情報社会を読み解くモバイルライフログの可能性スマートフォンの実利用データ分析研究会(LDASU研究会)の取組について

2018/08/31
公共経営・地域政策部 副主任研究員 中田 雄介

昨今、「Industry4.0」「Society5.0」といった単語が、ニュース報道のなかで頻出するようになっている。特に、人やモノのデータの収集・蓄積・分析・活用といったデータの利活用サイクルが下支えする社会の姿は「データ駆動型社会」と呼ばれているが、データ利活用にはまだまだ取組のイメージやメリットが分かりにくいといった声も多い。

こうしたなかで、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、フラー株式会社(以下、フラー社)、立教大学社会学部メディア社会学科・木村忠正研究室の3者が中心となり立ち上げた「スマートフォン実利用データ分析(Log Data Analysis of Smartphone Use)研究会(以下、LDASU研究会)」では、被験者の協力姿勢や記憶に依存しないスマートフォンの実利用データを用い、起動ログを1秒単位という細かい粒度で分析することにより、人々のインターネット利用の実態把握に留まらず、生活行動/ライフスタイルや嗜好性等の把握・可視化を模索し、それを通じて、モバイルライフログの有用性や認知度の向上に寄与することを目指している。

 

木村 忠正 教授本コラムでは、「スマートフォン実利用データ分析(Log Data Analysis of Smartphone Use)研究会(以下、LDASU研究会)」のこれまでの分析結果を踏まえ、「情報社会を読み解く上でのモバイルライフログの可能性」について、研究会のメンバーである立教大学社会学部メディア社会学科・木村忠正教授にお話しを伺い、その内容をインタビュー結果として紹介する。


― LDASU研究会では、20歳未満~50代以上の年代5区分・男女各500名の計5,000人を対象に、2017年1月25日からの1週間のスマートフォン・アプリケーションの1秒単位の起動ログ(モバイルライフログ:国内最大級のアプリ分析ツールApp Apeサービスを運営するフラー社提供)をもとに、人々のインターネット利用やライフスタイルについて分析を進めており、これまでに次の2つのレポート(分析結果)を公表しています。

○LDASU研究会レポート【第1弾】:スマートフォンの実利用データにみる人々のインターネット利用の実態
○LDASU研究会レポート【第2弾】:スマートフォンの利用状況によるユーザー像の実態把握

そのなかでまずは、2018年1月に公表した第1弾レポート「スマートフォンの実利用データにみる人々のインターネット利用の実態」について、お伺いします。

第1弾レポートレポートでは、総務省情報通信政策研究所が「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を通じて定点的に捕捉している1日24時間の時間帯別の人々のインターネット利用の状況との比較分析を行っています。レポートのなかでも指摘があるように、総務省の調査結果を通じて把握されていた時間帯別のインターネット利用状況と、LDASU研究会におけるスマートフォン・アプリケーションの実利用データに関する分析結果は相似していること、また、LDASU研究会が試みたモバイルライフログによる分析では、既存の社会調査手法では捕捉しきれない「より粒度の細かい」単位のインターネット利用やスマートフォン等のデジタル機器を介した生活行動等が把握できることが明らかになりました。こうした点について、これまでも情報行動調査として重要な「日本人の情報行動」調査(東京大学情報学環・橋元良明教授代表)や、国際的インターネット利用行動調査プロジェクト(WIP:World Internet Project)などに携わられてきた木村教授はどのようにお考えですか?

【木村教授】  「情報行動」に関する調査研究の大半は、標本アンケート調査にもとづいています。それは、「日本人の情報行動」やNHK放送文化研究所「生活時間調査」でもそうですし、30か国以上が参加しているワールド・インターネット・プロジェクト(WIP)でもそうです。ですが、社会科学の方法論として、選択回答式や日記式を用いた標本アンケート調査を取り巻く環境は、厳しさを増しています。かつて日本社会では、住民基本台帳をもとにした標本の無作為抽出が比較的容易であり、公的調査や学術調査に協力的な態度も広く見られました。そこで、国際的にみても質の高い社会調査を実施することができたと思います。

 しかし、標本抽出の元となるデータを取得することが難しくなるとともに、オートロック式マンションの普及(世帯に立ち入ることが難しい)やプライバシー意識の高まり、若年層を中心にした在宅率、回答率の低下など、標本調査の基盤が脆弱になっています。ネット調査も普及してきましたが、インターネット非利用者が対象とならず、スマホ回答では画面の制約があり、モニター調査が持つ偏りも依然として大きな課題です。

 さらに、スマートフォンによる情報行動は、アンケート調査でたずねることが困難という意味でも、従来にはない新しい情報行動です。テレビ、新聞などのマスメディア、映画、ビデオなどのコンテンツ、パソコン、家庭用ゲーム機、DVDのような端末利用については、接触行動の開始と終了を比較的容易に把握することができ、アンケート調査で、利用時間や頻度、種類などもある程度の粒度で捕捉することができます。しかし、スマートフォンの場合には、常時携帯し、無意識的、断続的操作も多く、アプリも多種多様で、切り替えが容易なため、アンケートで具体的にたずねることは難しく、回答自体の信頼性も不確かです。

