている。
(注4)現在、愛知県は、国家戦略特区として、「産業人材」という新たな在留資格の創設に向けた提案を行っている。
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