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今度こそ消費税が上がる

2019/08/08
五十嵐 敬喜

4年遅れの2%の引き上げ

また先送りされるのではないかという見方もあった消費税率の引き上げは、結局、10月1日に実施されることになった。増税されて喜ぶ人はまずいないだろうから、世論調査をすれば、もちろん反対の声の方が大きい。他方で、嬉しくはないが必要だと考えている人も少なくない。
周知のように、今回実施される予定の8%から10%への引き上げは、一言で言えば「景気への悪影響が心配だから」という理由で2度、先送りされてきた経緯がある。1度目は2015年10月に予定されていたものが17年4月までの1年半の先送り、2度目は17年4月が今年10月までの2年半の先送りだ。後講釈ではあるが、その後の景気の推移を考えれば、17年4月は引き上げにはいいタイミングだったと言える。むしろ今回の方が、景気の先行きが不透明な中で引き上げるという意味では、タイミングが悪かったと事後に言われるかもしれない。
ただ、消費増税は、事前に余裕をもって周知させる必要があるだけに、景気循環的にベストのタイミングを狙うことには無理がある。ある意味、やるのなら淡々と実行すべきだと思う。安倍首相は先日、テレビの討論会で、「(消費税は)今後10年くらいは(10%以上に)上げる必要はない」と発言したが、聞いていて、この国で消費税率を引き上げることの政治的な困難さがよくわかった気がした。

景気には逆風の消費税

消費税率の引き上げに反対するにせよ、賛成するにせよ、自分の頭でよく考えて判断することが大事だと思う。「注射は痛いから嫌だ」と言うのは子供。痛くても必要だと思えば受けるべきだし、不必要だ、むしろ害になると思うならノーと言えばよい。
私は必要だと考えているが、以下、いくつかの論点について私の見方を述べてみたい。 まず、消費税率を引き上げると景気が悪くなるという指摘がある。その通りだ。消費税は消費者が負担する税金だから、増税分が価格に転嫁されて物価が上昇する。単純に言えば、2%の増税で消費者物価も2%上昇する。他方で、家計所得の増加率は2%には全然届いていないから、実質的に所得が減ってしまうのだ。
これで実質消費も減少するが、問題は、そのことがその後の所得の伸びにも影響しかねないことだ。つまり消費税率引き上げの直接の悪影響は、前年比でものを考えるなら、1年で終わる。来年10月以降の消費税率も同じ10%だからだ。しかし目先の実質消費が減ることで、所得の増加率が下押しされると(増税がなければ1%だったものが0になるなど)、悪循環が始まって景気の悪化が1年ではすまなくなる恐れが出てくる。消費増税に反対する人たちの一番の心配はこの点だろう。
これを防ぐために2兆円超の景気対策が打たれるようだが、悪影響の発現を先送りするだけで、なくすことはできない。また毎年0.25%~0.5%ずつといった小刻みの引き上げを繰り返すという手もあるが、悪影響を小口分散できるだけで、やはりなくすことはできない。結局、悪影響があるならやらないのか、悪影響があってもやるのか、という選択だ。そして私は、やるのであれば、悪影響を先送りするようなやり方ではなく、それを分散するやり方をとるのが望ましいのではないかと考える。もっとも、今回のやり方はすでに決まっているので、次回以降の引き上げの際にどうするかという問題ではあるが。

超党派で税体系の長期設計を

消費増税の使い道を、有権者の関心が高い社会保障費に充当するという説明は、あまり意味がない。目的税ではないので、税収に色は付いていないからだ。いずれにしろ日本の税収総額は不足していて、赤字国債を発行して穴埋めしているのだから、消費税の増収分の使い道を、社会保障費だと言っても、国防費だと言っても、赤字国債の削減だと言っても、その実態に違いが生じるわけではない。 日本の財政は、債務残高が優に1千兆円を超え、そのGDP比率が主要国で唯一200%を超えるなど、極めて深刻だと言われている。この膨大な債務は、もちろん毎年の財政赤字が積もり積もったものだ。その赤字の原因は、歳出規模が大きすぎたことか、歳入が少なすぎたことか、どちらなのか。答えは、日本は主要国と比較すると、「経済規模の割に歳入(税収)が少なすぎる」ことなのだ。
米英仏などと比較すると、中でも目立って少ないのが所得税収だ。その主因は税率の低さであって、例えば納税者のうち限界税率が10%以下の人の割合を見ると、米国が25%程度で、英国は1%以下、フランスはゼロという中で、日本は8割を超えている。さらに、日本には限界税率が10%どころか5%の人たちが6割近くいるが、米英仏ではゼロだ。長年にわたって減税を繰り返してきた結果、所得税率が極めて低くなっているうえに、そもそも所得水準自体が低いという、より深刻な問題があるのだ。
したがって、単純に低中所得層の所得税率を引き上げるべきだとは言えないし、とりわけ政治的にはありえない選択だろう。消費税率の引き上げは、そうした状況下で、できるだけ安定的な税収を確保するための方策であるわけだ。さらに、将来的には、増税すれば景気への悪影響が避けられない所得税、消費税、法人税への依存度を下げ、資産への課税を強化する流れも避けがたいだろう。とくに相続税は、「最後まで使わなかった資産」に対する課税だから、増税しても景気を悪化させない税金である。課税ベースをもっと広げる形で安定財源にするという議論が、将来的には出てくるだろう。
いずれにしろ、税は体系立てて設計すべきもので、消費税率をどうするかという問題も、個別に考えるのではなく、歳出を含めた財政全体の中で考える必要がある。ということは、超党派で取り組むべき課題であって、今のように選挙の争点にしたり、政争の具に用いたりすべきでないのは明らかだ。
経済が成長すれば税収が増え、財政健全化も実現するのだから、成長を邪魔する消費税率の引き上げはすべきでないという「もっともな」主張がある。しかし、日本経済の現実は、「増税→景気悪化」とは言えても、「増税回避→経済成長」とはならない。増税しても経済成長が持続する力を身に付けることが必要なのであって、増税を回避してもその力は決して付かない。消費増税への反対論が、「今がよければそれでいい」という主張でないことを願う。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2019年7月11日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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