 このような観点から、モバイルライフログを用いた情報行動研究には、大きな可能性があると感じ、フラー社、三菱UFJリサーチ&コンサルティング社とともに、LDASU研究会を立ち上げました。実際に、フラー社から提供を受けた2017年1月のモバイルライフログデータの分析に取り組み、研究を進めています。成果の一部を、2018年7月の情報通信学会WIP(フランスでの年次国際会議)で報告を行いましたが、多くの情報行動研究者たちが、上述のような標本アンケート調査の課題を認識し、新たな方法論を模索しており、「モバイルライフログ」の可能性に強い関心が寄せられました。

 例えば、図表1にもあるように、日記式回答(総務省調査)によるスマートフォン利用率と、モバイルライフログデータによる1時間単位でのスマートフォン利用率が、その24時間単位でのリズムにおいて相似形であることは、とても興味深い知見です。これら2つの調査結果の「相似」と「差異」をもとに、2つの調査方法を対話させることは、人々の情報行動をより的確に理解することにつながると思います。

図表1. 時間単位のスマートフォン利用率と総務省調査結果との比較(平日)
図表1. 時間単位のスマートフォン利用率と総務省調査結果との比較(平日)

注釈1)上図に示す本研究会の分析結果は、毎時00分00秒から59分59秒までの1時間のなかで、スマートフォンにインストールされたGoogle Playで提供されているアプリケーション(GPA)が1度(1秒)でも起動しているユーザーの比率(行為者率)を表す。そのため、「一定時間の連続したインターネット利用」だけでなく、瞬間的な「インターネット接触」も含むものである。
注釈2)上図で「[1]総務省調査(ネット利用行為者率)」として示したデータは、総務省情報通信政策研究所「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の調査結果(時間帯別のインターネット利用行為者率)である。また、「[2] 参考値:1に基づく「ネット利用者に占める利用率の換算値」は、非ネット利用者を含む上記[1]の行為者率について、2016年の国内インターネット利用者の割合(83.5%)をもとに、インターネット利用者に占める時間帯別のネット利用者の比率に換算した参考値である。

 

― 次に、第2弾レポート「スマートフォンの利用状況によるユーザー像の実態把握」について、お伺いします。

第2弾レポートでは、前回と同じデータセットを対象に、ユーザー属性やアプリケーション利用等の特徴の類似性により、統計的に全体を30のクラスター(集団)に区分しています。スマートフォンのアプリケーション利用には様々なニッチな傾向も見受けられるなかで、LDASU研究会の分析では、4つのクラスター(集団)に分析対象ユーザーの約7割が包含されることが把握されました。こうした分析結果を踏まえ、日本国内のスマートフォン利用の特徴について、木村教授はどのようにお考えですか?

【木村教授】  モバイルライフログ分析の最も大きな強みの一つが、「個々の利用者の個別アプリ利用を分析できる点」です。今回の分析データでは約5,000人のサンプルが、1週間で9,000近くのアプリを利用しています。さらに、各利用者について、性別、年代、利用キャリアなどの属性データがあることも強みです。

 そこで、研究会では、利用者属性データとともに、ログデータを、利用者毎の時間帯別、主要アプリ別、アプリカテゴリー別に集計して投入し、階層型クラスタリングを試みたわけです。その結果、最も適切なモデルを抽出したところ、第2弾レポートにあるように、性別(男/女)・年代(青年層/中年層)の組み合わせで、「平均的利用者」像が浮かび上がり、合計7割近くのサンプルが、いずれかの「平均的利用者」像にクラスター分類されることが分かりました。

 ここで興味深いのは、広く利用されている個別アプリ、カテゴリー(1週間単位での利用者率50%以上)の観点からみると、日本社会におけるスマートフォン利用は、驚くほど「均質的」だということです。図表2に示されているように、「平均的利用者」像の4クラスターは、個別アプリ、カテゴリー利用率がほぼ同様の傾向を持ち、利用率の若干の差異がクラスターを区別する特性になっています。

 とくに際立つのが、[ゲーム]、[LINE]、[Google(検索窓、Chromeブラウザ)]の強さです。分析対象サンプルにおける利用率(調査対象期間の1週間において1度でも利用がある場合は「利用あり」とみなした当該アプリの利用ユーザーの比率)は7割から8割に達し、(プリインストールされたシステム系を除く一般的なアプリの)ログ構成比でも、この3種類で5割を占めます。つまり、日本の平均的スマホ利用者は、老若男女問わず、スマホアプリの利用・操作の半分を、[ゲーム]、[LINE]、[Google]で行っていることになります。レポートの性年代別の時間帯ごとの利用率推移に関するグラフ(第2弾レポート:p.4-図表5)を作成して、性、年代に多少の差はあっても、1日中、[ゲーム]、[LINE]、[Google]をしている様子が現れ、とても驚きました。こうした情報行動分析は、やはり、モバイルライフログならではの強みだと思います。

