エネルギー問題が今年の台風の目
年初にBSの経済報道番組に出演し、グリーンの問題を議論していた時ですが、EUがクリーンエネルギーのタクソノミーに、再生エネルギーに加えて原子力を入れ、原子力の推進を目指しているようなのは何故なのか、といった質問が出ました。
言うまでもないことですが、われわれにとってエネルギーは死活にかかわる問題です。それを逆手にとって、エネルギー産出国は、戦略的、政治的に有利な立場を実現しようと行動することがあります。古くは、イスラエルとの闘争が続く中、中東の石油産出国がたびたび石油の禁輸を政治的武器に使った例が挙げられますが、現在ではロシアがガスの輸出を武器にして、NATOに対する戦略的有利を築こうとする意図が見える。ロシアがウクライナに対する軍事行動を発動する危険が、年末から議論されてきましたが、これは相当、奥の深い問題です。
その根底には、世界で化石燃料から脱却しようというグリーン化の流れがあります。その結果、2030年もしくは2050年の段階でガス、石油など化石燃料からの離脱がほぼ完成したとする。それがロシア経済にどのような影響を与えるかを考えてみましょう。ソ連の時代は、この国はともかくゴスプランに従って重工業化を進めてきた。最新のテクノロジーを持つ工業国であろうとしたのです。それがロシアになってから、エネルギー生産一本に経済が依存するようになったのです。
軍事的な行動でも中東にちょっかいを出し、シリアの政権を助け、石油、ガスでの司令塔の立場につこうとした。ところが脱石油、脱ガスへの潮流の中では、生きるすべにさえ欠くことになります。NATOに対抗する軍事力の維持すら困難になるでしょう。その流れにあらがうために、ウクライナへの軍事行動をテコに、NATOから、つまりはアメリカとヨーロッパから、戦略的譲歩を勝ち取ろうとしている。それが直近の状況です。
もし実際に、ロシアがウクライナに対する軍事行動を取ったらどうなるでしょう。EUも、アメリカも、軍事的に対抗する危険は冒すはずがありませんが、経済制裁はするでしょう。半導体など、いまや経済に不可欠な製品の輸出規制をするかもしれません。
そうなると、ロシアも対抗して経済制裁をする。これは間違いなく、ガスの供給を制限して、ただでさえ高騰しているガス価格引き上げる方法を取ると思います。まさに首相を退任したメルケルさんが恐れていたシナリオです。
現在EUが脱化石燃料に熱心で、原子力まで推進目的にしているのはこのためだと思います。したがって、EUではカーボンニュートラルへの動きは、原子力もメニューに入れた形でさらに進んでいくと思います。しかし、これはあまり指摘されていない点ですが、アメリカにおける展開はこれとは逆になるのではないでしょうか。
バイデン政権は脱炭素を視野にした第3弾の政策パッケージを議会で通過させようと考えているところですが、昨年民主党内の票が割れることがはっきりして(ウェストバージニアの上院議員が反対して)、成り行きが怪しくなってきました。これでアメリカでは、グリーンに向けた政策が進むかが不確実になったわけです。
それに加え、シェールの生産を考えると、アメリカは世界第一位のガス生産国ですから、ウクライナを巡る欧州の展開において、ロシアがガスを戦略物資に使うようだと、それほど重要なガスの生産を見捨てることについては、アメリカ国内での反対が強まるでしょう。戦略物資の生産を保護、促進するべきというのは、実際理にかなった政策です。
こうして、欧州では脱化石燃料の動きが加速される一方、アメリカでは化石燃料に回帰する動きが起こる。日本はどちらにつくべきでしょうか。
石油も、ガスも生産できない日本は、欧州と協力して脱炭素に向かうべきだと思います。そうすると、再エネに向かうのか、原子力に向かうのか、という問いかけが次に出てくる。どちらにも決められないで、そこで行き詰ってしまうというのが、これまでの日本の政策パターンだったのですが、原子力のことはともかく、再エネは確実に進めるという方向に政府が舵を切ったのは良いことだと思います。
秋田沖での洋上風力の入札が年末に行われ、三菱商事などの連合が思い切って低い価格を提示して入札に成功したこと。まさに日本の再エネの新時代を思わせる展開でした。
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