グリーンインフラとコンセッション

2016/12/05
公共経営・地域政策部 副主任研究員 赤木 升
グリーンインフラ研究センター 副主任研究員 西田 貴明

はじめに

公共インフラを対象としたコンセッション方式での事業(公共施設等運営権制度を活用したPFI事業)が注目を集めており、実際に空港をはじめとする事業が動き出している。他方で、インフラというキーワードで見れば、グリーンインフラと呼ばれる自然資本の持つ多面的な価値に注目した新しい考え方が昨今注目を集めている。そこで、本稿ではグリーンインフラ分野におけるコンセッション事業の可能性について考えてみたい。

1.コンセッションとは

コンセッション(公共施設等運営権)方式とは民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)に基づき行われる公共インフラを対象とした官民連携手法の1つである。
 PFIは民間資金を活用し、効率的・効果的な公共施設等の整備・維持管理・運営を行うための官民連携手法であるが、その中でも、民間事業者に多くのリスクを移転するとともに、民間事業者のノウハウをより自由に活用する手法がコンセッション方式である。
 コンセッション方式においては、空港、上下水道といった公共施設等について、公共主体は民間事業者に「運営権」を渡すかわり運営権対価の支払いを受ける。民間事業者は「運営権」に基づき、当該公共施設を活かして公共サービスを含む様々なサービスを展開し、利用者から料金支払を受ける。そして、その料金支払により採算を取りながら事業を実施する(注1)

図表 運営権のスキーム

出所:内閣府「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」

コンセッション方式については「公共による管理から、民間事業者による経営へと転換することにより、サービスの向上や公共施設を活用した新しい価値を生み出す経営手法である。一定の運営リスクを民間事業者に移転するとともに、将来の利用料金収入やコスト縮減等を踏まえた公共施設等運営権対価を徴収することにより、施設の建設に要した費用等の回収が可能となる。」(注2)とされており、財政状況が厳しくなる中で、民間のノウハウを活用しつつ良好なサービスの提供を維持する手法として注目を浴びている。近年では、仙台空港特定運営事業、関西国際空港及び大阪国際空港特定空港運営事業等をはじめ大型事業が動き出している。
 また、民間資金等活用事業推進会議(注3)「PPP/PFI推進アクションプラン」(平成28年5月)においては空港、水道、下水道、道路、文教施設、公営住宅におけるコンセッション方式事業の具体化が掲げられており、平成34年度までにコンセッション方式について7兆円の事業規模を創出することが目標とされている。

