安全マネジメントの鍵を握る現場力

2010/06/21 中尾 健良
安全
マネジメント

平成17年にヒューマンエラーに起因すると見られる交通事故が相次いだことを踏まえ、国土交通省は平成19年に運輸事象者を対象としたヒューマンエラー事故対策として、運輸安全マネジメント制度を導入した。これを受け、国において、運輸安全マネジメントを推進するための講習会、手引書の配布など、様々な方策を講じている。
そして、地域の交通事業者は、「安全遵守」を社会的使命として位置づけ、安全機器の取り付けや社内研修の実施など、会社をあげての対策に取り組んできた。
運輸安全マネジメント制度が導入されてから3年が経過して、施設整備やマネジメントの仕組みの導入は比較的進んでいるが、それを運用する社員意識を改革することの難しさが課題となっている。
ところで、脳外科の林成之先生の著作によると、『能力を高めるためには、「覚える」、「再構築する」、「表現する」、「創造する」の4つの段階がある』とされている。制度設計や設備の導入は、社員へのインプット、つまり「覚える」に対する手当てであっても、それ以降の一連の動きに展開をかけることは、やはり別の課題なのである。
近年、「再構築する」、「表現する」、「創造する」を包含する言葉として、「行動」ではなく「考動」という言葉が用いられることも多い。「考動」を高めるには、安全マネジメントで講じられる各種方策に加え、「現場力」あるいは「社員力」を高める方策が不可欠であり、これが安全マネジメント導入のポイントになると考える。「現場力」や「社員力」を高めることは、まさに「人」、「企業文化」を創造することである。
これを実践するには、社員の高いモチベーションや制度設計に加え、社員間の徹底した議論とそれを実現する組織風土づくりが求められよう。そして、医学、心理学など、幅広い分野を跨いだ対処策を総合的に実施していくことも重要である。
ヒューマンエラーに起因する事故を0にすることは不可能である。しかし、運輸安全に係る基盤整備や制度設計に目処が立ちつつある中、その理念に1歩でも近づきつづけていくためには、今後、「人づくり」、「企業文化」にウェイトを置いた継続的な取り組みが注目されるだろう。

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