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生産性を上げるということ

2020/02/14
五十嵐 敬喜

◆名目成長率が実質成長率よりも低い「名実逆転」
2000年の水準を100とした足元(19年1~9月期)の名目GDPの大きさを日・米・EUで比較すると、米国が209.2、EUが175.1であるのに対し、わが国はわずか105.4に止まっており、大きく差を付けられている。ちなみに、その間の成長率を年率で見ると、米国は4.0%、EUは3.0%だったが、日本はたった0.3%に過ぎなかった。

同じ比較を実質GDPで見ると、足元の水準は米国が145.2、EUが131.0、日本が116.7であった。日本のGDPの拡大ぶりが欧米に後れを取っていることに変わりはないが、差のつき方が名目GDPの場合ほど大きくないという印象だ。年率成長率で見ると、米国が2.0%、EUが1.4%、日本が0.8%である。

これらの数字を見てわかるのは、わが国だけが、名目GDP成長率の方が実質GDP成長率よりも低いという事実だ。「実質GDP=名目GDP/GDPデフレーター」という関係があるから、わが国だけに見られる、このいわゆる「名実逆転」現象は、この間のわが国のGDPデフレーターの上昇率がマイナスであったことを意味する。これをデフレと呼ぶわけだ。

◆数を売っても増えない所得
GDPデフレーターは総合的な物価指数だと言われているが、その上昇率がマイナスであることの意味をもう少し考えてみよう。GDPは「国内総生産」の頭文字だが、生産されたものは販売され、それを誰かが購入するし、売った方には所得が入ってくる。その意味で、「生産=購入(支出)=所得」という関係が成り立つ。経済学の教科書には、これをGDPの「3面等価」と言うと書いてある。

一方、先ほどの式を変形すると、「GDPデフレーター=名目GDP/実質GDP」だから、この式と「3面等価」から、「GDPデフレーター=名目国内総所得/実質国内総生産」と読み換えることができる。そうなるとGDPデフレーターとは、「実質生産1単位あたりの名目所得」だと理解できるわけだ。

それはどういう意味か。自動車だけを生産している経済を想定してみるとわかりやすい。GDPデフレーターとは、「自動車1台を生産し販売して得られる(生み出される)所得」のことなのだ。そして、自動車の総生産台数が実質GDPであり、それが生み出す総所得が名目GDPだ。名目GDPの増加率が実質GDPの増加率を下回っているのは、要するに自動車の販売価格が下がり続けたからだ。

重要なポイントだが、自動車が生み出す所得は自動車会社(業界)だけのものではない。その一部は税金として政府に納められ、別の一部は賃金として家計に支払われる。最後に残った部分が自動車会社(業界)の収益になるわけだ。どこの国でも、名目GDPは政府と家計と企業が分け合っているのだ。ただし、このたとえ話からわかるように、分け合う前の所得はすべてが広い意味での企業活動の成果である。その成果である所得の増加率(名目GDP成長率)が、わが国は欧米に比べても著しく低いことが不都合な真実なのである。

◆生産性を上げたら所得が増えるか
たとえ話を続けると、自動車の価格(自動車生産1台あたりの所得)が下がり続けてきたことがデフレだが、誤解してはならないのは、デフレだから「名実逆転」が起こっているのではないということだ。デフレは単に「名実逆転」現象を指す言葉であるに過ぎない。デフレは結果なのだ。何の結果かと言えば、自動車の生産台数は増やしておきながら、その販売価格を引き上げられない(毎年下げ続けてきた)自動車会社の企業活動の「残念なパフォーマンス」の結果だということだ。

今後、現役人口の減少ペースが加速していくわが国が、経済成長を持続させるためには生産性の向上が不可欠だと言われている。その通りだ。ただし、高めるべき生産性とは何か。一般には、このたとえ話に即して言えば、「1人あたり毎日、何台の自動車が生産できるか」が生産性だと理解されているが、日本の本質的な問題は、そうした生産性を高めることではない。

自動車の生産台数の伸び率(実質GDP成長率)が欧米に劣後していることは冒頭で見た通りだが、その主たる理由は、わが国だけで(生産に携わる)現役人口が減り続けてきたことだ。1人あたりの自動車の生産台数の伸びの比較で、わが国が欧米に引けを取っているわけではない。わが国の真の問題は、自動車の生産台数を増やしている割には、その結果として生み出す所得の伸びが著しく低いということなのだ。

◆「安く」ではなく「相応しい価格」で売るということ
ここ数年、デフレだから経済が低迷している(所得が増えない)のだという認識の下で、「異次元」の金融緩和政策が実行されてきた。デフレさえ克服すればうまくいくという思いがあったからだ。つまりデフレが、名目成長率が低いことの原因だと考えられてきたわけだ。しかし、その政策が失敗であったことは今や明らかだろう。

すでに述べたように、デフレは「名実逆転」を言い換えた表現であって、「名実逆転」の原因ではない。デフレは、日本の企業が、付加価値を高めて所得を増やすことに失敗し続けてきたことの結果なのだ。総じて見れば、「いいモノ、いいサービス」を生産し、供給することはできても、需要者(消費者)に、納得の上で「相応しい価格」で購入してもらうことができてこなかったのだ。「より安い価格」の提供は、それで市場が席巻できるならいいだろうが、自らのマーケットシェアを多少拡大する程度に留まってしまうようでは、所得の増加につながらないのだ。

グローバルに見ると、恐らくモノの価格は常に下がりがちだと言えるだろう。サービス経済化が進展する中で、モノの生産においても、ブランドやサービスの付加価値を加えることで「相応しい価格」を引き上げるといった工夫が必要だろう。よく言われる日本の企業の「プレゼン下手」も、「マーケティング力不足」と言い換えることができるのではないか。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2020年1月17日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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