2.グリーンインフラとは

グリーンインフラとは、自然の機能や仕組みを活用したインフラ整備や地域づくりを指す最近大きく注目されている政策概念である。グリーンインフラの構成要素としては、レクリエーションと洪水対策を目的とした河川整備、浄化・排水機能を備えた屋上緑化や緑道、洪水の遊水機能を持った農地、防波堤と漁場創出機能を持ったサンゴ礁やマングローブなど、非常に幅広い自然を使ったインフラが該当する。
 グリーンインフラに関して、2010年以降、米国では、環境保護庁(EPA)の指針において推進に向けた方向性が示され、また欧州では、欧州委員会(EC)から「欧州グリーンインフラ戦略」が発表され、環境保全の分野だけでなく、都市開発、防災・減災、農林水産業、観光等、多様な分野における浸透が図られている。また、気候変動枠組条約や、生物多様性条約などの環境分野の国際条約においても、地球環境問題の解決策として、グリーンインフラの導入を推奨している。さらに、2015年3月に、日本で開催された世界防災会議では、グリーンインフラと類似する概念である「生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)」の活用に向けた議論に大きな注目を集めた。このようなグリーンインフラに対する諸分野の期待は、どのような理由があるのだろうか。
 グリーンインフラとは、自然の機能や仕組みを活用するという点が大きなポイントである。これまで地球環境保全の議論においては、自然保護、生物多様性保全など、素晴らしい自然を守ることを目的と掲げてきたが、十分に社会・経済への浸透ができていなかった。一方で、グリーンインフラは、この議論から離れて、自然の持っている機能を効率的に、持続的に引き出すことに焦点を当てている。当り前の話に聞こえるかもしれないが、実は、このグリーンインフラの定義は、環境保全と社会・経済の両立をはかる取組を進めるに当たり、有効な概念になりつつある。
 そして、グリーンインフラは、日本の社会資本整備、地域づくりにおいても取り入れられようとしている。2015年には、国土交通省の国土利用計画(全国計画)、国土形成計画(全国計画)、さらには社会資本重点整備計画においても、グリーンインフラの推進が謳われた。また、環境省からはEco-DRRの普及啓発を目的として「生態系を活用した防災・減災の考え方」が発表されている。さらに、2016年には、民間企業等が中心となったレジリエンスジャパン推進協議会の議論を経て、内閣府の国土強靭化アクションプランにおいて、防災・減災の文脈におけるグリーンインフラの推進が明記されるなど、今まさに、グリーンインフラの政策的な位置づけが構築されようとしている。
 それでは、日本におけるグリーンインフラとしては、どのような事業が期待されるのだろうか。グリーンインフラといっても、都市、農山村、沿岸など、空間としての対象は非常に幅が広い上に、事業としてのテーマもさまざまである。実際、河川護岸、公園緑地、農業施設等、自然と関わる公共事業においては、既に公益的機能(多面的機能、ストック効果)の発揮を目指した様々な取組が行われている。しかし、新たにグリーンインフラの導入が図られることで、昨今の人口減少や地域経済の停滞等の社会課題の解決に向けたさらに一歩進んだ事業が期待されている。前述のとおり、グリーンインフラの特徴として環境保全と社会・経済の両立がある。この両立を自然・生態系の持つ多面的な機能を引き出すことで行う(生態系の持つ力により事業を効率的・効果的に実施する)。この特徴を活かし、欧米において、グリーンインフラは、多様な土地利用を一元的に捉え、自然の機能を最大限発揮できる計画策定を行い、それらを一体的管理、再整備し、経営的な持続性を担保した事業を検討するための概念として注目を集めている。日本でも、人口減少や地域経済の停滞等の社会問題を背景に、特に低未利用地において公益的な価値の提供を確保しつつも持続的な事業を実現するために、グリーンインフラという概念のもと、包括的な事業が期待されている。

3.グリーンインフラ分野におけるコンセッション方式の可能性

前述の通り、グリーンインフラは政策概念であり、その対象となるインフラは幅広い。その中では既に多様な官民連携が実施・検討されている。例えば、河川においては佐原広域交流拠点PFI事業が行われているほか、都市公園等でもPFI事業が活用されていており、既にコンセッション方式の導入可能性を検討している事例も幾つかある(注4)。そのため、将来的にはグリーンインフラに関連する公共施設等においてコンセッション方式での事業が実施される可能性はある。
 ただ、現在のPFI事業の検討はあくまでも公共施設等、つまり人工物を中心に行われている。例えば、河川におけるPFI事業である佐原広域交流拠点PFI事業においては親水域を活用した事業等も行われているものの、起点となるのはあくまでも施設であり、水辺交流センター、河川利用情報発信施設、車両倉庫、佐原河岸、利用ゾーン(川の駅)、地域交流施設(道の駅)といった施設の設計、建設、維持・管理、運営が一体となって発注されている。

