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低すぎる日本の名目成長率

2020/01/21
五十嵐 敬喜

2000年から18年までの間にわが国の国内総生産(GDP)は実質ベースで年率0.8%増加したが、名目ではわずか同0.2%だった。名目成長率は実質成長率を下回っているだけでなく、米国やユーロ圏と比較しても著しく低いのが現実だ。その背景は何か。

自動車だけを造っている経済を想定してみよう。いくつもある自動車会社が年間に生産する自動車の合計台数が実質GDP、それらを販売して生み出される所得が名目GDPだ。この所得を政府(税金)と家計(賃金)と自動車会社(収益)が分け合っている。ただし、分け合う前の所得はすべて自動車会社の企業活動の成果であることが肝だ。

さて生産台数は毎年0.8%増えるのに所得が0.2%ずつしか増えないのは、自動車の価格が下がり続けているからだ。これをデフレという。なぜそうなってしまうのか。

経済全体の所得が思うように増えない中で、自動車業界が自分たちの取り分を増やそうとすれば、家計の分け前を削るしかない。ただしそれをやると消費が増えず、売り上げも増えなくなる。自動車販売が生み出す所得が増えないゆえんだ。そうなると個々の自動車会社は、せめて自社の業績だけでも改善させたいと考える。やったことが「値下げ」だ。ところが皆がそちらに流れたので経済がデフレに陥ってしまったわけだ。

結局デフレとは、自動車の生産台数を増やしても所得の伸びにつなげられない自動車会社が、苦し紛れにとった値下げ策が生み出したのだ。言い換えれば「良い車」は生産できている自動車会社が、それらを「ふさわしい価格」で買ってもらう戦略で失敗を繰り返してきたのである。わが国の名目成長率をもっと高めるにはどうすればよいのか。課題は明白だろう。

(2019年12月10日日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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