成果志向の行政経営が求められる昨今、社会実験や実証実験等を通じて事業の効果や妥当性を事後的に測定するという調査テーマが増加している。過去の経験や反省に立ち、将来の施策展開に係る一連のPDCAサイクルを確立していくためには、事後の実証研究の成果を活用することは非常に有効である。ただし、この事後評価の重要性を感じながらも、リサーチの現場にいるひとりとして、具体的な手法については今後の研究課題となる部分も少なくないと感じている。
事後評価の特徴として、検証データを豊富に収集できることがあげられる。しかし、対象事業の純粋な効果量(対象事業以外の影響要因を取り除いたもの)を抽出することは難しく、今後の研究課題のひとつと認識している。この点については、様々な計量分析手法が既に存在しており、また、対象事業と、企業・市民の行動変化等との間の因果関係をアンケート調査等で確認していくこと等で補完しながら進めていくことでより確かな成果が得られる。しかし、こうした方法も、実施から時間が大きく経過しているような事業については限界があると思われる。また、効果の発現量は、事業特性や事業背景によって程度が異なることから、弾性値等として一般化していくには、今後、数多くの分析事例を積み上げていく必要があるだろう。
事後評価では、事業と成果指標との因果関係を明示していくことが重要であるが、多くの場合、事業は関連した様々な取り組みと一体的なパッケージ施策として取り組まれることが多い。さらに、事業効果が顕在化するに至るまでの時間経過の中で、様々な関係者の取り組みや、社会経済環境の変化、地域固有の変化要因など、多岐にわたる影響を受ける。事後評価ではこうした複雑に絡み合った要因間の因果関係を解きほぐし、一連のプロセスとして整理した上で、上手くいった理由若しくは上手く行かなかった理由を特定していくことが求められる。
事後評価の対象となる項目は、利用実績や利用者の満足度、事業に係る財務など、多岐にわたっている。しかし、PDCAへの適用や、類似事業への適用、類似事業を実施する際の戦略策定など、事後評価の成果を未来志向で活用していくことを重視すると、事業推進に係る一連のプロセスを評価することが極めて重要で、事後評価を実施する最大の値打ちはこの点にあると考える。
こうしたプロセス評価は、同種の事業であっても事業目的や地域、時期等によってその内容が異なるものになると考えられ、これを分析する確立された手法が存在しているかと言うと、未だ不十分と感じざるを得ない。この点も我々の大きな研究課題と考えており、今後、様々なパターンを分析対象に取り上げ、ノウハウの蓄積に厚みを加えていきたいと考えている。
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