2020年以降の温室効果ガス削減の枠組みについての考察(1)

2016/09/06
環境・エネルギー部 研究員 高橋 智輝

2015年12月、パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、京都議定書に代わる気候変動の新たな国際枠組みとして、パリ協定が採択された。パリ協定は、工業化以前からの平均気温の上昇を2度を十分に下回る水準に抑制し、1.5度以下に抑制するよう努力すること、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収をバランスさせ、正味の排出量をゼロとすることを規定し、国際社会が脱炭素化へ向かうことを明確に示している。
 ここでは、パリ協定の採択を踏まえ、2020年以降の温室効果ガス削減の枠組みについて考察する。第1回目の本稿では、パリ協定における温室効果ガス削減(緩和)の国際的な枠組みに着目する。

パリ協定での「緩和の5年サイクル」の設立

パリ協定で緩和を進める上で根幹となるのが、「緩和の5年サイクル」だ。締約国は、5年おきに「自国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution:NDC)」として削減目標を提出する。加えて、長期目標達成に向けた世界全体の進捗状況を5年毎に確認し、結果を各国の取り組み強化に活用する(グローバル・ストックテイク)。これにより、各国は「NDCの提出→NDCに向けた取り組みの実施・実施状況の報告→世界全体の進捗評価→NDCの更新・強化」というPDCAサイクルに取り組む。(注1)

各国の削減目標から見えてくる課題

COP21に先立ち、多くの国が削減目標の草案(Intended Nationally Determined Contribution:INDC)を提出した(注2)。INDCの策定・提出は各国の削減努力を促す効果はあったと考えられるが、提出されたINDCを見ると緩和の5年サイクルの課題も見えてくる。ここでは、中国のINDCをベースにその課題について考察してみる。
 中国のINDC(注3)では温室効果ガスの削減目標として下記が示されている。

・ 2030年までにGDP当たりCO2排出原単位を2005年比で60~65%削減
・ 2030年前後にCO2排出量をピークアウト

一見野心的にも見えるが、この目標には2つの懸念がある。
 まず1つ目の懸念は、目標の対象範囲が限定的ということである。NDC(及びINDC)は、京都議定書下での削減目標とは異なり、各国が独自に策定しており、削減対象とするガス、セクターは国によって様々だ。なかには、温室効果ガスの削減目標を設定せず、対策の実施のみを目標とした国もある。中国の目標もCO2のみを対象としており、他のガスは含まれていない。2010年の中国の温室効果ガス排出量を見ると、CO2以外のガスで約31億tCO2eq.に上り、日本の同年の排出量(CO2を含む総排出量)の約2.3倍に達する(注4)。それにもかかわらず、これらのガスに削減目標が課せられていない状況だ(注5)
 2つ目の懸念は、GDPの予測やピーク時の排出量の想定が示されておらず、2030年時点で総量としてどの程度の排出量が見込まれているかが不明なことだ。仮に中国のGDPが2005年以降に年率6%で成長した場合、排出原単位が65%減少したとしても、2030年の総CO2排出量は約50%増と、大幅に増加することになる。
 INDCをベースに各種研究機関が中国の排出量の将来予測を行っており、World Resources Instituteのブログ記事でその結果の比較表が示されているが(注6)、研究結果によって最大で約30億tCO2eq.の差異があり(これは日本の総排出量の2倍以上の水準)、中国のINDCに十分な情報が示されていないために予測の不確実性が高くなっていることが見受けられる。

パリ協定下での緩和の実効性を高めるために

削減目標の対象範囲が限定的になることは、世界全体の温室効果ガス削減を着実に進める上で大きな問題となる。特に主要排出国に対しては、対象範囲の拡大を促すべきだろう(注7)
 また、長期目標に向けた世界全体の進捗の確認には、将来時点の排出量を可能な限り正確に把握する必要があるが、現状のINDCでは将来予測に必要な情報が必ずしも示されていない。こうした情報を各国に報告させる仕組みが必要だろう。
 パリ協定の詳細ルールの議論は、2016年5月の第1回パリ協定特別作業部会(APA)で開始されたばかりだ。今後の国際交渉では、上述の点も踏まえたルール作りが進められることが期待される。

(注1)NDC及びグローバル・ストックテイクは、緩和だけでなく適応や支援の実施状況等もスコープに含むが、本稿では緩和に焦点を当てる。
(注2)INDCはCOP19決定及びCOP20決定に基づき各国が提出した目標であり、パリ協定下で提出が求められているNDCとは厳密には異なる。ただし、INDCを提出済みの国については、パリ協定を批准した段階で提出済みのINDCがNDCとみなされることがCOP21決定で規定されている。
(注3)国連気候変動枠組条約HP
http://www4.unfccc.int/Submissions/INDC/Published%20Documents/China/1/China’s%20INDC%20-%20on%2030%20June%202015.pdf (2016年8月29日確認)
(注4)International Energy Agency “CO2 emissions from fuel combustion 2015 edition”より推計。
(注5)中国のINDCでは、CH4やN2O、HFCsといったCO2以外の温室効果ガスの削減対策も示されている。ただし、排出量の削減目標が設定されているのはCO2のみである。
(注6)World Resources Institute “INSIDER: Why Are INDC Studies Reaching Different Temperature Estimates?”
http://www.wri.org/blog/2015/11/insider-why-are-indc-studies-reaching-different-temperature-estimates (2016年8月29日確認)
(注7)パリ協定では、NDCを提出する場合、前回提出分より前進したものとし、可能な限り野心度の高いものとするよう各国に求めている(第4条3項)。また、先進国が経済全体の絶対量目標を設定し主導することを求め、途上国に対して緩和努力を強化し、(限定的な目標から)経済全体への目標へ移行することを奨励している(第4条4項)。
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