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円高が進む? 政策対応は?

2019/10/04
五十嵐 敬喜

◆修正を余儀なくされるFRBの楽観論
今月、米国でさらに利下げがありそうだ。7月末に小幅(0.25%)の利下げが行われたのは周知の通りだが、FRB(米連邦準備制度理事会)はその際、これは金利の正常化(利上げ)局面の終わりを意味しないとコメントした。つまり彼らが目指している金利水準は、まだもう少し上だということだったのだ。
ところがその直後に、トランプ大統領が追加の対中国制裁関税の引き上げ方針を発表した。一連の対中制裁策の「第4弾」に相当する措置だ。対象となる輸入は、金額にして3000億ドル弱。これが実現すると、中国からのほぼすべての輸入に追加関税が課されることになるというものだ。
FRBにとっては、まさに予想外のことだったろう。当然、景気の先行き見通しを大きく下方修正せざるを得なくなったと思われる。修正後の見通しの下では、これまで堅調に推移してきている米国経済も、製造業の業績悪化が先行する形で減速・悪化するのは避けがたい。その結果、7月末の利下げは、「利上げの一休み」ではなく「利下げの始まり」となってしまう公算が大きい。今や市場が、今月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)で確実に追加の利下げが決定されると見込んでいる所以だ。

◆今後は円高が進む?
経済規模の合計で世界の4分の1を占める米中2大国の景気が下を向くと、世界経済に及ぼす影響も半端ない。来年の世界経済は、今年よりも明らかに悪化するだろう。海外経済に依存するところ大の日本経済も成長率の低下は避けがたい。そんな中で、為替相場はどうなるだろうか。
最近は、世界規模でリスクが高まったりすると「リスク回避の円高」と言われる現象が起こることが多い。メカニズムは、金利の低い円を借りて、それを別の通貨に交換して運用している投資家たちが、リスク回避のためにその逆の取引をする(取引を清算する)ということだ。ただ今後、米中経済の減速が世界経済のブレーキになっていくような局面では、ドルが下落し、その結果として円高になるという力も働きそうだ。
対中制裁が「第4弾」まで進んでしまうと、米国自身も大きな打撃を受ける可能性が高い。設備投資の減少、企業収益の悪化、株価の下落、雇用のピークアウト、上昇する輸入価格の国内転嫁、等々を通じて景気の頭が抑えられる。これはFRBがさらに利下げをしても防げるものではない。金利が高くて景気が悪化するわけではないからだ。焦るトランプ大統領が口先介入を連発して、ドル安を実現させようとする可能性もある。1ドル=100円を割り込むような局面も十分予想できると言えよう。

◆円高を恐れる日本、財政出動は必至
日本では、円高は悪者だ。政府も日銀も、産業界の大勢も、そして多くのエコノミストですら、円高になると景気が悪化する、円安なら経済が成長すると考えている。主な理由は、円安になると輸出数量が増え、国内生産が増え、雇用も増えるという循環が機能すると想定していることだろう。さらに、海外から受け取る外貨に為替差益が発生するので、所得が増えて景気が押し上げられるというメカニズムにも期待しているのだろう。
しかし今の日本経済の実態は、円安が進むと輸出数量が増えるという関係は観測されないし、計算上得られている為替差益が国内で使われて、景気を浮揚させているとも考えにくい。唯一はっきりしているのは、円安が進むと、輸入サイドの為替差損の一部は家計が負担する一方、輸出サイドの為替差益はすべて企業部門に落ちることによって、企業収益だけに注目すれば、円安はマクロで見て増益をもたらすということだ。ただ、だから円安になれば景気がよくなるとは言えない。
閑話休題。とはいえ、仮に1ドル=100円に迫ったり、超えたりするような円高になれば、政府も日銀も何もしないわけにはいくまい。最も手っ取り早いのは、財政出動だ。財政赤字を拡大する形で歳出を増やしても、増発される国債はすべて日銀が実質的に引き受けることになるから、国債が値崩れするとか、金利が急騰するといった事態にはならない。それどころか、多少とも長期金利が上昇するなら、その方が望ましいという声が出てくるかもしれない。いずれにしろ、大きな反対もなく補正予算が組まれるに違いない。

◆日銀にできることは残っていない
日銀はどうするか。いくつかある追加金融緩和策の中で、一番可能性が高いのが「短期金利の深掘り」だと言われている。景気を浮揚させるための金融緩和政策が目指すのは、「お金を借りやすくする」ことだ。借りたお金は必ず使われるし、そのお金がさらに世の中を回って景気がよくなるという図式だ。
問題は、今の日本経済で、すでにマイナスに沈んでいる短期の政策金利を、さらに引き下げたら皆が借り入れを増やすのか、という点だ。そもそもお金の貸し手(金融機関)が貸出金利を引き下げられるのかという問題もある。
「異次元の金融緩和」は、机上の空論と言ってしまうと失礼だが、世間の常識はとうに超えている。お金を借りて商売しても全く儲からない(収益ゼロ)が、借りたら金利が貰える(マイナス金利)のなら借りようか、というのがマイナス金利の意味だとすれば、効果が出るマイナス金利の水準に到達するには、何百、何千メートルも深掘りする覚悟が必要だろう。いや、その前に地熱(副作用)でやられてしまうのがおちだ。今後、仮に円高が進むなら、追加金融緩和をしても止められない可能性が高い。それでも何もしないわけにはいかない日銀は気の毒だと思う。やっているふりをするしかあるまい。
マクロで見ればということだが、今後円高が進んでも、そのせいで景気が悪化することにはなるまい。それよりも、米中2大国の景気悪化が世界景気を押し下げることの方が心配だ。そうなったときに、結局、打たれる対策が財政出動ということなのだ。金利を下げてもお金を借りようとしない人たちに、じゃあタダで上げようという政策だ。所詮、痛み止めなので経済を強くする政策ではないのが悲しい。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2019年9月13日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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