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自国通貨でも債務は債務

2019/08/28
五十嵐 敬喜

赤字国債を発行して歳出を賄うと、国のバランスシートではその分だけ債務超過額が増える。借金で手に入れたお金を使ってしまって残らないからだ。今やその額は570兆円にも上っているが、だからと言って日本の財政がすぐにも破綻するわけではない。

企業もそうだが国の財政も、資金繰り(国債の発行・消化)が可能である限り破綻したりはしない。最近よく見聞きする「現代貨幣理論(MMT)」では「自国通貨建ての債務はいくらでも可能だ」とすら言っているほどだ。

ただよく考えると、国の債務とはいえ本来は国民の債務だ。国の財政が債務超過であっても大丈夫なのは、最後は国民が納税という形でその債務を負担する、国家には国民にそれを強制する権限がある、と考えられているからだ。

しかし現実の問題として、消費税率を2%引き上げて6兆円規模の増税を図るだけでも抵抗は大きい。しかも世論では「増税分のすべてを債務の返済に充てることなどは論外だ」という意見が圧倒的多数を占めるだろう。

今後、高齢化がいっそう進むわが国では、債務超過額はさらに拡大する可能性が高い。抵抗が大きい増税や歳出削減でそれを食い止めようとしても、実現不可能だという他ない。その現実を多くの人々が自覚したとき「自国通貨建ての債務に限界はない」とか「財政の資金繰りに問題はない」と言い続けられるだろうか。

MMTは「歳出拡大の結果、自国通貨の発行が増大してもインフレにはならない」と主張する。ある意味では正しい。しかし物価とは本来、人々が自国通貨を信用できなくなったときに歯止めなく上昇するものだ。通貨に対する人々の信頼の根源が国(の財政状況)に対する信頼であることは言うまでもないだろう。

(2019年8月6日日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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