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消費税は消費者税なのか

2019/11/15
五十嵐 敬喜

◆消費税で大盛り上がり?
消費税率が引き上げられた。報道ぶりも熱い。何が8%で何が10%かについて、買い手と売り手の双方で理解不足による混乱が生じているようだ。キャッシュレスでの購入に対するポイント還元についても、よくわからないという声は多い。
混乱の一因は、国民の間に「また先送りされるのではないか」という懸念(期待?)があったこと。逆に言えば、政府が実施の最終決断を下すのが遅かったために、明らかに準備不足なのだろう。ただ、軽減税率の仕組みについては、この段階で導入するのが適当なのかどうかは別にして、我々としては慣れていくしかないと思う。
テレビの報道で見たのだが、10月1日を期して数千にも及ぶ商品の値札を張り替えるのに大変な思いをしている小売店を取り上げていたが、普段から税抜きの価格を表示していればそんな苦労はないのにという感想を持った。消費税が、消費者に負担させる税なのであれば、税額がいくらなのかがはっきりわかる表示が望ましい。その意味では、本来は外税方式であるべきだろう。

◆消費税の実態は売上税?
国税庁のホームページを見ると、「消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、消費者が負担し事業者が納付します」と書いてある。しかし、消費税法を読むと、「課税資産の譲渡等(取引のこと)をした事業者は消費税を納めなければならない。ただし、仕入・経費で負担した消費税は控除できる」ということが書いてあるだけで、消費者が負担する間接税だとは書かれていない。その意味では、消費税は「税額控除付きの売上税」だと言ってもいいと思う。
印紙税やたばこ税などは金額も決まっていて、間接税であるとの理解は容易だ。しかし消費税となると、売上税とどう違うのかと問われても答えにくい。例えば、税率が5%の下で、105円で売られている商品があって、消費税率が10%に上がったとする。売り手が「増税分還元セール」と銘打って、引き続きこの商品を105円で販売すると、売り手は、10.5円(=105円×10%)から控除すべき税額を差し引いた額を納税する。一方、買い手は、増税分を払わずに済んだ(消費税率は5%のまま)と理解するだろう。この取引が行われることによって、増税の負担は売り手に生じるが、買い手には何の変化もない。しかも買い手は消費税の増税分を脱税したといった非難を受けるわけでもない。起こることは、「売上税が5%から10%に引き上げられた際に、売り手がそのコスト増加分を売り値に転嫁しなかった」場合と同じだ。
あるいは、消費税が滞納されることがあったとすれば、税を徴求されるのは事業者であって消費者ではない。改めて徴求された税額分を事業者が消費者に後から請求することもない。消費税は、消費者が納税を義務付けられた「消費者税」ではなく、事業者に課された「売上税」に限りなく近いのではないか。もちろん、仕入にかかる税額は納税額から控除されるという条件付きではあるが。

◆騒ぎすぎの消費増税
消費税が実態的に売上税であることは、消費税の納税義務者から小規模事業者(課税対象売上高が年間1,000万円以下)が除かれていることからも窺える。売上にかかる消費税額から仕入にかかる消費税額を控除した額が事業者の納税額だが、小規模事業者にはそれが計算できないとは言えまい。消費税額は事業者にとってはコストの一部で、小規模事業者はそのコスト(とく上昇分)を価格に転嫁するのが難しく、往々にして利益を減らしがちなので、それを救済するためだと説明された方が理解しやすい。
消費税は売上税だと考えると何が変わるか。事業者に課される税金は、事業者のコストの一部だ。事業者にとってのコストは常に変化しうるものである。あるコストが増加したからといって、増加分を100%売り値に転嫁する(できる)とは限らない。コストが上昇しなくても売り値を引き上げることだってあるだろう。売上税(消費税)の増税は、そうしたコストの一部が増加したものだと考えることができる。
したがって10月1日に税率が引き上げられたからといって、同じ日に価格を引き上げる必要はない。コストの上昇を価格転嫁するのだから、しかも事前に日程までわかっているのだから、各事業者が適当だと考えるタイミングで価格を引き上げればよいし、引き上げない選択肢を選んでもよいことになる。
メディアも、消費税が上がる、上がると大騒ぎする必要もない。例えば円安だって、消費者にとっては消費者物価の上昇要因だ。しかし政府も日銀も、円安の結果として消費者物価が上昇することはデフレ脱却にとって望ましいと考えている。消費税(売上税)の増税分が価格転嫁されることは経済に悪影響を及ぼすが、円安の結果として実質所得が海外に流出して国内物価が上昇することは望ましいと考えるのは矛盾していないか。

◆認識は変えられるか?
消費税と呼ぶにしろ、売上税と呼ぶにしろ、広く国民がまんべんなく負担するような税の比率を今後も高めていくことは必要だと思う。ただ、「消費税」という名前で増税すると、我々は必要以上にナーバスになって、財布の紐を締めてしまいがちだ。せめて毎年1%ずつとか(半年に0.5%ずつでもよい)、さりげなく緩やかに税率を引き上げて、いちいち大騒ぎしなくて済むようにすべきではないか。
どうしても消費税と言いたいなら、すべての事業者にインボイスの作成を義務付け、店頭価格は外税方式に一本化すべきだろう。我々自身が担税者であり、その額はいくらなのかをはっきりさせるためだ。
実際には事業者に負担を強いておきながら、消費税という名前で必要以上に消費者を委縮させるような今のやり方で、いっそうの増税を継続するのは難しいと思う。イベントのように一斉に物価の上昇を促すのではなく、価格設定は全面的に事業者に任せるべきではないか。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2019年10月10日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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