先日、本四間輸送の大動脈を担ってきた宇野-高松フェリー航路のうち、国道フェリーが運航休止を発表した。また、東予-大阪航路が減便を表明した。これら2社が航路事業の縮小を決意した背景には、本四道路との競合激化がある。
平成19年度から高速道路ETC割引の対象となる車種や時間帯が急速に拡大するに連れ、フェリーの利用実績は大きく減少し、航路の減便、寄港廃止、航路廃止が相次いだ。平成20年以降、現在までに6つの航路が廃止や寄港廃止となっている。
これは、高速道路料金が割り引かれたことで本四道路の競争力が向上した結果であり、フェリー航路は役目を終えたという見方もある。
しかし、自動車専用道路がフェリー輸送の機能を完全には代替しない点はもっと注目されるべきである。本四道路は、徒歩、自転車、小型バイクでは通行できず、車両走行についても重量物等の走行が制限されるが、フェリーはこれらの輸送が可能である。フェリーは、対岸都市間の生活の足だけでなく、産業・物流インフラとしての役割を担っている。フェリー航路の喪失が続くと、本四間の交通・物流体系は、多くの迂回を強いるものとなり、また、利用者属性を限定する脆弱なものとなると考えられる。
また、多くの島嶼からなる海洋国・日本では、陸上輸送に過度に依存した物流体系は危険であり、海上輸送を使える状況にしておくことが極めて有効な危機管理になると考える。緊急時においても即応性、自己完結性、大量動員性を備えるフェリー輸送の有効性は、阪神・淡路大震災、東日本大震災で証明されている。とりわけ、南海・東南海地震などの大規模災害が想定される西日本地域には極めて重要なインフラである。
ところで、現在運航されている本州-四国・九州間のフェリーの殆どが公的補助に頼らぬ純民間事業として営まれている点は、市民にあまり知られていない。架橋当時、「本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法」(特措法)が定められ、一般旅客定期航路の再編成促進のための措置が講じられたが、航路存続の道を選択した事業者は特措法による補償等は受けていない。高速道路の料金割引に多額の税金が投入されていることを考えると、競争条件が平等とは言えないことに疑問がある。そもそも、道路と海上輸送とを競合関係ではなく、総合交通体系の中での補完関係として、そのあり方や経営を講じるべきである。
緊縮財政の中で、行政においても無理のある投資は難しい。今後、採算が厳しくても地域において必要と考えられる航路については、そのサービス水準や機能のあり方を吟味し、その上で、純民間事業だけではなく、官民のパートナーシップを視野に入れた持続可能なビジネスモデルへと転換する選択肢を検討することが求められる。例えば、バスや鉄道の経営手法は実に多様で、公設民営や運行委託など、さまざまな方法が存在する。こうした手法をフェリー経営にも適用できないだろうか。また、複数航路が連携してオペレーションの効率化を進めることや、地域の観光振興と一体となった需要創出など、時代に対応した新しいビジネスモデルを模索することも考えられよう。
国や地域においてもフェリー航路存続の意義についての認識はあるものの、再生の特効薬が無いまま、ネットワークが急速に縮小しているのが現在の状況である。過去に廃止となったフェリー航路が再開された例は瀬戸内には存在せず、一度、機能が喪失するとその回復は極めて困難である。地域が必要とする航路を維持・確保するための方策を講じることは喫緊の課題である。
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