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米中のバトルは30年戦争

2019/12/13
五十嵐 敬喜

◆日米の株価を押し上げた楽観論
日米の株価が史上最高値水準にある。11月12日の日経平均株価は、昨年10月以来1年1カ月ぶりの水準をつけた(終値で23,500円台)。市場関係者の説明によれば、為替相場が円安傾向で推移している上に、米国の株式市場が堅調であることを反映しているようだ。では、このところの米株価の上昇の原動力は何か。米国の景気がなお堅調さを維持していることは株価の追い風ではあるが、11月に入ってからの追加的な上昇の説明にはならないだろう。やはり、10月末の今年3回目の利下げに加え、何より中国とのバトルに緩和の兆しが窺えるという期待が背景にあると思われる。

実際、中国は今月7日に、「米中が発動済みの追加関税」を段階的に撤廃する方向で両政府が一致したという声明を出して、市場を喜ばせた。とはいえ翌8日には、トランプ大統領は、「中国は関税の取り下げを求めているが、私は何も合意していない」「関税撤廃では一致していない」と発言している。いったい真相はどうなのか。

市場から見ると、米中の衝突が深刻化することは株価の下落要因である。米中双方の経済に打撃だし、企業収益を減少させることにもなるのだから当然だ。世界貿易の伸びも低下するから、株価下落は米中だけでは済まない。為替相場については、普通に考えれば、ドルにとっても人民元にとっても下落要因になるのだろう。さらに、これは世界規模でリスクが高まり、先行き不透明感が増す話なので、円高が進みやすいとも言える。この点で捕捉すると、まず、市場規模が大きくて金利が極端に低い円は、投資のための調達資金に使われやすい。投資家は借りた円を外貨に両替して投資するのだが、グローバルでリスクが高まると、とりあえずそうした投資は控えようとする。具体的には投資を現金化した上で、円建ての借り入れを返済するのだ。このときの外貨を円に戻す動きが円高をもたらすことになる。しかも、そうしたメカニズムがあると考える投資家が増えれば、「リスクの高まり→円買い」の動きは、そもそもリスク回避を必要としていない投資家までが参加して勢いを増し、実際に円高が実現してしまうのだ。

閑話休題。したがって、米中のバトルが緩和し、方向として終息に向かうという期待が高まるなら、リスクの高まりとは逆の動きである株価の上昇や円安が進むというわけだ。先に紹介した中国のコメントや、それを否定するトランプの発言があったのだが、市場は楽観論に傾いたということだろう。

◆トランプ vs. 対中警戒派
実際のところはどうなのか。私は、米中の衝突に関する楽観論と悲観論は、まさに波のように繰り返しながら、しかしレベルとしては深刻な状況が長く続くのではないかと考える。つまり足元の楽観論は長続きしないだろうということだ。

中国に圧力をかける米国は一枚岩ではない、と思う。来年の選挙のことで頭が一杯のトランプ大統領と、ペンス副大統領に代表されるような「対中国警戒派」のグループに分けて考えると理解しやすい。トランプ大統領が欲しいのは票だから、国民の関心が高い中国やメキシコに対する巨額貿易赤字の是正とか、米国の農産物の輸出拡大といったことが最優先だ。大統領は、ディールが得意という強みを生かして、脅しの武器をちらつかせたり、あるいは実際に使用したりして、相手から最大限の譲歩を引き出そうとしているのだ。株価を押し上げたり、その背後にある景気を持ち上げたりすべく、できることは何でもするスタンスだ。FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長に強烈な圧力をかけて、大幅な利下げを迫っているのもその一環だ。逆に言えば、中国を叩きのめすつもりはなくて、大きな見返りさえ手にできるなら、そして再選が実現できるなら、中国に対する制裁を大幅に緩和したり、やめたりすることにも躊躇しないだろう。

しかし「警戒派」は違う。極論すれば時間的視野が1年しかないトランプ大統領とは違って、少なくとも30年先(建国100周年)を見据えて国力の強化を目指している中国の指導者たちと同様、目先の損得でものを考えたりはしていない。すでに米国の「戦略的かつ経済的なライバル」(ペンス副大統領)である中国がいっそう力をつけ、米国の覇権に挑戦し、凌駕しかねない将来を秘かに不安に思っているのではないか。今ならまだ間に合う、中国の成長を米国がコントロールすることも可能だと考えているのではないか。

ペンス副大統領は昨年10月と今年10月の演説で、中国政府が行っている①債務外交、②軍拡主義、③信仰抑圧、④監視国家の建設、⑤為替操作、⑥自由と公正さに反する貿易政策、⑦(外国企業に対する)技術移転の強制、⑧産業への補助金、等々の「米国の国益と価値観に最も有害な政策」を挙げて、中国は一向にそれを改めようとしてこなかったし、歴代の米政権もそれを放置してきたと非難している。言い方としては、トランプ政権は「米中関係をより公正で安定した建設的な針路に定める」ため、「大胆かつ断固とした行動」としてやむなく経済制裁に踏み切ったとしているが、「核心的利益」は、断固として譲らない中国に深刻な打撃を与えて、今ならまだその台頭を抑え込めると考えているのではないか。

◆終わりが見えない米中のバトル
予想できることは、トランプ大統領は、ディールに役立ちそうな武器は決して手放さないということだ。今の有効かつ最大の武器は「追加関税」だ。12月15日以降、中国からのほぼすべての輸入品に追加関税を課すという武器は、中国の譲歩次第で時期を先送りすることはあっても、手放すとは考えられない(この点では、日本が輸出する乗用車に25%の追加関税を課すという武器も、常にそれをちらつかせながら日本から譲歩を引き出す手段として、米国は持ち続けるに違いない)。

また、同時に予想できることは、仮にトランプ大統領が再選に失敗するようなことになっても、中国に対する「制裁」(米国から見れば制裁だが、中国にとっては理不尽極まりないもの)は続くに違いない。「警戒派」は超党派のグループだからだし、その時間的視野は極めて長いものだからだし、中国は日本とは違って脅しに屈するような国ではないからだ。ただ、実は米中経済はすで極めて密接な関係にあるだけに、中国を叩けば米国自身が受ける痛手も大きい。先々、そのことが両国のバトルの様相を変える可能性は残っている。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2019年11月14日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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