スリランカ経済危機の背景~経済危機の根本原因はコロナショックではなく過去の経済運営にあり~

2022/10/13 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済
  • 北海道よりやや小さい国土に2,200万人の人口を有するインド洋の島国スリランカが、未曽有の経済危機に陥っている。スリランカでは、26年間続いた内戦が2009年に終結、国内情勢安定化を背景に経済成長が加速した。しかし、2020年には、コロナショックがスリランカ経済を襲い、外国人観光客の激減などにより、2020年の経済成長率は▲3.6%とマイナスに転落した。2022年には経済危機に見舞われ、暴動が発生、大統領が国外逃亡、首相が「国家破産」を宣言するという異常事態に陥ってしまった。
  • スリランカの経済危機の引き金となったのは外貨準備の減少であった。以前から続いていた慢性的な貿易赤字に加え、コロナショックによって観光収入が激減したことで、外貨準備流出が止まらなくなり、2022年3月に、中央銀行が通貨ルピーの変動相場制移行を発表、それ以降、急激なルピー安が進行し、輸入品価格上昇に拍車がかかった。一方、ガソリン・ディーゼル燃料の不足、火力発電用燃料不足による長時間にわたる計画停電などで、国民の政府に対する不満が爆発、上記の暴動につながった。
  • スリランカが上述のような経済危機に陥ったのは、コロナショックが契機ではあったものの、むしろ、以前からスリランカ経済に内包されていた弱点がコロナショックによって露呈したという側面があり、一過性の問題というよりも構造的な問題と捉えるべきであろう。スリランカ経済に内包されていた弱点とは、恒常的な財政赤字と経常赤字である。
  • 財政赤字の対GDP比率を見ると、スリランカは、アジア諸国の中でもかなり高く、財政状態の悪さが目立つ。これは、スリランカの今までの経済運営の根幹が社会主義的であったことに起因する。すなわち、国有企業を経済活動の中心に据えるなど、経済への国家の介入が大きかったため、財政支出過多となって財政赤字が慢性化していたのである。
  • スリランカ経済のもうひとつの弱点は、国際収支面の脆弱さである。スリランカの従来の経済運営は、福祉・分配重視の社会主義的な色彩が強く、東アジア諸国のような輸出産業育成策が欠如していた。これが災いして貿易収支は赤字続きとなり、経常赤字が慢性化していた。財政赤字・経常赤字体質を抱え、それをファイナンスするために対外借り入れに依存するというパターンに陥っていたところへ、コロナショックの直撃を受け外貨を確保できなくなったことが、今回の経済危機発生の構図であったと言えよう。
  • スリランカ経済の抱えるもうひとつの大きな問題としてクローズアップされているのが、対外債務の大きさである。特に、最近懸念されているのは、中国に対する債務の膨張である。中国からインフラ建設資金の融資をさかんに受け入れた結果、借金が膨らんで返済不能になり、インフラ施設や土地を中国に事実上取られてしまうといった事態も発生している。
  • スリランカは、IMFからの金融支援について事務レベルで合意に達したものの、対外債務の再編に関しては楽観できない状況である。一方、中長期的には、今般の経済危機を引き起こした主因である財政赤字・経常赤字体質の解消に取り組む必要がある。財政赤字削減のため、増税や歳出改革を含む痛みを伴う政策履行を求められるであろう。また、従来の経済運営方針を転換し、経済活動への国の介入を減らすとともに、外資導入による輸出振興を図るといった産業構造改革を進めることも必要となろう。

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