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円安が望ましいと言うけれど

2019/03/14
五十嵐 敬喜

為替の名目レートと実質レート

今、ドル円レートが1ドル=100円で、日本でハンバーガーが1個100円、米国では1ドルだとする。我々は100円持っていれば、米国に行っても日本にいるのと同様にハンバーガーが1個買えるわけだ。
次に、為替レートはそのままで、米国でハンバーガーが1ドル20セントに値上がりしたらどうなるか。100円では日本では1個買えても、米国では買えなくなる。つまり100円という円の価値が、それまでの価値を持たなくなる、低下するわけだ。これを、円の実質価値が下落したという。
例えば「1ドル=100円」のように、我々が普段目にするドル円レートは「名目」ドル円レートだ。これに対して、「実質」ドル円レートは、日米の物価上昇率の差を加味して、机上で算出される。上の例では、100円ではもはや米国でハンバーガーは買えないが、名目レートが1ドル=83.3円と円高に振れると、100円は1ドル20セントに交換できて、めでたく米国で再びハンバーガーが買えるようになる。つまり、米国で物価が上昇すると、もっと円高(1ドル=83.3円)にならないと円の元の購買力が維持できなくなる、1ドル=100円のままでは円の「実質価値」が落ちてしまうというわけだ。
もう少し一般化して言えば、2国間の為替レートにおいて、両国の物価上昇率に差が出ると、相対的に物価が上昇した国の通貨が、相対的に物価が下落した国の通貨に対して、「実質的に」強くなるのだ。

円の名目実効レートと実質実効レート

次に、1ドル=100円が1ドル=120円になった場合、それは円安なのかドル高なのかと問われても答えようがない。仮に、円とユーロ、円とスイスフランなど、ドル以外の通貨と円とのレートがほとんど変わらないのに、ドル円レートだけがそんな風に変化したのであれば、その変化はドル高であって、円安ではないと結論付けできるだろう。
そこで、円と様々な海外通貨との個別の為替レートを総合するという作業をして、導き出される指数を円の実効レートと呼ぶ。要するに、円対「海外通貨全体」との為替レート、円の総合的な強さを示す指標だということになる。
名目の円ドルレートや円ユーロレートなどを使って算出したものを円の名目実効レート、そこに日本の物価と「海外全体」の物価との上昇率の格差を加味して計算したものを円の実質実効レートという。ちなみに、その結果を、2000年1月を100とする指数で見ると、現在の円の実効レートは名目値で約92、実質値で約60になっている。見かけの円レートは、18年間で8%くらい下落(円安)しているが、物価の差を考慮すると円の実質価値は40%も下落(円安)しているというわけだ。
その意味は、これまでの説明で明らかなように、この期間中の海外の(累積)物価上昇率に比べて、日本の(累積)物価上昇率が著しく小さいということだ。その格差は1.53倍(=92/60)だ。つまり、日本の物価(消費者物価)が18年間で2.6%(年平均0.14%)上昇する一方で、海外の物価は57.0%(年平均2.5%)上昇しているのだ(1.57/1.026=1.53)。

実質円安のメリットは生かせたのか

さて、海外の物価上昇率は年平均2.5%だったのだが、では所得の増加率はどうであろうか。海外の経済が総じて2000年時点よりも豊かになっているのだとすれば、所得の増加率は、物価上昇率よりも大きかったはずだ。ということは、物価が57%上昇しているのだから、所得はもっと増えているはずだ。
その海外から日本を見ると、2000年当時と比較して、日本の物価はずいぶん安く、かつ買いやすくなったように見えるはずだ。つまり日本の輸出価格競争力は、この18年間で大幅に向上していることになる。日本では、為替は円安が望ましいと考えられている。それは、円安になると、海外から見て日本製品が安く(買いやすく)なるので、輸出が増えて景気がよくなるということだろう。それなら、その円安は、名目円安ではなく実質円安であることは、これまでの説明で明らかだろう。
この18年間、まさに望ましい事態が進展してきたことになる。では実際に、輸出は円安の追い風を受けて大幅に増加してきたのか。グラフは、輸出数量について、世界と日本を比較したものだ。

 

輸出数量指数の推移

2000年から足元までの期間で、世界の輸出数量が9割程度増加したのに対し、日本の輸出は1割程度にとどまっている。実質円安の恩恵が生かされていないのだ。円安は輸出企業に為替差益をもたらすが、本来目指すべきは輸出数量の増加だろう。「円安が望ましい」という世論が、見かけの売上げや収益が増えればよしとすることであるなら、寂しい限りだ。

 

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2019年2月15日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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