 そして、こうした大きな利用傾向を共有しつつ、[YouTube]、[Twitter]は、青年層で利用が活発、[ライフスタイル]カテゴリーは女性優位、[ニュース]カテゴリーは男性中年層優位といった性年代の違いが、「平均的利用者」を複数のクラスターに分けています。これもまた、わたしにとっては大きな発見で、やはり、性、年代という人口学的属性が、スマホアプリ利用にも大きな意味を持つことが確認できました。

図表2. 主なアプリカテゴリー、アプリケーションに関する主要4クラスターの利用率
図表2. 主なアプリカテゴリー、アプリケーションに関する主要4クラスターの利用率

注釈1)上図では、クラスター間に特徴的な差異がみられるアプリカテゴリー、個別アプリケーションを黄色で強調した。
注釈2)上図の「C_**」はアプリカテゴリー、「A_**」は個別アプリケーションを表す。

 

― 最後に、データ利活用の対象領域が拡大しつつある今日の状況を踏まえ、学術研究(アカデミック・リサーチ)や社会調査におけるモバイルライフログなどの「実利用データ(ログデータ)」の活用可能性について、木村教授のお考えをお聞かせください。

【木村教授】  図表1に戻りたいと思います。日記式回答(総務省調査)とモバイルライフログデータが、24時間単位でのリズムにおいて「相似」している。これは、日記式での自記式回答が、けしていい加減ではなく、人々のスマートフォン利用行動を適切に反映していることを示唆するとともに、モバイルライフログもまた、偏りの大きなモニター集団にもとづくものではないことを傍証していると考えることができます。

 しかし同時に、顕著な「差異」もあります。例えば、朝7時台、モバイルライフログデータでは、明らかに、通勤、通学時に、スマホが利用され、利用率が跳ねていますが、日記式では見られない。また、そもそも、全体の波形は相似ですが、利用率の絶対値には大きな差がある。こうした違いは、やはり、日記式では何気ない利用を捕捉できないことを表しているように思います。

 先程、住民基本台帳をもとにした社会調査における標本の無作為抽出などが抱える課題についてお話しをしましたが、時代の変化にあわせて、既存の社会調査の方法論もあらためて検証していく必要が生じています。同様に、本研究のサンプルの母集団に関しても、日本社会のスマホ利用者全体のなかで、どのような位相にあるのか十分に検討をしていく必要があります。むしろ、万能な方法はないのですから、複数の方法にもとづいた調査研究を進め、対話をさせることが、それぞれの方法がもつ特性を明らかにし、スマートフォン利用という情報行動研究にとってのフロンティアにアプローチする「新たな方法論」を発展させることにつながると期待しています。

 また、図表2に関連して、国際比較の必要性も感じます。これだけ多種多様なアプリがありながら、大半はロングテールに埋もれ、キラーアプリ、キラーカテゴリーについても強い利用の「均質性」が見られました。こうしたスマホ利用の均質性は日本社会の特性なのか?、それとも他の社会でも同様なのか?。インターネットの揺籃期では、覇権が目まぐるしく入れ替わったにも関わらず、2010年代に入ると、Google、Facebook、Amazon、Appleといった巨大IT企業による寡占的状況が強まっているようにも思えます。スマホによる情報行動も、社会を問わず、そうした傾向があるのかもしれません。

 他方、ロングテール自体の研究もまた重要であり、モバイルライフログはその強力な武器だと思います。今回までのレポートでは、まだ報告できていませんが、ゲームカテゴリーで今回のログデータに現れたアプリは3,000を越えており、どのアプリが、どのような人たちに利用されているのかを、モバイルライフログだからこそ、分析することが可能です。ゲーム研究では、情報行動の観点から、実利用データにもとづいた実証的研究を行うことは、これまでほとんど不可能だったと思いますが、モバイルライフログはそうした新たな領域を切り拓くものだと思います。

 研究会では、第1弾、第2弾レポートで分析対象としてきた2017年1月のデータセットに加え、現在、2018年1月データの分析も開始しており、一層活発に、研究活動を展開していきたいと考えています。


木村教授へのインタビューにもあるように、スマートフォンのアプリケーションの実利用データ(モバイルライフログ)には、インターネットの利用実態の把握のみならず、生活行動・生活時間の把握を目的とした新たな社会調査の方法論・データセットとして、大きな可能性、高い有用性があると考えられる。「情報社会を読み解く」ツールとして、LDASU研究会では、今後もモバイルライフログを用いた研究や新たな社会調査の方法論の検討を進めていく予定である。

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