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政府の債務は返さなくてもよい

2015/01/28

◆国債は返済できるのか?

政府の債務残高が1000兆円を超えてしまっており、もはやこの膨大な借金を返済することは不可能ではないかと言われたりすることが多い。その疑問には、自信(?)を持って答えることができる。返済が不可能であるどころか、借金の残高を削減することすらできない。つまり、債務残高が今後も増え続けるのは確実である。

考えてみれば、それは驚くことでも何でもない。一般に借金残高を減らそうとすればフローの収支を黒字にする必要があるから、政府の債務残高を削減するためには、毎年の財政収支を黒字化させなければならない。しかし、それを実現するのはおよそ不可能である。

例えば2015年度の予算は、歳出総額が96.3兆円であるのに対し、税収と税外収入の合計は59.5兆円だ。差額の36.9兆円の赤字を国債の発行で埋める。この国債発行のうち10兆円余りは事実上の借換債なので(満期を迎えた国債を償還する財源。発行して償還に充てるから残高は不変)、国債残高(債務残高)は25兆円程度増えることになる。

したがって債務残高を減らそうとすれば、15年度の予算については25兆円以上収支を改善することが必要である。これを歳入の増加で賄うなら、54.5兆円(14年度比45兆円増)と見込まれる税収を80兆円程度に5割近く増加させる必要がある。歳出の削減だけで実現させようとすれば、72.9兆円の一般歳出(国債費以外の歳出総額)を48兆円程度にまで3分の1強も削減する必要がある。現実には、例えば税収を2割以上増やすとともに、歳出を10兆円以上カットするといったことになろうが、そんなことが実現するとは到底考えられない。

◆国債累増することの問題点

そもそも過去を振り返ってみても、日本の国債は返済されたことがない。満期を迎えた国債は確かに償還されるのだが、その償還原資は借換債の発行だ。満期債が借換債で置き換えられるだけで、国債の発行残高は減らない。借り換えるのに資金は不要だが、借換債では資金調達ができないので、新規債が発行される。結局その分だけ発行残高が増えることになる。これまで国債の発行残高は、一度も減少することなく増加し続けてきた。つまり実質的には返済されたことがないのだ。

しかし、だから問題だとまでは言えない。将来にわたって、ひたすら借り換えし続ければ、今後も返済しなくて済むから、誰の負担にもならない。国債の発行が必ずしも次の世代への負担つけ回しにはならないということだ。

もっとも、何の不都合もないかと言えば、そうはいかない。国債が償還されないまま増え続ければ、見合って利払い費も増加する。この利払い費は毎年の歳入で賄う必要がある。さらに言えば、利払い費を賄うために新たに国債を発行する必要がある。金利が急騰したりすれば、利払い費のための国債発行額が急増することにもなる。しかも市場が年間に消化できる国債の額には自ずから限度があるとすれば、膨らみ続ける利払い費のせいで、いずれ一般歳出が浸食されるという事態に陥る。必要な歳出が強制的に削減されてしまうわけだ。借金の利払いのために生活費が毎月毎月減り続けていくようなものであり、このことが問題なのだ。

◆プライマリーバランスを黒字化する意味

そんな悲惨な事態を回避するために「プライマリーバランスの黒字化」という目標がある。これは、「利払い費を含まない一般歳出」と「税収(および税外収入)」との収支のことだ。この収支をまずは均衡させることが第一段階だが、それが実現すれば、国債は利払い費を賄うためだけに発行すれば済むことになる。

もちろんその場合、国債の残高は利払い費の分だけ増加する。しかし借金は多いこと自体が問題なのではなく、年収(返済能力)と比べてどれくらいの負担になっているかが重要だ。その意味で、一国の財務の健全性は、「債務残高/GDP」という指標で測ることができる。

プライマリーバランスを均衡させると、債務残高は毎年利払い費の分だけ増加するが、その増加率は金利と一致する。その場合、GDPもそのペースで増加するのであれば、債務残高/GDPの比率が安定する。さらに、プライマリーバランスを黒字化すれば、利払い費の一部が税収で賄えることになって、その分だけ国債の発行額を削減することができる。つまり債務残高の増加率が金利より小さくなるから、GDPが金利並みのペースで拡大するなら、債務残高/GDP比率は縮小(改善)するわけだ。

◆欠かせない社会保障の改革

国と地方を合わせた「プライマリーバランスの赤字/GDP」の比率を、15年度に10年度(-6.6%)対比で半減させるとともに、20年度には黒字化するのが政府の目標だ。幸い、15年度の目標は達成される見込みだが、20年度の黒字化は容易ではない。

発行済みの国債の金利は平均2%程度なので、GDP成長率も少なくともその程度は維持していきたい。その上で、プライマリーバランスを着実に改善していく必要があるのだが、そのためには歳出の抑制が欠かせない。その鍵を握っているのが社会保障支出であることは言うまでもない。

今夏までには、20年度の目標を達成するためのロードマップが示されることになっているが、その中に「社会保障制度の抜本改革」が含まれているかどうかがポイントだ。目標達成ありきで甘々の成長率(税収)見通しなどが前提になったりしていないか、厳しくチェックする必要がある。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2015年1月15日より転載)

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