図表 佐原広域交流拠点PFI事業の完成イメージ

出所:国土交通省関東地方整備局利根川下流河川事務所ウェブサイト「佐原広域交流拠点PFI事業 事業紹介」

そのため、今後、グリーンインフラ分野においてコンセッション方式が導入されても、公共施設等を対象とする事業になると考えられる。これはPFI法がインフラの中でも「公共施設等」に関する法律であることを考えれば当たり前である(注5)
 ただ、グリーンインフラという観点から考えれば、人工物だけではなく、森林・河川等もインフラの1つとして重要な機能を果たしている。グリーンインフラでは、人工物(堤防等)へ自然の力を活かすことでより効率的に事業実施を進めることも、自然の力を活かすことで人工物を不要とすることもできる。例えば、河川における洪水対策を考えれば、堤防をコンクリートで覆うのではなく植林を行うことでより流出しにくい堤防とすることもできるし、他方で、河川内の生態環境を改善することで洪水のリスクを減らすこともできる。こうした自然と人工物の境目なく、環境に対する様々な価値観を同一の傘のもと検討できることがグリーンインフラという概念の持つ強みである。また、前述の通り、日本も含む世界的な流れとして、人口減少に伴い発生した低未利用地におけるグリーンインフラの事業が注目を集めている。こうした背景を考えると、グリーンインフラの観点からは人工物だけでなく、森林・河川等、より広く自然資本にまで対象を広げた上で、効果的な官民連携を実現することは非常に重要であろう。
 それでは、一度、PFI法の対象に関する制限は検討対象外とした上で、そもそも、こうした森林・河川等について既存の委託等を超えて、運営権を民間事業者に与えることで、より効果的・効率的な管理が行われる可能性があるかについて考えてみたい。
 日本の場合、政府や地方公共団体が所有する森林や河川等は多くある。こうした自然資本に対し、コンセッションを導入することは可能だろうか。例えば、国有林に対し運営権を設定し、その管理・運営を民間事業者に委ね、政府側は管理費をゼロにした上で、むしろ収益を上げる(運営権対価を受領する)ことは可能だろうか。また、収益を上げるまでは難しくても今よりも管理費を低減することや同じ管理費でより良いサービスを提供することはできないだろうか。また、グリーンインフラは多面的な価値を果たしており、その価値を上手く経済的価値に変換すること、つまり、グリーンインフラをビジネスや投資につなげることにおいては、民間事業者のノウハウを活用する余地が多く存在しているように感じるがどうだろうか。
 民間事業者が、森林を管理しつつ、自らの負担において観光施設等を建設し、その豊富な自然を活かしエコツーリズムの実施やアスレチックの整備により管理費以上の観光収入を得る。そもそも、これは事業として可能だろうか。海外の事例を参考に考えると、こうした事業には一定の可能性があるといえる。例えば、欧州では、2015年に欧州投資銀行内に、自然資本に関するファンドとしてNCFF(Natural Capital Financing Faculty)が設立されている。同組織は、欧州の自然に関する計画であるLIFEプログラムの実施に向け、自然資本の効率的な活用に資する民間事業者の取り組みに対し、事業化支援や投資等を行う。まだ、設立後まもなく、具体の事業への投資は行われていないものの、同組織のパンフレットにおいては「沿岸部における海草の復元」「生物多様性ビジネスのための河川再生」といった事業が投資対象となるビジネスのイメージとしてあげられている(注6)。具体的には、例えば、「生物多様性ビジネスのための河川再生」においては、河川再生を民間事業者主導で進めることで、河川再生による水処理費用の削減等に対して公共側からも一定の支払いは行うものの、堆積する砂利の販売、ボート等でのエコツーリズムの実施等による投資対象として(=事業全体で収益を上げる形で)河川再生を実施するという事業イメージが描かれている。もちろん、日本と欧州ではマーケットが違う、NCFFは設立からまもなく具体の事業が動いてはいないといった点には留意が必要ではあるが、可能性の有無という観点からは、日本におけるエコツーリズム等の隆盛を考えても、自然資本へのコンセッション方式の導入、つまり、自然資本を民間事業者が「運営」することで従前よりも効率的・効果的に管理を行えるかというのは、十分に検討に値するレベルにあるのではないだろうか。

