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貿易問題から目が離せない2019年

2019/01/30
五十嵐 敬喜

変わり始めた世界の空模様

IMFによれば、世界経済の成長率は2016年の3.2%から17年に3.7%に加速したが、今年、来年も3.7%とその勢いを持続するという。背景には世界貿易の拡大がある。経済成長と貿易の拡大は、どちらが原因でどちらが結果かというよりも、両者が好循環を実現してきたということだろう。

世界貿易の拡大には、2大輸入国である米国と中国の存在が大きい。昨年の実績で見ても、米国は世界輸入の13%、中国は10%を占めており、この2国の輸入合計額は世界の輸入総額の約4分の1だ。米国と中国の景気が好調を維持し、結果として輸入額を着実に増やし続けてくれることが、世界の貿易の拡大と経済の成長に欠かせないことがよくわかる。

そう理解すれば、その米国と中国が、お互いの国からの輸入品に対して追加で高い関税を課すような振る舞いを続けるなら、世界貿易の拡大にブレーキがかかり、世界経済の成長が損なわれていくことは明らかだ。加えて、米国では、15年末から徐々に進めてきた利上げが経済成長の勢いを弱めつつあるようだし、中国は、過剰な生産能力と過剰な借金を減らす「バランスシート調整」を進めざるを得ないという、中期的に成長率を押し下げる課題に直面している。この「米国の利上げ」と「中国の経済的困難」という組み合わせは、中国からの「資本流出」を引き起こし、上海株価や人民元の下落にもつながっている。

IMFの予測数字だけを見れば、来年も世界の天気は快晴が続くと思ってしまいがちだが、現実には、晴れてはいても雲が広がりつつあると見るべきだろう。いきなり雨が降り出すようなことはないにせよ、来年は天気の変化には要注意という年になりそうだ。

世界経済の強い影響を受ける日本の景気

わが国の景気は、年明け後、おそらく「戦後最長」の回復・拡大を実現する。足元で景気後退に陥っていない限り、今月12月で、現在の記録ホルダーである「いざなみ景気」(2002年2月~08年2月の73カ月)に並び、来年1月にその記録を更新する見込みだからだ。

今回の景気回復は12年12月(安倍政権誕生と同じタイミング)に始まったのだが、14年4月の消費税率引き上げのショックを克服し、現在までの6年にわたって後退には陥らずに推移してきた。最大の原動力は輸出の増加だ。輸出の増加が国内生産を増加させ、景気を持ち上げてきた。日本の輸出が増加した理由は、以前にも指摘したが、為替市場で円安が進んだからではない。世界貿易が拡大したことが日本の輸出にも恩恵を及ぼしたのだ。少なくともここ数年、世界全体の輸出(貿易)が伸びるほどには日本の輸出は増えていない。つまり日本の輸出競争力は低下している。それでも、それなりに輸出が増えてきたことが景気回復を持続させてきたのだ。

それだけに、世界貿易の伸びが変調をきたすような事態になれば、景気後退に陥ってしまうかどうかはともかく、経済成長の主要な原動力が失われかねないのだ。(話は飛ぶが)今回の景気回復局面において日経平均株価は2倍以上に上昇したが、その間、株価収益倍率(株価/一株当たり予想収益)は上昇していない。つまり、企業収益の拡大が株価を押し上げてきたと言えるのだ。そうであれば、今後、増益が止まれば株価も上がらなくなる筋合いだ。世界貿易とわが国の株価には運命を共有しているようなところがある。

先が見えない米中の覇権争い

米国は中国に対して「怒りと怖れ」を抱いていると思われる。ペンス副大統領は10月に行った演説で、中国を厳しく批判した。いわく、中国の成長と発展を手助けすれば、中国で民主化、自由化が進むと考えていたが、全くの誤りだった。中国は、おかげで得た経済的利益を軍事力の増強に充て、米国の軍事的優位を脅かそうとしている。「中国製造2025」計画を通じて、世界の最先端産業を支配することを狙っている。そのために、中国に進出する米国企業に技術移転を強要したり、米国の技術を大規模に盗んだりして、民間技術を軍事技術に転用している。あるいはアジアやアフリカ諸国のインフラ建設に、返済不能な額の資金を提供し、最終的にはその成果を取り上げて軍事利用を図るといったことをやっている。宗教弾圧、人権侵害もひどい、等々だ。

中国にとっては「核心的利益」が脅かされるような物言いだから、聞き流せる話ではない。強く反発する。しかしペンスの演説は、当然、中国のそうした反応を読んだ上での「確信犯的」なものだから、まさに核心と確信のぶつかり合いだ。振り上げた拳の下しどころは全く見えないと言わざるを得ない。

この米中問題は、貿易不均衡が是正されれば解決するものではない。マクロ経済的に考えれば、その不均衡すら是正されることはありそうにない。まして、両国の衝突はもはや貿易摩擦のレベルを超えている。現実としての関税合戦が、漁夫の利を得る国はあるにせよ、ボディーブローのように世界貿易の重しになることは避けがたい。

日米の2国間貿易交渉が始まる

日本は、新年から米国との「2国間」の貿易交渉を始めることになっている。それはTAG(物品貿易協定)であって包括的なFTA(自由貿易協定)ではないと政府は言っているが、米国が物品だけの交渉に終わらせるつもりがないことは、11月に来日したペンス副大統領の当時の発言からも明らかだ。米国を、改めてTPPに取り込みたいと考える日本の意に反して、米国は2国間交渉で幅広く「アメリカ・ファースト」にかなう成果を獲得しようと考えているのだろう。「自動車への追加関税」や「為替条項」といった脅しが目の前にちらつくタフな交渉になりそうだ。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2018年12月14日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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