コロナ対策の失敗体験
現在首相を囲む経済財政諮問会議の議員を務めていますので、菅首相の退陣表明はショックでした。首相にはデジタルやグリーンの課題に踏み込まれた貢献がありますし、コロナ対策でもワクチン接種を重視した方針自体は正しかったと思います。ただ、何が何でもウイルス感染を抑えるという強い意思表示ができなかったのは事実。その理由についても思い当たるので、いずれ書かせていただきます。
残念ながら政府のコロナ対策で一回大ポカがありました。私は基本対処方針分科会の委員でもあるので、身にしみてわかっており、今日はその話をします。問題は6月21日から施行される政策を議論する6月17日の会議で起きました。この議事録は公開されています。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/taisyo/dai10/gijiroku.pdf
この日、決まったのは、緊急事態宣言の対象の10都道府県のうち、北海道、東京、大阪を含む7都道府県の解除と、飲食店に対し20時までの時短要請は続けるが、感染対策にしっかり取り組んでいる店舗は、19時まで酒類を提供できる、という酒類提供の緩和策でした。私は分科会で毎回真っ先に質問するのですが、今回も早速食いつきました。
「(竹森)原理的に考えると、マスクを外して話す、食べながら話すのは難しいが、酒を飲みながら話すのはできる。しかも、酒があると長いこと話す。若い人たちは耐え切れなくなって、動き出している。けれども、ここでお酒を飲んで良いことにすると、感染者数がもっと上がる危険がある。」
大竹文雄さんも酒提供への疑問を出されましたが、洗練された提案の形で、でした。
「(大竹)酒類の提供を許可する飲食店とそうではない飲食店を分けて規制を解除することが原則になっていて、より強い制限を知事の判断でできるという形で、オプションとして知事に権利を与えている設定。これを逆にして、非常に厳しい制限がデフォルトで、場合によっては知事の判断で酒類の提供を許可する飲食店を出してもいいという形に変更すべきではないか。
飲食店の感染対策のチェック制度が完全には整っておらず、整っていない状況で、条件が整っているところに酒類を提供する許可を与えることは実行が難しく、結局、酒類提供の規制が有名無実化する。」
そもそも、なぜ酒類の許可を政府は提案したのか、脇田委員の発言に鍵があります。
「(脇田)昨日のアドバイザリーボードで、一度、息継ぎは必要なのではないかという議論があった。」
そう飲食店に「息継ぎ」というのがポイントです。規制緩和の根拠として変な理屈と感じましたが、尾身会長が認めそうだったので、私がもう一度蒸し返しました。こういうやり取りです。
「(尾身)万が一(感染者数が)上がってきたら、すぐに対策を打つ。そういう条件で、私自身は了承する。それが今日の結論でよろしいか。」
「(竹森)解除するとすれば、条件が必要ということだが、そもそも東京を解除するのかということから議論を始めるべきではないか。」
これで振り出しに戻り、押谷委員から東京はすでに感染拡大局面に入っている可能性が高いといった強い否定論もありましたが、結局、政府案が認められました。飲食店に「息継ぎ」が必要という流れがあったのです。吉田室長の以下の答弁から読み取れます。
「(事務局 吉田)三つの点で、酒については警戒を持っている。
一つは、飲食店クラスターの半数以上で、酒がある程度関係している。二つ目、富岳で解析をすると、大声のリスクはシミュレーションしており、酒を飲むと大声になる。
三つ目、アンケートなどを見ると、酒が入ると会食が長くなる。
しかし今の緊急事態宣言が結果的に長くなっていることへの国民の方々の御理解と同じように、事業者の方々の御協力、御理解は必要。先ほどの大臣の挨拶の中では『持続的な御協力』とあった。
もう一つは、仕組みとして安定的に、持続的に、かつフェアに対応するには、今日の提案のように、一定の要件を満たすところに19時まで酒の提供を認める必要がある。」
この緩和措置の後、8月末まで感染拡大が止まらなかったのです。飲食店に「息継ぎ」させようとした結果、一層の厳しい状況を招かれました。
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