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借金とインフレを巡る誤解

2019/10/04
五十嵐 敬喜

日本が抱える巨額の財政赤字について、多くの人々が誤解していることがある。物価が例えば2倍になれば、借金の返済負担は実質的に半減する。だから1千兆円を超える国の借金も「いずれハイパーインフレが起こって強制的に実質削減される日が来る」と信じている人が多いのだ。

財政赤字が膨らむとインフレになるのか。財政支出が拡大する結果、マクロで需給が逼迫して物価が上がることはありうる。しかし、その種の物価上昇は景気の悪化にもつながるので、物価が何割も上昇するようなハイパーインフレには至らないだろう。

日本でハイパーインフレが起こるとすれば、円の暴落が原因になる可能性が高い。財政の健全化を巡って、日本にはその意思と能力が全くないと市場が見切りをつけ、円を売り浴びせてくるような事態だ。1ドル=100円の相場が200円、300円になれば、すべての輸入品の価格が2倍、3倍になりハイパーインフレが引き起こされる。

しかし、そこから先に誤解がある。物価が2倍になったら、我々の所得は倍増するどころか逆に激減してしまう。円安で海外への支払いが増えた分は、すべて国内で企業や家計が負担せざるをえないからだ。借金の実質返済負担はインフレで急増するのだ。

円の価値が半分になったら、日本製品が大幅に安くなって輸出が増えるか。残念。今や日本の輸出の大部分は、半値にしたら2倍売れるような低付加価値製品ではない。

為替差益が膨らみ円安のデメリットを吹き飛ばせるか。輸入サイドで為替差損が急増している局面で、為替差益を得た輸出サイドの企業がそれをすべて国内に還元するはずがない。円の暴落やハイパーインフレを引き起こせば、日本の財政は取り返しのつかない状況に陥ってしまうのだ。

(2019年9月17日日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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