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円安頼みだけでは力不足

2019/01/30
五十嵐 敬喜

利用可能なマネーの量を増やすことが金融緩和の本質だが、わが国のマネーはある意味であり余っている。マネーは十分あるのに使われていないことこそが問題なのであり、異次元緩和が効果を生まない真因でもある。そのためか、今の金融緩和は結果として円安の進行に活路を求めていることは否定できない。

円安は貿易面でプラスだと思われがちだが本当か。円安は、円ベースで見た輸出入の金額を自動的に増加させるので、輸出産業には為替差益をもたらし、輸入産業には為替差損を生じさせる。ただこの差益や差損は、外貨建て貿易でのみ発生するものだ。日本の外貨建て貿易は毎年輸入超過が続いており、マクロの貿易面では円安はわが国に必然的に純差損をもたらす。

円安は輸出数量自体を増加させるではないかとの反論もあろう。しかし、実際に観察してみると、為替レートと輸出数量との間に有意な因果関係がみられないのがこれまでの経験だ。ここ数年の景気回復の原動力になった輸出数量の増加は、世界経済の回復がもたらしたものであって、円安が寄与したのではない。

もっとも、わが国の経常収支は黒字であるから、利子・配当等の収支も含めると円安が差引純差益をもたらしているのは確かだ。それは企業収益の総額を史上最高水準に押し上げた主因でもある。

しかし経済にとって重要なのは、そのお金(利益)が十分に使われることだ。企業が生み出す付加価値は、税金(政府)と賃金(家計)と収益(企業)に分配されるが、自動的に決まる税金を別にすれば、家計と企業の取り分の比率が適切でないことが「カネ余り」の一因ではないか。なにしろ足元の労働分配率は90年代以降で見ても最低水準だ。

(2019年1月9日日本経済新聞・夕刊 『十字路』より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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