起業大国実現に向けた起業家教育における育成すべき資質・能力

2018/05/08
政策研究事業本部 研究開発第2部 研究員 黒瀬 剛史

1.起業家教育(アントレプレナーシップ教育)の重要性

これまで日本経済を支えてきた大企業の地盤が揺らいでいる今、ベンチャーやスタートアップの躍進は今後の持続的な経済成長のためにますます求められてきている。また、先の衆院選における自民党のマニフェストには”「起業大国」を目指し、産業の新陳代謝と世界を変える「ユニコーン・ベンチャー」創出に向け、中長期の成長資金の供給拡大などの取り組みを加速します。”とあり、ベンチャーへの支援はますます活発化していくことが見込まれる。

現在、公共部門や民間部門において、ベンチャーを支援する方策はいくつも存在しているが、”起業大国”を目指すにあたっては、起業に関心を持ったり、希望したりする人材を育成していくことが非常に重要になってくる。そこで、本稿ではまさに起業の初期ステージといえる起業家教育(アントレプレナーシップ教育)に焦点を当てることにする。

2.起業家教育で育成されることが求められる資質・能力

起業家教育は、起業家・経営者など外部講師を招いての講演、起業体験、地域企業・地域団体などとの共同プロジェクトなどの形態を取っていることが多い。しかし、このような形態を取り入れていくだけでは、起業大国に繋がるとは言いがたく、起業に必要な資質・能力を育成することがより本質的に重要である。

では、どのような資質・能力を身につければ起業に繋がっていくのか。これについては、「平成28年度中小企業・小規模事業者の起業環境及び起業家に関する調査報告書」(平成29年3月 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)において、起業に関する資質・能力が分析されている。

具体的には、起業家や起業準備者、起業希望者、過去の希望関心者(※)のそれぞれが、自らの行動様式について、「当てはまる」・「やや当てはまる」・「あまり当てはまらない」・「当てはまらない」から回答するアンケート調査が実施されている。質問項目として10項目あるが、これらは、以下のように3つの力に整理することができると考えられる。

学ぶ力 1.既存の価値観に対して疑問を持つか
2.自分の専門領域に限らず、様々な物事に対して関心を持つか
3.自分の知りたいことを徹底的に知ろうとするか
4.物事の課題の本質を捉えた上で、独創的な解決策を自ら導き出すか
行動する力 5.自力で模索した課題に対する解決策を実行に移すか
6.自らが立てた目標の達成に向けて、諦めずに粘り強く取り組むか
7.自分の取組を改善するために、これまで行ってきたことを見直すか
他者と関わる力 8.自分とは異なる背景や考え方をもつ人たちと積極的にネットワークを築くか
9.自分の考えを深めるために、他人の意見を積極的に聞くか
10.物事を進める上で他人を巻き込むか

※起業家…起業を実現した者
起業準備者…起業したいと考えており、現在起業に向けて具体的な準備を行っている者
起業希望者…起業に関心があり、起業したいと考えているが、現在具体的に準備を行っていない者
過去の希望関心者…起業について、過去に関心はあったものの、現在は関心がない者(過去に起業を考え、準備若しくは希望したものの準備にまで至らず、現在は起業に無関心な者)

下図は、質問項目のうち、「当てはまる」と「やや当てはまる」の割合が大きかった、「自分の知りたいことを徹底的に知ろうとするか」、「自分の専門領域に限らず、様々な物事に対して関心を持つか」、「自分の取組を改善するために、これまで行ってきたことを見直すか」という問いに対し、「当てはまる」と回答した人の割合である。

図表:起業に関する資質・能力

図表:起業に関する資質・能力

(資料)「平成28年度中小企業・小規模事業者の起業環境及び起業家に関する調査報告書」(平成29年3月 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)より作成

これによると、各質問項目において、起業準備者のポイントが高くなっている。実際に起業に向けた準備に取り組むようになるためには、「自分の知りたいことを徹底的に知ろうとする」、「自分の専門領域に限らず、様々な物事に対して関心を持つ」、「自分の取組を改善するために、これまで行ってきたことを見直す」といった資質・能力が十分にあることが重要であると言えよう。

3.今後の起業家教育の発展に向けて

起業大国を目指すためには、起業家教育はその重要性を増してくるだろうが、単に起業家・経営者など外部講師を招いての講演などを行うのではなく、どのような資質・能力を育成するのかという方針を打ち立てていくことが起業家教育の有効性をより高めていくことになるだろう。起業家教育の改善にあたっては、本調査の結果にもあるような資質・能力を身につけることを促すような教育を提供することが肝要である。例えば、起業体験を行うにあたっては、講師が、生徒が考えたことをさらに深掘りするための質問を投げかけたり、本当にそのようなビジネスプランで良いのか再考するような機会を設けるようなことが必要であろう。さらに、全国レベルで優れた起業家教育を実施していくため、国や自治体は、どういった資質・能力をどのように育成していくかが整理したガイドラインを作成していくことが望ましい。

一方、起業に関する資質・能力に関する国内調査は多くはなされておらず、本稿で紹介した調査でも、起業準備者の方が起業家より高いポイントが出ており、起業家に必要な資質・能力については、さらなる研究が必要である。

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