地方自治体におけるコンセッションの利点と限界「稼げる」スポーツ施設の実現に向けた取組み事例から読み解く

2018/11/28
公共経営・地域政策部 研究員 森下 美苗

「コンセッション」という言葉について、水道法の改正や、関西国際空港の事例を起点に、聞き覚えのある人も少なくないだろう。2018年9月の災害による関西国際空港での復旧活動について、「関空の民間への運営権売却(平成28年)や道路公団民営化(17年)が背景にあり、複雑な権利関係が迅速な復旧や今後の防災対策工事のネックになりかねない(2018.9.10産経ニュース)」との記事もあった。コンセッション方式の運営者と所有者の不一致、契約関係の複雑性という弱点が顕在化する結果となった。事業契約時点で災害復旧対象となる施設設備の所有者、運営者が異なることを前提としたうえで、詳細に復旧工事の負担・責任を明確化しておく必要があったと考えることもできる。一方、国は引き続きコンセッション方式を推進しており、コンセッション方式に対する期待は存続していると言えよう。

「稼ぐスポーツ施設」という文脈でもコンセッション方式に対する関心は高まっているが、いかにして長期間に亘り利用料金収入を上げ、コンセッションの利点を最大限発揮するかという点について、民間事業者と公共側で妥協点を模索する必要がある。本稿では、日本初のスポーツ施設におけるコンセッション方式による公募を行った有明アリーナの事例から、地方自治体が民間事業者との間で妥協点を見いだすべきポイントについて考えたい。

1. コンセッション事業の定義から読み解く成立要件について

コンセッション事業について、法律上の定義を、「文教施設におけるコンセッション事業に関する導入の手引き」(平成30年3月)(文部科学省)(以下「文科省手引き」という。)において以下のとおり、詳細に要件化している。

この要件からも読み取れるとおり、民間事業者がその公共施設を「運営したい」と思うかどうかが必須要件となるが、公共側にとっても「柔軟な運営条件を許容できるか」という点が重要な要件となっており、民間事業者、公共側である発注者の両方にとって、Win-Winとなるような合意点を導出できるかが鍵となる。

5つの要件を公共側と民間側の一般的な意向(関心の主な対象)を要素分解すると、以下のとおりとなる。これらの要件ごとにいかにして、公共側と民間側の妥協点を模索するかが必要となる。

一般的な意向について、公共側と民間事業者側にギャップがあることが分かったが、次節では、有明アリーナの事例から、どのようなギャップがあるのかを読み取っていきたい。

2. コンセッション方式を導入検討するスポーツ施設の事例から読み解く利点と限界

日本初のスポーツ施設におけるコンセッション方式による公募を行った有明アリーナの事例を見てみよう。

(1) 事業概要

有明アリーナ管理運営事業は東京都が発注者となり、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会後、コンセッション方式での管理運営を行い、東京の新たなスポーツ・文化の拠点として活用することを目的として、現在事業者公募が行われている。発注者である東京都は、都内最大規模のアリーナ施設として、魅力的なエンターテインメントの場を提供するとともに、様々な集会や式典の場としても活用されることを目指している。

都から発注される事業条件の概要は以下のとおりである。

設計時に運営事業者の意向が反映されない形でのコンセッション方式であるが、運営権対価は合計64億円(税込)という公募条件を提示できている。

(2) 事業手法決定に至るまで

この公募に至るまで、東京都は指定管理者制度、普通財産貸付、コンセッションの3手法について検討を行い、導入可能性調査を実施していた。最終的には、運営権者の創意工夫を活かした柔軟な運営によりサービス向上とともに収益性を確保できる点であり、スポーツやエンターテインメント等の多様な活用を図るという施設の特性を引き出せる管理運営手法として、コンセッションが適当との結論に至った。

普通財産貸付であっても、指定管理者制度であっても、発注者の工夫によっては、民間の創意工夫が活かしやすいような事業期間、収益性確保を実現しうる制度だが、なぜコンセッションを最適手法にしたかという要点については、非公表である。制度上の一般論としては、特に事業期間の長さと、行政財産という扱いの必要性、事業開始時点からプロフィットシェアが容易に見込め契約上担保されること、などからコンセッションがより適切であるという結論に至ったとも考えられる。

(3) 公募条件から読み解く、コンセッション方式の利点と限界、今後の可能性

ここまでは有明アリーナの事例の概要とコンセッションを選択した経緯について、述べてきた。ここからは、実際の公募資料から、具体的に民間事業者と発注者との妥協点を模索した結果について記したい。

公募資料から読み解くと、特に追加投資の有無、需要変動の見込み、瑕疵担保を含む都の行った又は今後行う工事に伴う運営事業者への影響について、妥協点創出に骨を折ったと思われる。


(出所)東京都HP(http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/07/11/26.html)より
三菱UFJリサーチ&コンサルティング編集

これらを総括したものは、以下のとおりである。

「日本初のスポーツ施設におけるコンセッション」ということもあり、事業者側も慎重な対話を行い、発注者である東京都も段階を経て、事業者に提供する情報を拡大したと予測される。実際に文科省手引きにおいても、コンセッション方式導入の留意点として、運営計画や大規模修繕について、東京都(発注者側)から具体的な提示をしたことで、運営事業者から初めて明確な反応が得られた旨の記載がある。コンセッション方式は、長期の運営計画を立てる必要があることから、発注者と事業者との間で綿密な意見交換を行うことが成功の必須条件と考えられる。

綿密な官民対話を行ったことが、有明アリーナの利点創出に繋がったと思われる一方で、有明アリーナの事例には限界とも思われる点もある。追加投資が見込みにくいことや、補修工事等のリスク分担は必ずしも十分とは言えないこと、モニタリング指標も一般的なものに止まっていることから、都内最大のアリーナでありながら、どの程度魅力的なエンターテイメントを提供できる場になるか、今後に注視したい。(なお、限界としている点については、トラックレコードのある施設であれば、解決されうる可能性もあることから一概には述べることができない。)

いずれにしても、今後の有明アリーナの運営開始後の状況から、「必要十分な意見交換の量・質」について、再度議論されることを期待したい。

3. スポーツ施設のコンセッションを各自治体で進める必要性について

ここまでで有明アリーナの事例から、コンセッションの利点と限界を述べてきたが、「スポーツ施設のコンセッション=運営権対価ゼロ」のイメージを払しょくしうる希望になっているとも言えるだろう。有明アリーナの事例からは、発注者側がいかに詳細な情報を提示し、民間事業者と発注者側の意向のギャップを埋める「対話」が必要かということが読み取れた。

スポーツ施設のコンセッションについては、指定管理者制度の併用が基本とされていることから、(1)指定管理者制度にプラスしてコンセッション方式を採用するインセンティブが必要となる。また、長期間にわたる安定した運営が求められながら、(2)リスク負担を負わない関係者からの過剰な運営スペックの要求、利用料金制限をどう乗り越えるかという課題がある。

各自治体においては、コンセッションという手法ありき、ではなく、十分な民間事業者との対話により、「その自治体にこそ、長期的に必要な」ソフトコンテンツをいかに充実させるかを、自治体担当者が主導的に検討することが必要だろう。中身のある官民対話によって、はじめて安定した運営計画が見え始め、その運営計画に適合した手法選択が可能となるのではないか。

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