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いつまで続く円高恐怖症

2019/06/20
五十嵐 敬喜

円相場の変動に伴う為替差益と差損は、1ドル当たりで見れば同じだ。それでも円安が好まれるのは、円安の差損の一部は家計も負担するが、差益は全額が企業部門に入り企業収益の総額は円安の方が大きくなるからだろう。

大局的に見ると、わが国では輸出数量が増えると生産数量も増え、景気が上向く。この面からも輸出の価格競争力が上がる円安は望ましいと考えられている。円高はその逆だから、円高が進むと景気対策が考慮されるのが常だ。

2000年から現在までの20年弱の期間を振り返ると、その間に海外では物価が約1.6倍になったが、所得はもっと増えたはずだ(実質的に豊かになった)。対する日本では物価も所得もほとんど変わっていないのが実態だ。その結果、海外の人たちにとって日本のモノやサービスは年々買いやすくなってきている。換言すれば、日本の輸出価格競争力は、過去20年間に飛躍的に高まってきたはずだ。

実際、この間に円レートは実質的に4割も下落した。だが日本の輸出は劣勢だ。足元の世界の輸出数量がリーマン・ショック前のピークを2割強上回っているのに、日本はそのピークに戻ったにすぎない。ドル円相場と輸出数量の中長期的な関係をみても、円安が進めば輸出が増えるとは言えないのが事実だ。

極論に聞こえるかもしれないが、円安が景気をよくするというのは幻想だ。企業収益の総額が増えても、それが企業部門にとどまって還元されず、事業拡大にも生かされなければ、景気はよくならない。「米国との貿易協定に為替条項が加われば金融政策が縛られる」と恐れるのも、今の緩和政策には円安を望む隠れた意図があるからだろう。円安最優先の経済政策にいつまでも拘泥していては、日本経済は真に強くはなれない。

(2019年6月7日日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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