4.今後に向けて

では、実際に森林・河川等の自然資本を対象にコンセッション方式を導入するためには、どのような検討が必要だろうか。筆者はまず2つの観点からの検討が必要であると考えている。
 1つめは、事業採算性である。前述のとおり、海外の事例を参考にすれば事業採算性がないとは言えないものの、あると言い切れる状況でもなく、慎重な検討が必要である。とりわけ、事業内容と収益性の関係には留意が必要である。政府が管理している森林・河川はどのように利用してもよいわけではない。稀少な生物・植物の生息地としての価値や、防災面での価値等多様な機能を果たしている。そうした価値を守りつつ、展開できる事業でどこまで収益を上げることができるのかは論点である。この点、今のグリーンインフラは環境や防災に関する有識者を中心に議論を進められているが、観光関連の事業者や投資家等、様々な民間事業者も含めた議論が必要である。
 2つめは、制度上での検討である。そもそもコンセッションは前述のとおり、PFI法に基づく事業であり、適用可能なインフラは法律上で明確に規定されており、自然資本は対象に含まれてない。そのため、森林や河川等を対象にしたコンセッションを行う場合には法改正が必要である。加えて、コンセッションの制度上での運用もこれまでの人工物を対象とした事業とは異なる。例えば、コンセッションにおいては公共施設等の増改築を行う権利が民間事業者に認められるが、森林や河川の場合、どのように考えればよいのかは論点になる。小規模な観光施設の建設はよいか、また、観光利用のために河川の途中に小さなプールのようなものを作るのはよいか。その他にも、運営権の及ぶ範囲についても整理が必要である。地域間を自由に移動する生物をどう考えるのか、河川の水をどう考えるのかといった点は重要である。こうした実務(実際の事業)を見据えた制度設計が必要となる。
 実現に向けての課題・検討事項は非常に多いが、もし民間事業者による自然資本を中心にしたグリーンインフラの管理が動き出すとすれば、それは、財政状況が悪化している政府や地方公共団体にとって非常に大きな意義を持つ。また、民間事業者のノウハウを活かして、グリーンインフラの持つ多様な価値の最大化を進めることは、自然資本の効果的な活用という観点からもその社会的価値は大きい。グリーンインフラ分野におけるコンセッションの適用は、その実現に向けて今後検討すべき課題は大きいが、検討に値するだけの可能性を秘めている。

(注1)コンセッション事業は必ずしも独立採算事業であるとは限らない。例えば、国立女性教育会館公共施設等運営事業及び施設・整備長期維持管理業務委託においては、民間事業者に施設の運営権を付与しその対価を受領した上で、同一の民間事業者に対し施設の維持管理業務を委託し、当該維持管理業務部分についてはサービス対価を事業者に支払っている。
(注2)民間資金等活用事業推進会議決定「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」(平成25年6月より。
(注3)PFI法に基づき、内閣府に特別の機関として設置された機関であり、会長は内閣府総理大臣で委員は全ての国務大臣である。PFIに関する基本方針の案の作成や関係行政機関相互の調整等を担う。
(注4)例えば、東京都江東区・財団法人地方自治研究機構「PPPによる公園管理・運営に関する調査研究」(平成25年3月)など。
(注5)PFI法第2条においてその対象については「一 道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道等の公共施設  二 庁舎、宿舎等の公用施設 三 賃貸住宅及び教育文化施設、廃棄物処理施設、医療施設、社会福祉施設、更生保護施設、駐車場、地下街等の公益的施設 四 情報通信施設、熱供給施設、新エネルギー施設、リサイクル施設(廃棄物処理施設を除く。)、観光施設及び研究施設  五  船舶、航空機等の輸送施設及び人工衛星(これらの施設の運行に必要な施設を含む。) 六  前各号に掲げる施設に準ずる施設として政令で定めるもの」とされている。
(注6)Natural Capital Financing Faculty「A Guide for Applicants」
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