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返すべき借金と返さなくてもよい借金

2019/04/12
五十嵐 敬喜

収入以上の支出を可能にする借金

ひと月なり一年なりの期間を通じて、収入より支出の方が多い家計があったとしよう。さて、この家計はどうしないといけないか。しかも、収入には貯蓄の取り崩しも含まれているとすればどうか。そうなると、この家計は不足分をとにかく借金するしかあるまい。
ただし普通は、そうした状況はいつまでも続けられない。身の丈(例えば年収)に見合わない借金は、お金を貸す人たちが、借り手の返済能力に疑念を抱き、どこかの段階でそれ以上貸すのを控えるからだ。また、借金を返済する過程も苦しい。借金の残高を減らそうとすれば、支出を収入以下に抑えて、余った分を返済に振り向けなければならないからだ。借金をしながら収入以上の支出をしていた状況から、返済のために、収入以下の支出しかできない状況に変わるわけで、その落差は大きい。
しかし、たとえばそれが子の家計であって、足りない分を親が継続的に援助してくれるとすればどうだろうか。「将来、余裕ができたときに返してくれればいいよ」と鷹揚な態度を示してくれる親を持っているなら、子の家計は、ずっと「支出超過」の生活を続けるかもしれない。 なぜそのような支出行動が続けられるのか。それは、このケースでは、借金は「返さなくてもよい」からだ。返さなくてよいなら、借金という収入も安心して支出に回せる。収入以上の支出をする生活が可能になる。親が返済を期待していない資金援助であっても、本来は子にとっては借金であるはずだ。 しかし子には返済する意思がなく、親もそれを認めて援助を続けている場合には、子は親の援助なしでは実現できない支出行動を改めないだろう。子にとっては、自らの収入も、親からの援助も、どちらも「使えるお金」という意味で違いはないからだ。

米国はなぜ対外赤字を抱えているのか

トランプ大統領が嫌っている貿易赤字は、米国が、「国内で作っている以上に消費(購入)している」ことの結果として起こっている現象だ。年間で8800億ドルに上る貿易赤字のうち、対中国で計上している赤字が半分近くある。だから「中国はケシ力ラン」ということになるのだろうが、仮に中国からの輸入を止めても、米国が今の消費行動を続ける限り、貿易赤字総額はほとんど減らないだろう。それが経済学から得られる結論だ。
他方で米国は、海外に持っている資産から膨大な利子や配当を得ている。もちろん、海外に利子や配当を支払ってもいるが、差し引きすると大幅な受け取り超過である。この黒字と貿易収支の赤字を合計すると、年間で4700億ドルほどの赤字になる。これが経常収支だ。
米国の経常収支が赤字だということは、「米国全体」で「収入以上の支出をしている」ことを意味する。 米国全体とは、米国の政府と家計と企業を合わせたものだ。収入には貯蓄の取り崩しも含める。したがって、収入不足の米国は、「経常収支が赤字になっている分だけ海外から借金する」必要があるのだ。
その借金とは、例えば米国企業が発行する社債や株式、あるいは米国政府が発行する米国債等を海外の投資家に買ってもらうことを意味する。では海外の投資家たちは、なぜ米国の社債や株式、あるいは米国債を買うのだろうか。強制されて買っているわけでないことは確かだ。様々な理由はあるだろうが、自発的に投資しているのである。そして、こうしたお金が年間に4700億ドルも米国に入ってくるから、米国の政府と家計と企業は、その分だけ収入よりも多い支出をすることができているのだ。

米国の対外赤字は問題ない

米国の経常収支が赤字であることが間題だとか、その背後にあるもっと額の大きな貿易赤字が問題だと考える人は、米国が借金をし続けることが、米国の経済状態を悪化させたり、米国を実質的に貧しくしていったりするという印象を抱いているのかもしれない。
しかし、それは正しくない。米国には海外から自由意思の投資という形で、常時お金が入ってきているから、その分だけ収入以上の支出ができているのだ。 結果として借金の残高が積み上がっていくのは事実だが、米国はそれを返済する(=残高を減らす)つもりはないし、海外の投資家たちも返してもらおうとは思っていない。現金化したくなった投資家は、手持ちの資産を誰かに売ればよいわけで、米国の企業や政府に「返してくれ」と言う必要はないのだ。
また、米国に入ってくるお金が少なくなれば、収入以上に使えるお金が減るだけのことだ。つまり、米国経済が元気であれば、海外の投資家たちは安心して米国に投資するから、使えるお金が増える米国は益々元気になるとも言えるのだ。
それもこれも、米国が積み上げている借金(対外負債)は、「返す必要がない借金」だという点がポイントだ。返さなくてよい借金は、使ってしまってもよいお金だ。逆に対外赤字を減らそうとすれば、収入よりも支出を少なくしなければならない。経済には強烈なブレーキが働くことになるのだ。

日本の国債は「返さなくてよい借金」なのか

ちなみに、そうした文脈で日本の国債問題を考えてみるどうだろうか。国債は返さなくてよい借金だというなら、それが積み上がっていくことは何ら問題ないと言える。また、現実の問題としても、返済することは不可能だ。なぜなら、財政収支を黒字にしない限り、返済(残高の減少)することにはならないからだ。それは歳出よりも税収の方が大きくなるということだ。100パーセントあり得ない想定だ。
そうなると、1000兆円に及ぶ国債は、まずは「返せない借金」だと言うことができる。次に、それが同時に、「返さなくてよい借金」でもあるのならよいが、投資家たちから「返してほしいと思われる借金」であるなら困ったことになる。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2019年3月15日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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